BAPAの生徒が挑むべきテーマは……!?
卒業制作として、外国人に「Fantastic! SHIBUYA!」と言ってもらう作品をつくることが決まった生徒たち。
渋谷という街の特徴や再開発の目的をふまえ「いつも動いていて、いつも新しいことが始まっている渋谷」を作品で表現する、というミッションが与えられました。
そこで、校長の伊藤直樹さんからは、BAPAの生徒がつくる作品のテーマが発表されました。
“BE INTERACTIVE!”
インタラクティブであることがデジタルの最大の持ち味。アートとテクノロジーを学ぶBAPAの生徒は、インタラクティブな作品をつくることを宿命づけられているのです。
そして、実際に課題を考える前に、校長2人からヒントが出されました。
伊藤直樹 興味深いアンケート調査があります。「世界で最もクリエイティブな都市はどこか?」と聞くと、世界のクリエイターは、TOKYOと答え、東京の人はニューヨークやロンドンと答えるんです。
東京の人、ひいては日本人は自信がないんですね。でも、僕も世界のいろいろな街に行ったことがありますが、東京が一番クリエイティブなんじゃないかと思います。日本人はもっと日本の魅力に自信をもっていい。
ここで質問です。外国人が今一番行きたい日本の観光スポットはどこだと思いますか。秋葉原? スカイツリー? 浅草? 違います。「ロボットレストラン」です。これはどういうことなのでしょうか。
英会話の先生と、先日この問題について話しました。その結果行き着いたのは、日本の魅力は“Weird & Wonderful”(変で素晴らしい)ところだという結論です。
イギリスのあるデザインアワードで“Weird & Wonderful”部門というのがあります。PARTYのメンバーである中村洋基くんや僕もとったことがある賞なのですが、この部門、日本が強いんですよ。それはきっと、日本そのものが“Weird & Wonderful”だからなんです。
枕草子に出てくる「いとおかし」という言葉がありますよね。あの「おかし」は「おかしい、変だ」という意味と「すばらしい」という意味のダブルミーニングになっています。平安時代から“Weird & Wonderful”の概念が日本に培われてきたんですね。こういう分析をした上で、課題を考えてみてほしいと思います。
とはいえ、一番大事なのは自分の経験です。客観的に外国人から見たTOKYOと、自分が実際行って感じた渋谷を、行き来しながら考えてみてください。
朴正義 みなさんのなかには、実際に広告系のお仕事をしている方がいますよね。こんな風に聞いただけでワクワクするプロジェクトって、なかなかないんじゃないでしょうか。しかもそれが上司から降りてくるのではなく、自分で直接ブリーフィング(案件の趣旨説明)を聞いて企画を考えられる。
こんなに素晴らしいプロジェクトをBAPAの課題にさせてもらえて、うれしい限りです。
さて、先ほど、自分が入力装置としてどんな入力をしているか意識してほしい、という話をしました。みなさんはこのブリーフィングで、どんな情報が気になりましたか?
