いいもの見た!」はナニでできてる?—ユーザーエクスペリエンス【前編】

バスキュールPARTYが主催する学校BAPA(バパ)。デザインとテクノロジーの知識を兼ね備える、次世代型クリエイターの育成を目指す学校です。始業式が終わり、いよいよ、第一線で活躍する講師たちの講義が始まります。今回のテーマは「ユーザーエクスペリエンス」。インタラクティブな作品を制作するときのキーとなるこのコンセプトを、講師たちはどう伝えていくのでしょうか。前編は、200以上の国内外の受賞歴があり、アワードの審査員も多く務めるPARTYの中村洋基さんが「なにかいいものを見たぞ」の正体を解き明かします。

卒業制作で「外国人に『Fantastic! SHIBUYA!』と言ってもらう作品」をつくることになった、30名のBAPA第1期生。そんな彼らに、今回は「ユーザーエクスペリエンス」というテーマで、PARTYの中村洋基さん、バスキュールの馬場鑑平さん・原ノブオさんの3人が講義をします。

「問題と解決」、「驚きと納得」でいい体験をつくりだす


中村洋基(なかむら・ひろき/PARTYクリエイティブディレクター)
1979年、栃木県生まれ。2002年、電通に入社。ゲームができるバナー広告などで注目を集め、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍。ウェブの技術と広告アイデアを組み合わせ、ユニークな作品を次々と世に送り出す。2011年、4人のメンバーと共にPARTYを設立。200以上の国内外の受賞歴があり、アワードの審査員も多く務める。
【主な作品】GAGADOLLTOYOTA FV2

 ユーザーエクスペリエンスとは、「見る人・触れる人が何を体験するか」ということです。前回、BAPAでつくる作品の全体テーマは「Be Interactive!」だという発表がありました。みなさんがつくるものは、必ずユーザーの体験が込みになるということです。それを良くするために、どう考えるべきかという話をします。

 いいユーザーエクスペリエンスを考えるために、まずは簡単にできることがあります。それは、映像でもサービスでもなんでもいいので、自分自身が実感した「いい体験」をリファレンス(参照元)として集めておくこと。自分で集めた「いい体験」のリストは、アイデアのもとになりますし、打ち合わせなどで具体例としてイメージが共有しやすいです。また、その体験が「なぜ良いのか」を言語化する訓練をしておくと、思考が深まり、説明がうまくなります。

 さて、今日は2つのキーワードを用意しました。「問題と解決」。そして、「驚きと納得」。これ、大事なところなのでよかったらメモしてくださいね(笑)。

 まず、「問題と解決」から説明します。これはどういうことかというと、単純に、まず問題を設定するんです。うまくいってないことが解決されて世のため人のためになった、というものを見ると、人はその作品に存在意義を感じます。「なにかいいものを見たぞ」という気持ちになるんです。それはCMでも現代アートでもそうです。いくつか例をお見せします。


Coca-Cola Small World Machines - Bringing India & Pakistan Together

 コカ・コーラが設置した「スモール ワールド マシン」というのは、インドとパキスタンのの国民がお互いを見ながら同じジェスチャーをしたりすると、コカ・コーラが出てくるというベンダーマシンです。これって、技術的には難しくないんですけど、隣同士でずっと紛争している、仲の悪いインドとパキスタンの国民が友好的なコミュニケーションをとるという意味性が備わったときに、「ああ、いいことしてるな」というふうに見えます。


PARTY Backseat Driver

 若者のクルマ離れの解決策として、子どものうちからTOYOTAを好きになってもらおうとつくったアプリです。GPSで位置情報を取得して、いま乗っている車と同じ道をスマホのゲームで運転できます。内容はただのドライビングゲーム。でも、「後部座席で子どもがお父さん・おかあさんと同じように運転できちゃう」って説明すると、不可能が可能になった気がしませんか。

