疑心暗鬼

ダウンタウンさんとわずかに繋がったけれど—第一章 博多温泉劇場

向こう一年間、博多温泉劇場で隔月で開催される「吉本新喜劇&バラエティーショー」。その「出演者兼スタッフ兼雑用係」として、いよいよ本格的な芸人活動を始めた博多華丸・大吉。憧れのダウンタウンさんと同期の先輩を始め、次々やってくる大阪の芸人さん。これから一ヶ月間、公演と共同生活をする先輩たちを前に、今までにない武者震いを覚える若き大吉青年。期待と緊張は高まるのですが……。

 初めて入った、博多温泉劇場の楽屋。
 後に僕たち福岡芸人が寝泊まりする通称3号楽屋の畳の上に、ひとりの女性が座っていた。

 この人は誰だろう?
 僕の頭に浮かんだクエスチョンの真横を通って、何の躊躇もなく吉田さんが声をかける。

「なんや、早かったな」

「あ、おはようございます!」

「おはよう。どないしてん?」

「私だけ新幹線で来たんです。途中であの人の車が潰れたんで」

「えーっ! 潰れたんか!?」

「途中でめっちゃ、煙出たんですよ。ボンネットから!」

「相変わらず、お前らついてないなあ」

「ホンマですよ!」

 吉田さんとの会話を聞く限り、どうやら顔見知りのようだった。
 僕たちより少しだけ年上に見える、なかなかの美人……かどうかは微妙かもしれないが、間違いなく男好きするタイプの可愛らしい女性。
 この人から発せられる関西弁は、やけに楽屋の畳とマッチしていて妙に艶めかしく、僕はちょっとだけドキドキしながらふたりのやりとりを目で追いかけた。

「えーっと………この子たちは……」

「あ、こいつらは福岡の芸人やで」

「え? この前いましたっけ?」

「あれから増えたんや」

「ホンマですか~」

 こちらに向き直した吉田さんが、無言で僕たちに自己紹介をうながす。

「おはようございます! 華丸です!」
「おはようございます! 大吉です!」

 覚え立ての業界用語。
 挨拶は24時間「おはようございます」という決まりを駆使しての自己紹介。
 他のメンバーは買い出しに行ってからの合流だったので、総勢2名の先発隊は僕らしかいなかった。

「おはよう。はなまるくんと……だいきちくん?」

「そう、俺が名付けたんや」

「また吉田さんが決めはったんですか?」

「ええ名前やろ?」

「ター坊ケン坊とかコンバットとか……福岡どないなってますの?」

「オモロイやんか!」

「アハハ……むちゃくちゃですやん!」

 その女性が屈託なく笑ったので、吉田さんもご満悦だった。
 僕たちも自然と笑みがこぼれたが、どうやら関西人にとっても華丸大吉という名前は変なんだという反応は、やっぱり少しだけショックだった。

「紹介するわ、ミキや」
「あ、はじめまして、新喜劇のミキです。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
「なあ、お前たちミキっていくつに見える?」

 急に始まった年齢当てクイズ。
 スナックなら適当に聞き流すところだが、僕は興味津々だった。
 このミキさんって、ホントにいくつなんだろう?


「若く見えるかもしれんけど、だいぶ先輩やで」
「そこまで先輩じゃないですって!」
「だってこいつら、NSCなら9期生やで」

 吉本が運営する芸人養成所、通称NSC。
 現在は大阪と東京、そして沖縄にあるのだが、当時は大阪にだけあった。
 そして当時の慣習では、僕たちのような1990年に吉本の門を叩いた者は全員が、NSC9期生と同等のキャリアスタートという認識だったのだ。

「ミキはNSCの1期生やからな」
「ええ~っ!!」

 僕は思わず声をあげて驚いた。
 横でサロンも、いや華丸も、普段から大きな目を更に大きく見開いて驚いている。
 それはミキさんが若く見えすぎたということと、NSC1期生というダブルの衝撃からだった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
疑心暗鬼

博多大吉

「どうして芸人になろうと思ったんですか?」一番多く投げかけられたこの質問に、いつも心の中で聞き返す。「どうしてみんな、芸人になろうと思わなかったんですか?」ーー時はバブルまっただ中。福岡の片隅で、時代の高揚感に背中を押された少年が抱い...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

ksgk_star @ksgk_star |疑心暗鬼|博多大吉|cakes(ケイクス) https://t.co/ErkaSM4xAe 2年弱前 replyretweetfavorite

millie_lanfrnc [今日から3日間無料] 4年弱前 replyretweetfavorite

marunagesan 現実味を帯びているようでまだあやふやなそれは、遠い灯台の灯りのような。 4年弱前 replyretweetfavorite

gosyd 博多大吉は情感溢れる文章がうますぎるhttps://t.co/O1DiSrhz7g 4年弱前 replyretweetfavorite