僕はまず「いつも動いていて、いつも新しいことが始まっている渋谷」を、どう表現しようかと考えました。常に動いている状態の作品をつくるには、常に入力されるデータがあるといいですよね。ということは、そういうデータを東急電鉄さんから提供してもらえないかな、と。
例えば、監視カメラのデータとか……これは冗談ですけどね(笑)。それ以外にも、渋谷って毎日何人くらいの乗降客がいるんでしょうか? (クライアントから約300万人という答え)いまやその300万人の動きも、何らかのかたちでデータが取れる時代ですよね。そういうことを材料に使うとおもしろくなるんじゃないか。そういったデータが入力され続ければ、展示期間の後もコンテンツが生き続けます。
このように僕はブリーフィングの場で、より大きな情報や素材を提供してもらえるようなコミュニケーションをとっています。
実際の案件ではメンバーに対し、作品ができてきた段階のミーティングで「ブリーフィングをちゃんと聞いてなかっただろう!」と指摘することも多いんですよ。君たちはそうならないよう、聞きたいことはこの場でクライアントにちゃんと聞いてほしいですね。ここで、入力の解像度をできるだけ上げてください。いろいろな視点で見たり、後々使える素材を仕入れておくというのが、プロジェクトの初期には大切だと思います。
質問をしたら他の人のヒントになってしまうと思う人もいるかもしれませんが、そんなケチくさいことは考えないで。長年仕事をしていて思うけれど、アイデアは先に言ったもの勝ちなんですよ。
ワークショップ
質問タイムのあとは、90分間のワークショップです。
30人を6人一組のチームに分け、A〜Eのチームをつくります。
それぞれのチームで大きな紙を机に広げ、アイデアを出し合います。途中からはバスキュールやPARTYの社員も入って、一緒に考えました。
90分間のシンキングタイムが終わると、全チームが前に出て、大きな模造紙を使いながら発表します。持ち時間は3分。
渋谷のスクランブル交差点を歩く人のデータをもとにしたアート作品、東京名物(?)の満員電車をエンターテインメント化する「スクランブルディスコ」、ハチ公をモチーフにしたリード型観光デバイスなどの案が出ました。
全体講評
発表の後は、ブレーンストーミングに参加した講師陣から講評がありました。今回の企画だけでなく、今後、課題を考えていく上でのヒントがいろいろ詰まっており、生徒たちは興味深く耳を傾けていました。
伊藤直樹 僕の場合はアウトプットのかたちよりも、ざっくりとした問題意識からアイデアを出し合うのが好きです。みなさんもたくさん意見を出しあって、ブレーンストーミング自体をインタラクティブにするといいじゃないかと思います。また、実際にかたちにしていく時は、類似サービス・作品がないか調べてから進めましょう。
朴正義 企画を考えるときの“身だしなみ”として、自分の中にハードルを持っていたほうがいいと思います。今回の課題だと、自分がもし他の世界の都市でそれをやると言われたら、見に行くかどうか。また、1回だけでなく、何度も見に行きたくなるかどうか。そういうことを考えてみてください。
中村洋基(なかむら・ひろき/PARTYクリエイティブディレクター)
1979年、栃木県生まれ。2002年、電通に入社。ゲームができるバナー広告などで注目を集め、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍。ウェブの技術と広告アイデアを組み合わせ、ユニークな作品を次々と世に送り出す。2011年、4人のメンバーと共にPARTYを設立。200以上の国内外の受賞歴があり、アワードの審査員も多く務める。
【主な作品】GAGADOLL、TOYOTA FV2
中村洋基 今回のブレーンストーミングとプレゼンテーションは、ぶっちゃけて言えば半分お遊びです。電通や博報堂のインターンシップだと、この2つを繰り返して、アイデアの出し方や企画の立て方を研ぎ澄ませていくんですよね。
実際の仕事でも、最初はこのような感じでブレーンストーミングから始めます。でも、BAPAが最終的に目指しているのは、アウトプット。作品をつくることです。次回からは、メンバーのスキルをふまえて、アウトプットを詰めて考えてほしい。
視点として持っておいたほうがいいのは、最終的にクライアントが『これやりたい!』と思うかどうかです。プレゼンしたときに、これなら外国人がたくさん来そうだ、と思ってもらえるかどうか。それは、アイデア自体がおもしろいものでも、アウトプットの精度が高くて『かっこいい! これを見に行きたい!』と思うもの、どちらでもいいと思います。
馬場鑑平(ばば・かんぺい/バスキュール クリエイティブ・ディレクター)
