第78回 一般には、一般には(後編)

「ふうん……君は、この式を知らないのか?」とミルカさんは言った。
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第77回の続き)

$ \newcommand{\LBR}{\left\{} \newcommand{\RBR}{\right\}} \newcommand{\EPT}{e^{\theta}} \newcommand{\EMT}{e^{-\theta}} \newcommand{\EP}{e^{x}} \newcommand{\EM}{e^{-x}} \newcommand{\EPP}{e^{2x}} \newcommand{\EMM}{e^{-2x}} \newcommand{\EPPPP}{e^{4x}} \newcommand{\EMMMM}{e^{-4x}} \newcommand{\EPMplus}{\EP + \EM} \newcommand{\EPMminus}{\EP - \EM} \newcommand{\EPMplusT}{\EPT + \EMT} \newcommand{\EPMminusT}{\EPT - \EMT} \newcommand{\EPPMMplus}{\EPP + \EMM} \newcommand{\EPPMMminus}{\EPP - \EMM} \newcommand{\OTplus}{1 + T(x)} \newcommand{\OTminus}{1 - T(x)} \newcommand{\OTplusPAR}{\left(\OTplus\right)} \newcommand{\OTminusPAR}{\left(\OTminus\right)} $

の教室で

テトラちゃんが $e^x$ の冪級数展開についておしゃべりした次の日の放課後。
教室でカバンを片付け、 そろそろ図書室に行こうかなと思っていると、ミルカさんがやってきた。 ミルカさんのクラスメート。数学が得意な才媛である。

ミルカ「まだいたのか」

「これから図書室に行こうと思ってたんだよ。ミルカさんは?」

ミルカ「村木先生から《カード》をもらってきた」

村木先生のカード
実数全体を定義域とする関数 $T(x)$ を以下のように定義する。
$$ T(x) = \dfrac{\EPMminus}{\EPMplus} $$
このとき、 $T(2x)$ を $T(x)$ で表せ。ただし $e$ は自然対数の底とする。

「指数関数を組み合わせて $T(x)$ を作って……」

ミルカ「ふむ」

「村木先生にしてはめずらしいね」

ミルカ「なにが」

「普通の計算問題をミルカさんに渡してきたってことだよ」

ミルカ「そう?」

「うん、だってこれなら問題集にも出てきそうな《力わざ》の計算だよね」

ミルカ「そうもいえる」

「解いてもいい?」

ミルカ「好きに」

教室にはミルカさんしかいない。 黒板に向かい、は問題を解き始めた。 ミルカさんは最前席で机に腰掛け、足を組む。

「やることは明確だよね。関数 $T(2x)$ を $T(x)$ で表せばいいんだから。だから、 $T(2x) = \text{《$ T(x) $の式》}$ という形を作ることになる」

ミルカ「ふむ」

「そして関数 $T(x)$ は問題文で定義されている。だから、あとは、いかに効率的に式変形をしていくかだから……うん、きっとこうだね。 鍵は指数関数の $\EP$ 部分にある。そこに注目して $T(x)$ を変形してみるよ」

ミルカ「……」

の板書1》
$$ \begin{align*} T(x) &= \dfrac{\EPMminus}{\EPMplus} && \text{関数 $T(x)$ の定義から} \\ &= \dfrac{\EP\EP - \EP\EM}{\EP\EP + \EP\EM} && \text{分子分母に $\EP$ を掛けた} \\ &= \dfrac{\EPP - 1}{\EPP + 1} && \text{指数法則から $\EP\EP = \EPP, \EP\EM=1$ } \\ \end{align*} $$

「ここまでで $T(x) = \dfrac{\EPP - 1}{\EPP + 1}$ が得られた。うん、いい感じだよね。 $T(2x)$ には $\EPP$ が出てくるから、これでうまくつながるね。 きっと、 $\EPP = \text{《$ T(x) $の式》}$ という形を作ればいいはず!」

ミルカ「ふむ」

の板書2》
$$ \begin{align*} T(x) &= \dfrac{\EPP - 1}{\EPP + 1} && \text{板書1から} \\ T(x) \cdot \left( \EPP + 1 \right) &= \EPP - 1 && \text{両辺に $\EPP + 1$ を掛けて分母を払う} \\ T(x) \cdot \EPP + T(x) &= \EPP - 1 && \text{左辺を展開した} \\ T(x) \cdot \EPP - \EPP &= - 1 - T(x) && \text{ $\EPP$ を左辺に移項し、 $T(x)$ を右辺に移項} \\ \EPP \cdot \left(T(x) - 1 \right) &= -1 - T(x) && \text{ $\EPP$ でくくった} \\ \EPP &= \dfrac{- 1 - T(x)}{T(x) - 1} && \text{両辺を $T(x) - 1$ で割った} \\ \EPP &= \dfrac{1 + T(x)}{1 - T(x)} && \text{分子分母に $-1$ を掛けて整理} \\ \end{align*} $$

「ここまでで $\EPP = \dfrac{1+T(x)}{1-T(x)}$ が得られた。順調に $\EPP = \text{《$ T(x) $の式》}$ になったよね」

ミルカ「そして順調に減点だな」

「え? どこか違ってた?」

ミルカ「君は式変形の途中で $T(x) - 1$ で割ったようだが」

「割ったけど……おっと! 《ゼロ割》の危険性か!」

ミルカ「そう」

「確かに……ええと、 $T(x) - 1$ が $0$ に等しくなることはあるか《要確認》だね。もしそうなる $x$ があれば条件がそこで加わってしまう」

《要確認》
実数全体を定義域とする関数 $T(x)$ を以下のように定義する。
$$ T(x) = \dfrac{\EPMminus}{\EPMplus} $$
このとき、 $T(x) - 1 = 0$ を満たす実数 $x$ は存在するか。

