メランコリック

第1回 プロローグ ―Spring―

「わたしは、きっと、こんなわたしが大嫌い。」 幼なじみのリンとレン。高校入学を機に、二人の関係にも変化が……! 『メランコリック』は、片想い中の相手に素直になれない少女の心を描いたキュートな青春恋愛小説です。

Youtubeとニコニコ動画での動画再生数が360万回を超えるボーカロイド楽曲「メランコリック」が遂に小説化! 書籍発売を記念して、一部を公開します。

 甘いモノなんて嫌い。でも本当は好き。
 かわいいモノなんて嫌い。でも本当は好き。  
 歌姫(MIKU)なんて嫌い。でも本当は好き。

 レンなんて嫌い。でも本当は


 わたしは、きっと、こんなわたしが大嫌い。


♪『メランコリック』動画はこちらから♪


『メランコリック』 作詞作曲:Junky


プロローグ ―Spring―

【4月6日(月) 朝】  
 春は嘘つきだ。
 人の名前じゃないよ。季節の春。
 風はあたたかくなって、きれいな桜が舞って、人の心は浮き立って。
 雑誌の記事は華やかになって、服の色は明るく淡くなって。
 誰もかれもが、新しい出会いがあるよ、素敵な季節が始まるよ、なんて言うけれど……。
 わたしは一度だってそんなことを感じた覚えがない。  
 今日から変わったことといえば、通う学校くらいだ。

 奏丘  かなおか高校一年生

 これが、今のわたしのプロフィール。これだけが。
「……は…」  
 ひらりと桜の花びらが、鼻先をかすめていった。
「…っくしゅん」  
 ひょっとして花粉症になりかけているのかもしれない。かなりかわいくない顔だったけど、どうせ誰も見てないし、まあいいや。  
 今は通学中。しばらく歩くと、ぽつぽつと同じ制服姿が目につくようになってきた。  
 角を曲がり、近道の公園を抜けると、このあたりの名物にもなっている桜並木の通りに出た。視界がほとんど桃色になる。足を止めて見入っている人や、携帯で写真を撮っている人もいた。ここを抜ければ学校だ。
(満開だなあ……)  
 すれ違うように流れていく花びらを、なんとなく目で追った。  
 知らずため息が漏れる。  
 なんだろう。こんなにもきれいに春色が咲き誇っている景色の中にいると、自分だけが置いてけぼりになっているような気持ちになる。
(なんだっけ、こういうの。こういう気持ち……)  
 落ちてきた花びらを手でつかまえようとしたけど、小さなそれはひらりと逃げていった。

