武田砂鉄
「
テラスハウス」の正しい論じ方
「台本はいっさいありません」と謳うテラスハウス。一方でヤラセ、プロデューサーによる指示、さらにはセクハラなど、それらの「ある・なし」が週刊誌などで議論させています。朝から夜まで何台ものカメラに囲まれたイレギュラーな環境に身を置いた人間が果たしてどこまで素の会話、対応が取れるのでしょうか。テラスハウスという最高に不自然な環境が映し出す人間のリアリティとは……。
引越当日にやって来たケーブルテレビの青年が教えてくれたこと
私事から入るが、「テラスハウス」の骨組みをそれなりに噛み砕くための具材となるので、しばしお付き合い願いたい。先週の頭に引越をした。引越先に着くと、着時間を指定していた家具が届き始めたり、管理人がマンション住民用の駐輪シールを配りに来たりする。続いてケーブルテレビの設定に来た青年は「すみません、設定に30分ほどお時間をいただきます。お気になさらずに……」とリビングで工具を広げる。さっさと最低限の荷物を解いておきたい私と妻は、彼の前で、この皿はどこ、この置物は捨てるんじゃなかったっけと、荷解きを進めていく。いろんな凹と凸をペンチ的なものでくっ付けている彼の前で、ふと、自分たちの会話がいつもより少しだけかしこまっていることに気付く。
「お隣さんに挨拶するのは何時くらいがいいのかな」「そうだね、今日は平日だから、夜の8時くらいがいいかも」。普段なら「どうする隣」「ん?」「挨拶」「うん」「旦那ってどんくらい」「8時くらいじゃないの」「じゃまぁ」。会話の数は後者の方が多いし、会話としての通りも悪いのだが、後者の方が消費カロリーは少ない。なぜならそれが、いつもの会話だからだ。知らない人が自分の会話を確実に聞いている、という環境下では、自然と会話がかしこまっていく。まるで初級英語の例文のように、会話が途端に起承転結を持つのだ。
「あなたのタイミングでどうぞ」は、あなたのタイミングではない
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この連載について
武田砂鉄
365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む
著者プロフィール
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。
Twitter:@takedasatetsu