「ヌレヨンちんちゃん」「スタジオズブリ」「穴と雪の大王」
この5年で最も影響を受けた本に、ピエール・バイヤール著『読んでいない本について堂々と語る方法』(筑摩書房)があるが、もちろん読んでいないので、内容については少しも知らない。本ではなく映画にも同じアプローチで臨んで、観ていない映画について堂々と語ることだってできるはずで、どういうアプローチをすべきなのかは本を読んでないので分からないわけだが、観てもいない『アナと雪の女王』について堂々と語っていこうと思うのである。
その作品が本当に流行っているかどうかのバロメーターに「エロ方面及び迷惑メールにネタとして用いられているか」がある。「ヌレヨンちんちゃん」という風俗店や「スタジオズブリ」という同人誌は、その元ネタが浸透しているからこそのネーミングといえる。最近、私の迷惑メールフォルダに溜まるメールの送信主は「穴と雪の大王」。先月から頻度が高まった「大王」からの連投は、『アナと雪の女王』の盛り上がりに比例しているのだろう。
「レリゴ~♪」とデスメタル
この映画の存在が、観ていないこちらにも浸透している理由はやっぱりあの主題歌にある。例えば朝方、保育園に向かう親子が楽しそうに「レリゴ~♪」と繰り返し歌う声が、ポーランドのデスメタルバンド・ベヒーモスの新作をイヤホンで聴くこちらの耳に、うっすらと被さってくる。あちらの正道とこちらの邪道の落差にしばしうなだれつつも、後々こんな情報も得た。歌のサビで繰り返される「レット・イット・ゴー(ありのままで)」を「同性愛の告白」だと解釈する動きがあり、アメリカ・コロラド州では牧師が自身のラジオ番組で「5歳の子供を同性愛に導く非常に邪悪な映画である」(SANKEI EXPRESS)と非難したそうだ。
おお、これなら保育園へ行く親子と私が、まさかの邪道ソングとして同じテンションを共有できるかもしれない(個人的に同性愛を邪道とは少しも思わないが)。アンチクライスト思想を隠さないベヒーモスは、2007年に自国のライブで聖書を「偽りの書」と破り捨てた挙句「地球上でもっとも残忍な宗教だ」と発言したことでキリスト教団体から散々訴えられた。邪悪な音楽は排せよというキリスト教団体からの圧力を、バンド側は「芸術表現」と突っぱねたのだ。この排斥に屈しない態度が保育園に向かう親子にも私にも『アナと雪の女王』にもデスメタルにも……さすがに無理が出てきたので閑話休題としよう。
松たか子はディズニー的、May J.は富士急ハイランド的
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