「問題と解決」の問題は、大きな社会問題なんかじゃなくてもいいんです。これができたらいいな、という身近なものでいい。

 さて、次は「驚きと納得」の話です。 コンテンツを体験したときに、はっとするような驚きがどこかにあり、「そういうことか」と納得する。この2つがあると、人はいいものを見た気になります。ここで、私が20代の頃につくったバナー広告を紹介します。バナー広告というのは、この2つをぎゅっと凝縮してつくることが多いんです。


「ターミネーター3」DVDのバナー
ID:interactive, PW:salaryman

 バナーがドアのかたちをしています。で、マウスを乗せると手のカーソルになるので、クリックすると、

「トトン」「トントトン」

こうやってノックの音が返ってくるので、またクリックすると……

「トトン トントトン」「ダダン ダンダダン “I'll be back.”」

(会場笑)

 バカバカしいでしょ? でも「ああ、そういうことだったんだ」って納得しますよね。


「ドライバーズ・アイ」公共広告機構
ID:interactive, PW:salaryman

 バナーのハンドルの画像の上にマウスを乗っけると、手のカーソルになって握ることができる。で、おもしろいなーなんて動かしてると、ピピピピと携帯の着信音が聞こえてきます。思わず、携帯の画像がある右下の方にマウスをずらすと……(ガシャンと割れた画面に)。

「運転中のケータイは無視してください。改めて心に刻んでください」というコピーが出る。こうやって事故にあいますよ、というオチです。
※『Web Designing』2013年11月号 特集2:僕らが「中村洋基」になるための方法
「中村洋基さんが手がけたバナー・サイト集」より

 あと、これは僕が「好きなサイトはなんですか?」と聞かれたときに、いつも答えているサイトです。


Life Switch

 人生を切り替えられるサイトです。生まれ変わりたい国や地域、どんな家に住みたいか、家族構成はどうするかなど、細かく決めてボタンを押すと、自分の違う人生を見せてくれる。適当にアフリカの知らない国を選んで……はい、どうでしょう。いきなりpoorest country in the earthなどと言われて、この国に生まれたら、どんな選択肢を選んでもひどい人生が待っているという衝撃的な結末が(笑)。そして、募金をしてねというメッセージが出てくる。

 これ、すごくいいですよね。こういうのやりたいな、と思っています。

 最後に、このAppleのCM。有名だから、見たことある人も多いはずです。


「Misunderstood」AppleCM

 クリスマスシーズンのある家族の楽しそうなバケーション風景が映っているのですが、お兄ちゃんだけずっとiPhoneをいじっています。そして、クリスマス当日。おもむろにお兄ちゃんが、iPhoneで撮った映像を編集してプレゼントし、家族みんなが感動する。ひとことも説明せずに、iPhoneの機能とその価値を伝えています。これはかなり高等テクニックです。

 このように、驚きと納得の「納得」に当たる部分は、くどくど説明するよりも、ユーザーに委ねて解釈してもらうほうが、よりおしゃれで(笑)、より深く感じ入ってもらえます。

 これらの作品について、「驚きと納得」、「問題と解決」がそれぞれ何にあたるのか、ちょっと考えてみてください。そして、僕が紹介した作品にはもう2つ共通することがあるんです。それは、なにか問題があったとき、それを「テクノロジー」で解決しているということです。そして、「驚き」の部分をインタラクションでつくり出していること。世の中でおもしろいと思うコンテンツを見返してみると、びっくりするほどこういう構造になっていることに気づくはずです。

(次回、6/6更新予定)

構成 崎谷実穂、写真 PARTY & 崎谷実穂

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デザインとプログラミング。両方のスキルを兼ね備える、次世代型スーパークリエイターの育成を目指す学校ができました。“Both Art and Programming Academy”、その名もBAPA(バパ)! デザインや広告などのクリ...もっと読む

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コメント

tak_oka こんな記事がフリーで落ちてるなんて日本はマジで恵まれてるよね。 3年以上前 replyretweetfavorite

sagaraKUN めちゃめちゃいい記事じゃないですか! 3年以上前 replyretweetfavorite

pharuki クリエイティブってこういうことかという納得。「驚きと納得」、「問題と解決」 3年以上前 replyretweetfavorite