第53回】欺瞞に満ちたEUの構造を浮き彫りにする「極右政党」の台頭

反EU派の票を伸ばしたEU議会の選挙。ドイツの新聞も日本の新聞もこの結果に対して「極右」と報道しているが、はたしてこの結果を「極右」という言葉で十把一絡げしていいものなのか。イギリスはイギリスのための、フランスはフランスのための、ドイツはドイツのための政治をという主張が無理もないと思えるほど現在のヨーロッパはほころび始めている……EU議会選挙に見たヨーロッパの今を川口マーン恵美さんがお届けします。


フランス「国民戦線」党首のマリーヌ・ル・ペン氏

EU懐疑派が大躍進した議会選挙

EU議会の選挙が終わった。それぞれの国情に合わせて、22日から25日までの間に投票が行われた。まず、第一陣として投票結果の出たオランダでは、台頭が予想されていた反EUを標榜する右翼政党がそれほど伸びなかったので、「アレッ?」という感じだった。ところが、その後、投票が進むにつれ、EU懐疑派はやはり大躍進したのである。

フランスの「国民戦線」とイギリスの「イギリス独立党」は、それぞれの国内で第一党となり、ドイツのAfD「ドイツのためのもう一つの選択」は、新生の党であるのに7%もの票を得て、古参の緑の党や左派党に迫った。

EU各国に散らばるこれらのEU懐疑派政党を、ドイツの新聞も日本の新聞も、こぞって「極右」と書いているが、しかし、はたしてこれらを極右という言葉で十把一絡げにしてよいものか?

たとえば、次期のEU議会に議員を1名送り込むことになるドイツのNPDなら、おそらく極右の名にふさわしいだろう。この政党は、陰に陽にヒトラーを賛美しており、数年前、党の存在自体が違憲であるとして訴えられた経歴を持つ。

その結果、判決は無罪で、党の存在は認められたものの、同党は今でも当局の監視を受けている。民主主義にとって危険思想の持ち主の集団と見做されているのだ。

しかし、今回、フランスやイギリスで躍進した政党は、憲法を遵守しているし、これからも遵守するだろう。敢えて言うなら右派急進派ではないか。いずれにしても、彼らが民主主義を崩そうとしているとは思えない。

ドイツのAfDに至っては、元CDU(現在の最大与党・中道保守・党首はメルケル首相)に所属していた党員も多い。CDUがあまりにも左に寄り過ぎたことに不満を持っていた人たちが、居所を見つけたという感じだ。

目下のところ、ドイツのメディアは、彼らがあたかもナチであるように書きたてているが、それは違うだろう。頑固な保守で、もちろん右翼に陣取るが、良識の範囲をそれほど逸脱しているとは思えない。

だからこそCDUは、有権者がさらに大量にAfDに逃げることを警戒している。AfDは大きなミスを犯したり、仲間割れをしない限り、ここ数年の間に、普通の党として定着するのではないか。そうなれば、将来は、メディアももう少し口を慎むだろう。

「ヨーロッパは一つ」は本当に良いことなのか

今回、票を伸ばした党が、なぜ物議を醸しているかというと、彼らの主張の共通点が、おしなべて反EUであるからだ。彼らは、「我々ヨーロッパ」という認識に限界を感じ、これ以上の無理な統合を押しとどめようとしている。

簡単に言うなら、イギリスはイギリス人のために、フランスはフランス人のために、そして、ドイツはドイツの国民のために政治をしていきましょう、という主張だ。

彼らがそう思うのも無理はないほど、ヨーロッパはほころび始めている。まず、EU内で貧富の差が広がり過ぎて、貧しいEU国から豊かなEU国への人間の移動が止まらない。EUの売りは、「人、物、お金、サービスの自由な移動」なので、原則として、EU内ならどこに移動しても、どこで住んでも、どこで働いてもよい。これが、「ヨーロッパは一つ」の所以だが、今、これは本当に良いことなのかという疑問が膨らみ始めている。

たとえば、ドイツでは介護士は東欧の女性が圧倒的に多い。労働力の足りない職種に外国人が入るのは良いことのようだが、言い換えれば、ドイツ人は、重労働で自分たちがやりたくない仕事を、低賃金で貧しい外国人に押し付けているともいえる。

貧しい国では、居残った人々が、ドイツにいる親族の送金で暮らす。これは、一昔前、ドイツがイタリアやポルトガルやトルコなど、多くの出稼ぎ労働者を使って経済復興を果たしたときの構造とまるで同じだ。

当時、それによって、ドイツ国内の多くの職種が外国人専用の職種のようになっていった。そして、奇跡の経済成長が終わり、景気が後退し、次第にドイツ人の失業者が増えてきても、外国人の手に移ってしまった職種には、ドイツ人は二度と就こうとしなかったのである。今後、同じことが起これば、いずれドイツの介護士も、外国人の職種になっていくだろう。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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