2014年5月3週目の主なできごと
・W杯日本代表23人発表 大久保サプライズ選出(5月12日)
・角川・ドワンゴ経営統合 「ニコ動」で海外へ(5月14日)
・森永製菓「チョコボール」実質値上げ(5月15日)
・USJ ハリー・ポッター効果でツアー予約5倍(5月17日)
・チャゲアスASKA容疑者覚せい剤所持で逮捕(5月17日)
山岡士郎的態度が許されるのは大学生まで
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 『美味しんぼ』の話をしましょうか。いたるところで炎上しまくった「福島の真実」編も完結し、休載も正式に発表されたので。
速水健朗(以下、速水) 主人公の山岡と海原雄山が福島第一原発の取材から帰ってきて鼻血を出すという描写が炎上したね。これに対して「風評被害を助長する」と福島の自治体が抗議して、震災ガレキを受け入れていた焼却場周辺で健康被害が出てるって書かれた大阪市も抗議文を送って、さらには閣僚、安倍首相も批判的なコメントを出したという経緯だった。
おぐら 「福島の真実」編自体は全24回で、問題の鼻血描写はその第22回。第1回~11回までの前半はすでに単行本化もされていますが、そこでは風評被害に怒っているんですよね。調査で安全な値が出ている農作物もあるのに、福島県産っていうだけで敬遠され、ものすごい被害が出ているって。
速水 問題になった終盤の結論を言うと、福島にはもう人が住めないっていう話だった。もともと鼻血の回で炎上したのを受けて、原作の雁屋哲がそれ以降の展開を「鼻血ごときで騒いでいる人たちは、発狂するかも知れない」っていった。でも実際はチャゲアスのASKAの覚醒剤による逮捕騒動もあったせいか、鼻血の回以降の2回の中身については、さほど盛り上がらなかった気がする。なんか、予想通り過ぎたというか、シリアスな議論の対象になる以前に何このつまらないマンガ? みたいな意見も多かった。
おぐら 今回の騒動で「あんまり知らなかったけど『美味しんぼ』ってそういう漫画だったんだ……」みたいに初めて認識した人もいましたが、もともと硬派で政治色の強い作品ですよね。僕は2010年にTVブロスで『ザ コーヴ』という、食用としてのイルカをテーマしたドキュメンタリー映画の特集を担当したことがあって、そのときに『美味しんぼ』の「激闘鯨合戦」編を誌面で紹介しました。原作者の雁屋さんは、反捕鯨をはじめベジタリアンなどの食文化とその背景にある思想問題に強烈な思い入れがある人で。その「激闘鯨合戦」編の単行本は1988年の発売なので、もう何十年もそういう問題提起を『美味しんぼ』でやってきています*1。
*1 雁屋哲の今日もまた- 狂気のグリーンピース1
速水 TPP批判なんかも取り上げてたしね。そっくり同じことは『週刊金曜日』が取り上げるんだけど、こちらの雑誌は高齢の左翼の方々しか読んでないので、ネットではまるで話題にならないんだけど。あと、この「福島の真実」編の前にも、山岡と海原雄山との親子和解がニュースとして話題になっていたでしょ。
おぐら ひたすら対立していたふたりの和解は、いわば最終手段ともいえるので、作品としてはもう引っ張るのはつらいのでは?という苦し紛れ説もネットでたくさん見られました。
速水 たしかに、いまさらそれは誰も興味ないよなー感があった。出版サイドが話題を仕掛けようとしている側面と、作者本人が悪目立ちしようとしている部分と、今回はその両方がうまくいったという感じなんじゃないかな。
おぐら 僕はあくまで興味のある回だったり、作者の思想が炸裂している回を単発で読んでいるだけなので、物語全体のことはよく分からないんですよね。速水さんは定期的に読んでた時期ありましたか?
速水 ちょうど高校時代が『美味しんぼ』『YAWARA!』『伝染るんです』『ツルモク独身寮』辺りが同時に連載されていた『ビッグコミックスピリッツ』の黄金期で、僕らの世代の作品なんだよね。だから俺たち団塊ジュニア世代って、いろんなものを『美味しんぼ』から教わってるよ。例えば、ドライ戦争の時のドライビールの話は、いまだに共有されてるくらいだし。
おぐら えっと……ドライ戦争って何ですか?
速水 ドライ戦争知らない世代!? ま、そっか。いまもある「スーパードライ」って、アサヒビールが1987年に発売して、大ブームになったんだけど、当時はビール各社がその真似して、ライトなドライビールを開発して、恥も外聞もなく「ドライ」を名乗ったビールを投入したんだよ。それがドライ戦争。
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