 全然つかめないきみのこと……♪

 お気に入りの歌を小さく口ずさんだその時、背後から声がかかった。
「あっ、リンちゃーんっ」  
 思わずビクッとすくめてしまった首を回して振り返ると、見知った顔がこちらへ駆けてくるのが見えた。
「ルカ先輩」  
 見知った、といっても、このところメールくらいでしか連絡を取り合っていなかったから、実際に顔を合わせるのは一年ぶりだ。  
 この季節に似合うやわらかそうな髪をふわりと揺らして、ルカ先輩は私の横に並んだ。シャンプーなのかパフュームなのか、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。
「またいっしょだね、リンちゃんっ」
「ですね。よろしくおねがいします」  
 自分のくせっ毛がちょっと恨めしくなって、少し涼しい首筋をなでた。美容院に行ったのは昨日で、それなりな感じになったような気がしていたけど……お母さんや美容師さんの褒め言葉はあんまり真に受けないほうがいいみたいだ。  
 わたしとルカ先輩は、同じ中学の出身。知り合ったのは、そこの生徒会だ。すらりとしたルカ先輩は実際よりも背が高く見えて、相変わらず作りモノかと思えるほど肌が白く透き通っている。美人生徒会長と評判だったあのころよりも、大人っぽさが加わって、磨きがかかっているような気がする。  
 わたしたちは、他愛のないおしゃべりをしながら、これから飽きるほど通うのであろう道を並んで歩いた。
「あ、そうだ。ねえリンちゃん」
「はい?」
「ちょっとおねがいがあるんだけど……」  
 と、言いかけて、ルカ先輩はわたしの顔を、不思議そうにじっと見つめてきた。  
 長いまつげがぱちぱちと上下するのが見える。
「……へ?」  
 なぜ見られているのかわからなくて理由をこうとしたところで、白くて細い指が私の顔に伸びてくる。
 そしてルカ先輩は、おもむろにわたしの頬を両側から横に引っ張った。
「え? え? あろ、あんれふか……?」
「リンちゃんは笑ってる顔のほうがカワイイわよ。ふふふ」  
 と、いたずらに笑っている。  
 ちょっとあっけにとられてしまって、頭が働くまで間があった。
「も、もうっ。わたしはそういうのいいんですっ」  
 首をぶんぶん振って手を払い、わたしはちょっと唇を突き出してみせた。  
 強くつねられたわけじゃないから痛くはなかったけど、それ以上に驚きがあった。
(ルカ先輩って、こんなキャラだったっけ……?)  
 昔は、なんていうか、おしとやか? 清楚? とにかくまさしくヒロインって感じの人で、わたしの学年でも憧れている人が男女問わずいた。生徒会でいっしょだった時も、きりきり仕事している印象があって、高嶺たかねの花オーラがすごかった。
(高校で変わったのかな……)  
 あのころはあのころでモテていたけど、今のこの自然な笑顔を見ると、きっともっとモテているんだろうなーと簡単に想像できた。  
 しかも、いたずら発言はさらに続き、
「あ、そっか」  
 白い頬に指を当て、ルカ先輩はこんなことを言いだした。
「『彼』がいないからご機嫌ナナメなのね? 今日はいっしょじゃないの?」
「ど、ど、どうしてそこでレンが出てくるんですかっ! あいつとはなんにもないです!」
「あら? 私、『彼』とした言ってないのになぁ~。やっぱりレンくんが出てきちゃうのね」
「……っ……うぅ……」  
 ぐうのも出ない、を体現したわたしの顔は、きっと真っ赤だっただろう。  
 ルカ先輩は相変わらずくすくすと笑っている。  
 わたしは、むぐむぐする口を必死に開いた。
「と、とにかく関係ないんです! ルカ先輩は何か誤解してます! わたしとレンはただの幼馴染みで家が隣同士ってだけで、ぜんぜんちっともそういうんじゃないですから!」
「そうなの? ふ~ん……」  
 ルカ先輩は、ちょっと首をかしげて考えたあと、フフッと笑った。
「そっか」  
 今度は妙にご機嫌な様子で、にこにこ笑う。  
 意味がわからない。
(や、やっぱり変わった……ルカ先輩)  
 どっと疲れてしまったわたしに、しかし追撃があった。
「また同じ学校なんだから、いっしょに登校すればいいのに」
「い、いやです!」
「どうして? 小さいころは双子って言われるくらいそっくりで仲良しだったじゃない」  
 少しだけ胸がちくりとした。昔のことを思い出しかけて、ぶんぶんと首を振る。
「そ、その話はやめてくださいっ! とにかくわたしは……レンといまさら……」
「オレがどうしたって?」
「ぎゃあぁーっ!!」  
 思わず絶叫して振り返ると、そこにそいつはいた。  
 わたしの幼馴染み、レン。まだ真新しい鞄を片手で肩に掛け、もう片方の手で耳をふさいで苦い顔をしている。
「朝から騒がしーなぁおまえ……。あ、ルカさん、おはよござッス」  
 軽い挨拶をして、ニカッと笑っている。人の気も知らずに。
「おはよー、レンくん。あれ、また背が伸びてない?」
「ええまあ、ちょびっと」
「すごい。もう見上げちゃうね」  
手のひらを頭の位置まで挙げるルカ先輩を前に、レンは照れくさそうに首筋を掻いている。
(デレデレしてるなぁ……)  
 わたしは、ドキドキがおさまらないのを悟られないように、息を整えて表情を作る。
(関係ない、関係ない。わたしには)  
 レンは、自然と隣に並んで歩き出し、こちらに視線を向けてきた。
「ハヨ」  
 たしかに、見上げる。わたしはルカ先輩より背が低いから、余計にだ。
「……お、おはよ」  
 いつもなら気づかないふりをして逃げるところだけど、さすがにこの距離では無視できなくて、小さく挨拶を返した。
 するとレンは、目をゆっくりと細めて、口を横に開いて笑った。
 この、くしゃっとした笑い方は、レンが本当にうれしい時にしかしない。小さいころからずっとそうだ。  
 それでもう、わたしはレンの顔をまともに見られなくなってしまって、ぷいっと顔をそむけた。昔みたいに同じくらいの身長だったら、頬が赤いのを気付かれてしまっていただろう。  
 そこからは三人で歩いた。  
 わたしを挟んで、頭上でレンとルカ先輩の他愛のないおしゃべりが交わされている。間にいるちびっこだけが、いつまでもうつむいていて、足元に降りかかってくる桜の花びらをただ見ていた。  
 さすがにそれに気づいたルカ先輩が、心配そうにのぞき込んでくる。
「リンちゃん、どうしたの? 具合悪い?」
「えっ、あ、いえっ」  
 慌てたわたしの横で、レンが困ったなあという感じに言った。
「あー……いや、スンマセン。こいつ、いつもこうなんですよ」
「え? そうなの?」  
 もうだめ。いたたまれない。  
 ますます顔をあげられずにいると、レンが一歩前に出た。
「えっとぉ…オレ、先に行ってますね」
「えっ! ちょ…」  
 明らかに気遣いだとわかって、思わず呼び止めようとしてしまった。
 けれど、わたしより先に、ルカ先輩が慌てて声をかけた。
「待って、レンくん」
「はい?」
「あとリンちゃんも」  
 数歩先へ行って振り返ったレンと、顔を上げたわたしに、ルカ先輩は言葉を続ける。
「言い忘れるとこだったわ。二人に折り入ってお願いがあるのよ」  
 そういえば、そんなことをさっき言いかけていた。  
 何だろうと思っていると、ルカ先輩は、言葉を待ってきょとんとしているわたしたちの顔を交互に見て、「こういう時の表情、そっくりね」と笑いを噛み殺してから、続けた。
「あのね、入学式が終わったら、ちょっと私に付き合ってほしいの」

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『メランコリック』
原作:Junky 著:ココロ直 イラスト:ちほ
定価:本体1,200円(税別)

この連載について

メランコリック

ココロ直 /ちほ /Junky

「わたしは、きっと、こんなわたしが大嫌い。」 幼なじみのリンとレン。ある出来事がきっかけで中学時代にレンを避けていたリンだが、進学した奏丘高校でルカ先輩たちの誘いを受けてレンと共に生徒会メンバーになることに! 片想い中の相手に素直...もっと読む

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