東京・恵比寿のガーデンプレイス内にある東京都写真美術館に来ています。その名のとおりいつでも写真や映像にまつわる展示がおこなわれており、現在は3階の展示室で「スピリチュアル・ワールド」と題した展覧会が開催中です。
日本有数の写真コレクションを持つことでも知られる同館です。収蔵する作品は3万点を超えるそう。そのリソースを存分に生かすべく企画されたコレクション展となっています。
それにしても、なかなか大胆な展覧会名ですね。公立の美術館が手がけるにしては、「スピリチュアル」という語感からは、なんだか怪しげな雰囲気すら漂ってきますよ。
でも、実際に会場へ足を運んでみると、そういうことでもなさそうです。写真は目に見えるものを忠実に画面へ写し出すことのできる装置ですが、多くの写真家は同時に、目に見えないものも画面のなかへなんとか写し出そうと苦心してきました。見えないものを見ようとする営み、それこそをこの展覧会では「スピリチュアル」と称しているようです。見えないものを撮ろうとした作品を、一堂に並べてみようというのが今展の趣旨なのだといえます。
展示は「神域」とのテーマを掲げてはじまります。日本では古来、自然のありとあらゆる場所に八百万の神が存在するのだという考えが根強くありますね。そんな日本的な感受性を含んでいる写真が集められています。北井一夫が撮ったお地蔵さまや、明治中期に日下部金兵衛が撮影した京都伏見稲荷大社などが見られます。神域を捉えようとするのは、日本の原風景を探るのと近い気がいたしますね。
続いて「見えないものへ」のパートでは、伊勢神宮、熊野、宮古・八重山諸島など、いかにも日常を超えた存在が現れそうな場所にカメラを向けた作品群が。
「見えないものへ」パートの展示。手前は鈴木理策の作品。
「不死」と題して富士山の写真をあつめた場では、ありのままの富士を忠実に写そうとしている石川直樹の作品が、かえって富士の強烈な気配と存在感を浮かび上がらせています。「神仏」で圧倒的なのは、土門拳の古寺巡礼シリーズ。仏像の顔面をアップで捉えていて、これほど迫力あるホトケサマはなかなか他では見られませんよ。