1976年、大分生まれ。2002年、バスキュールに入社。ウェブの技術力を活かし、インタラクティブコンテンツを中心に、教育、アート、広告などさまざまなジャンルで作品を生み出している。
【主な作品】TOKYO CITY SYMPHONY(森ビル株式会社)、Space Balloon Project (日本サムスン株式会社) 、最新事例 TOYOTA DRIVE GO ROUND
馬場鑑平 まず僕なら、“Fantastic!SHIBUYA!”とは何なのかを自分なりにはっきりさせます。そして、それは自分たちの持っている力だと、こういうかたちに落とし込めるのではないか、という道筋で考えていきます。今回は即席のチームなので、そこまでやるのは大変かもしれないけれど、がんばってください。
原ノブオ(はら・のぶお/バスキュール クリエイティブ・ディレクター)
20代前半は音楽に没頭。酒問屋の配送の仕事についた後、1年かけて猛勉強し、ウェブのクリエイティブの世界へ。フリーで活動した後、2004年からバスキュールに参加。Flashディベロッパー、ディレクターを経て、現在はクリエイティブ・ディレクターとしてさまざまな作品に関わる。
【主な作品】AXE HOT ANGLE(ユニリーバ・ジャパン株式会社)、ソーシャルヒッチハイク(株式会社トヨタマーケティングジャパン)
原ノブオ 中村さんと逆のことを言うようだけれど、クライアントというのは、実はあまり関係がないと僕は思います。
実際に見て、体験する人の評価が重要だからです。でもクライアントの意見というのは、世間に出した時の反応を見定めるための、とてもいいヒントになります。制作している自分たちは、どうしても主観に偏ってしまいます。そこで、プレゼンのときにクライアントがワクワクしてくれたら、勝算が見込めるということがわかります。勝算があることがわかれば、世の中に出しても成功すると信じて突き詰められる。
今回のワークショップは、突き詰める前のベースをどの方向に向けるかという話でした。次回からは、ユーザーエクスペリエンスをテーマに、アイデアを具体的に落としこんでいく作業をすることになります。
次回へ向けて
今回のチームは、実はここで解散。次回からは、3人一組のチームを組み、“Fantastic!SHIBUYA!”のお題について、より詳細な企画を考えていきます。
さて、最初のアイデアは捨てるのか、生かすのか。それぞれのスキルをどう生かしていくのか。1週間で、そのチームで実現する企画を考えてくるのが宿題です。
栄えあるBAPA第一期生のみなさんと講師たち
おまけ:BAPA入試課題の合格作品
課題:卵を描き、その卵をうごかしてください
募集内容:表現方法は自由、ただし以下の点に注意すること
※応募点数は1人3作品まで
※公序良俗に反しないこと
BAPAに応募した入学生はこのような入試課題が課されていました。
合格した生徒さんの作品をすこしのぞかせてもらいましょう。
林 久純さん(男性、28歳)の課題作品
※WebGLを使っているためブラウザとしてChromeを推奨
コメント:我々哺乳類は進化の過程でより安全な胎生へと進化し、卵というものを作らなくなりました。そこで、人にとっての卵とはなんだろう、自分はどんなものを作りたいのだろう、動かすならばどんなものが良いのかと考えた結果、精子を描きました。JSで。
大下 優弥さん(男性、26歳)の課題作品
課題の説明(http://yuyaohshimo.me/blog/?page_id=97)
コメント:卵(玉子)と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、大好きなお寿司の玉子でした。 「大好きな玉子寿司を自由自在に動かしたい!」という気持ちで今回の作品を制作しました。 最終的な目標は、自分の口(胃)の中まで運ぶことです。 普段はWeb開発ばかりをしていますが、今回はArduino/電子工作/工作などに挑戦してみました。
岸 遼さん(男性、29歳)の課題作品
egg「if i were a bird」
making of egg "if i were a bird"
コメント:意志を持つことなく、”静”の物質となった卵。 もし、そんな”静”の物質に”動”を与えることができたのなら、物質となった卵も、ある種意志を持つように見えるかもしれない。 「if i were a bird...」
PCからarduinoへのシリアル通信を経由し、5つのファンモータをそれぞれ制御しています。 ファンモータの出力を調整することで、卵の浮遊の仕方を変化させています。 ファンモータがpwm非対応であるため、リードリレーで物理的に電圧を切替えることで、ファンモータの多段階制御を実現しています。
(次回、6/4更新予定)
構成 崎谷実穂、写真 PARTY & 崎谷実穂