ミルカ「まあこれはすぐにわかるが」

「そうかなあ」

ミルカ「これこそ計算問題」

「……あ、そうだね。単に式を書いてみればいいだけか」

の板書3》(《要確認》を考える)
$$ \begin{align*} T(x) - 1 &= \dfrac{\EPMminus}{\EPMplus} - 1 && \text{ $T(x)$ の定義から} \\ &= \dfrac{\EPP - 1}{\EPP + 1} - 1 && \text{板書1から} \\ &= \dfrac{\EPP - 1}{\EPP + 1} - \dfrac{\EPP + 1}{\EPP + 1} && \textbf{通分} \\ &= \dfrac{\EPP - 1 - (\EPP + 1)}{\EPP + 1} && \textbf{引き算} \\ &= \dfrac{-2}{\EPP + 1} && \text{計算した} \\ \end{align*} $$
分子が $-2$ だから、この式は $0$ にならない。 よって、どんな実数 $x$ に対しても $T(x) - 1 \neq 0$ がいえた。
《要確認》の答え
$T(x) - 1 = 0$ を満たす実数 $x$ は存在しない。

ミルカ「ふむ」

「だから $T(x) - 1$ は $0$ に等しくなることはない。だから、安心して割り算していい」

ミルカ「では、先に進もう」

「えっと、 $\EPP = \text{《$ T(x) $の式》}$ まで来たんだよね。この式が成り立つ」

$$ \EPP = \dfrac{1 + T(x)}{1 - T(x)} \qquad \text{板書2から} \\ $$

ミルカ「……」

「村木先生のカードでは、 $T(2x)$ を $T(x)$ で表すんだから、 $T(2x)$ に出てくる $\EPP$ の部分を $\dfrac{1 + T(x)}{1 - T(x)}$ で置き換えればおしまいになる」

ミルカ「急ごう」

「はいはい」

の板書4》( $T(2x)$ を $T(x)$ で表す)
$$ \begin{align*} T(x) &= \dfrac{\EPMminus}{\EPMplus} && \text{板書1から} \\ T(2x) &= \dfrac{\EPPMMminus}{\EPPMMplus} && \text{上の式の $x$ を $2x$ に変えた} \\ \end{align*} $$
上の式の右辺を $T(x)$ で書くのが目標だ。
$\EMM$ は $\EPP$ の逆数だから、次の二式が成り立つ。
$$ \left\{\begin{array}{llll} \EPP &= \dfrac{1 + T(x)}{1 - T(x)} && \text{板書2から} \\ \EMM &= \dfrac{1 - T(x)}{1 + T(x)} && \text{上の逆数} \\ \end{array}\right. $$
ここまでで準備ができた。 $T(2x)$ の分子と分母を順番に計算する。
$$ \begin{align*} & \text{《 $T(2x)$ の分子》} \\ &= \EPPMMminus \\ &= \dfrac{\OTplus}{\OTminus} - \dfrac{\OTminus}{\OTplus} \\ &= \dfrac{\OTplusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} - \dfrac{\OTminusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} && \text{通分} \\ &= \dfrac{\OTplusPAR^2 - \OTminusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} \\ &= \dfrac{4T(x)}{\OTplusPAR\OTminusPAR} && \text{計算した} \\ \end{align*} $$
$$ \begin{align*} & \text{《 $T(2x)$ の分母》} \\ &= \EPPMMplus \\ &= \dfrac{\OTplus}{\OTminus} + \dfrac{\OTminus}{\OTplus} \\ &= \dfrac{\OTplusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} + \dfrac{\OTminusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} && \text{通分} \\ &= \dfrac{\OTplusPAR^2 + \OTminusPAR^2}{\OTplusPAR\OTminusPAR} \\ &= \dfrac{2\left(1 + T(x)^2\right)}{\OTplusPAR\OTminusPAR} && \text{計算した} \\ \end{align*} $$

「 $\OTplusPAR\OTminusPAR$ は《 $T(2x)$ の分子》と《 $T(2x)$ の分母》で共通だから、約分で消える。《 $T(2x)$ の分子》は $4T(x)$ で、 《 $T(2x)$ の分母》は $2\left(1 + T(x)^2\right)$ になる。さらに $2$ で約分して…… うん、結局これが答えかな」

村木先生のカード(解答)
$$ T(2x) = \dfrac{2T(x)}{1 + T(x)^2} $$

ミルカ「そうだね。ちゃんと出てきた」

「出てきたって、何が?」

ミルカ《倍角公式》だよ」

「倍角公式?」

ミルカさんは何を言ってるんだろう。
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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

lighty_karume 双曲線関数面白いなあ!公式作ったり、グラフをかいたり、いろいろ見える!複素関数やりたくなるね!「さすがおにーちゃん」笑 4年弱前 replyretweetfavorite

johnta_pm ハイパボリック物理でもててくる!| 4年弱前 replyretweetfavorite

ECpeto  「僕」がsinhとかcoshとか知らない訳ないと思うんだけどなあ 笑 4年弱前 replyretweetfavorite

36_Kr 他にも,1/(n^2 + a^2) (a > 0)のn =-∞〜∞の和が(π/a) (tanh(πa))^(-1)になったりとか。双曲線関数が出てくる。 4年弱前 replyretweetfavorite