第51回】脱原発で追い詰められるドイツ政府と電力大手が「バッドバンク」設立の秘密計画!?

5月12日、ドイツ、シュピーゲル誌がすっぱ抜いた『原子力のためのバッドバンク』の報道。E.on、RWE、EnBWの大手電力会社3社とドイツ政府の間でバッドバンクのような機関を設立しようとする秘密計画が進められているという・・・2020年までの完全脱原発を決めたドイツのエネルギー問題についての考えを述べたコラムです。


E.onの原子力発電所(現在は運転停止している)〔PHOTO〕gettyimages

ドイツを駆け巡るシュピーゲル誌の特ダネ

5月12日発売のシュピーゲル誌で、特ダネがあった。見出しは『原子力のためのバッドバンク』。バッドバンクとは、金融機関が抱える不良資産を買い取り、管理・処分する機関である。金融機関から不良資産を切り離すことにより、損失拡大を食い止め、財務状況を改善し、金融システムを健全化することが目的だ。

では、シュピーゲル誌のすっぱ抜いた『原子力のためのバッドバンク』とは何かというと、E.on、RWE、EnBWの大手電力会社3社(ドイツには電力会社は4社あり、残りの1社は外国資本)とドイツ政府の間で、バッドバンクのような機関を設立しようとする秘密計画が進められているというのだ。この場合の不良資産とは、電力会社の原発部門である。

具体的には、「電力会社から原発部門を買い取って、脱原発の後始末をする機関(バッドバンク)を作る。これは、基本的に国営。電力会社はそこに原発閉鎖のときのために積み立ててきたお金300億ユーロ(4.2兆円)を拠出する。そして、原発閉鎖までの稼働と、その後のことは、すべてバッドバンクに委託」とシュピーゲル誌。とはいえ、原発の後始末代が300億ユーロを越えると、あとはもちろん公的資金が投入されることになる。早い話、それは税金である。

シュピーゲルは毎週月曜発売だが、日曜にはその中身がインターネットで見られるようになる。つまり、11日の日曜以来、この特ダネはドイツを駆け巡っている。

報道は概ね、"政府と電力大手が、国民に内緒で何か悪いことを企んでいる"、"電力会社は脱原発の後始末、つまり、原発施設の解体、除染、そして、核廃棄物の最終処分などを、すべて国民に押し付けようとしている"、"電力会社は、過去の原発導入の際に補助金を受け、それが軌道に乗れば民営企業として儲け、最後の後始末のときは国営になる"という非難で満艦飾だ。シュピーゲル誌の記事も、同じく非難のスタンスで書かれている。

しかし、本当にそうなのか?

絶望的な状況にある火力発電

ドイツが2022年までの完全脱原発を決めたのは、福島の事故のわずか3ヵ月後だ。事故後、17基のうちの古い7基を即座に止めた。そのとき、ちょうど点検のために止まっていた1基もそのまま稼働させなかったので、現在動いているのは9基。

ところが、ベースロード電源である9基の原発の稼働率は高く保たれているものの、一方で従来のガスや石炭の火力発電所の稼働率が、悲惨なことになっている。その原因は再生可能エネルギー法(以下EEG)だ。2000年に制定されたこのEEGにより、太陽光・風力などの再エネ電気は突出した優先権を得た。

全量を20年間、固定価格で買い取ってもらえるし、買取り価格は市場価格よりも数段高いうえ、発電量の制限もなく、優先的に市場に卸される等々。この好条件に釣られて、ドイツの再エネ電気は急激に増え続けてきた。お金のある人にとって、再エネ産業への投資ほど安全確実なものはない。

その結果、何が起こったかというと、太陽光・風力のバックアップ役を務める火力発電所が、計画通りには発電できなくなった。たとえば、ドイツ全土で太陽が照り、風も強い夏日、あるいは、夜間に風が強く吹く場合、電気の供給は需要を上回るが、無制限に買い取ってもらえるのだから、再エネ発電にブレーキが掛からない。電気の余っているときに、さらに発電してもしようがないので、電力会社は火力発電の出力を最小限に抑えることになる。もちろん、利益は出ない。

反対に、冬のドイツは日が照らず、風も止んでしまうことが多いので、再エネ電気は全滅だ。しかし、寒い国だから、電力の需要はピーク。そんなとき、そのピーク需要のほぼ100%を、原発、あるいは、火力が補わなくてはならなくなる。

つまり現在、電力会社はいざとなったらピーク電力の100%を賄えるだけの容量を保ちながら、天気の良い日の火力発電はろくに発電もせずに待機を強いられる。もちろんコストばかりがかさみ、採算は合わない。ガス火力の年間稼働率は今や18%だ。しかし、だからといって、閉鎖すると停電の危険があるので、閉鎖はできない。かなり絶望的な状況だ。

そもそも、ドイツの原発は、まだ何十年か稼働できるはずだった。簡単に過去の流れを説明すると、まず2000年、シュレーダー首相の政権下、政府と電力大手4社が脱原発合意を達成した。

これは、原発の運転期間は原則32年間とし、それが終われば廃炉、また、新しい原発は作らないということを取り決めたもので、2002年から施行。これによりドイツは、将来は原発全廃という方向を定めたのである。ただ、運転期間の32年は、点検などで止めた時間は差し引く。つまり、純粋に32年間ということだ。

2010年、メルケル政権が産業界や電力大手の意向をくみ、法律を改正し、稼働期間を12年延長し44年間とした。同時に、電力会社が核燃料税という多額の税金を支払うことが取り決められた。核燃料税は、公には言われていないが、稼働年数延長の見返りであり、そこには暗黙の了解があったと見られている。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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Singulith 少しはリアルに考えろブサヨどもが。  >「現在、電力会社はいざとなったらピーク電力の100%を賄えるだけの容量を保ちながら、天気の良い日の火力発電はろくに発電もせずに待機を強いられる。もちろんコストばかりがかさみ、採算は合わない。」 https://t.co/IjCk99sSSp 約4年前 replyretweetfavorite