窪美澄がいま輝いている3つの理由!
デビュー作から大評判!
デビュー作となる単行本『ふがいない僕は空を見た』の発行部数が20万を超え、映画化もされ、2011年、山本周五郎賞を受賞。2012年、『晴天の迷いクジラ』では山田風太郎賞を受賞するなど大評判!
妊娠・出産・子育てなどのテーマが力強い!
恋愛のみならず、子供を産むこと、育てることから食べること、生きることまで女性の生きざまを丹念にすくいとる物語が強い支持を得ています!
性描写が健やかにエロい!
「女による女のためのR-18文学賞」でデビューし、男女の性にまつわるエピソードがたびたび描かれつつも、ドロドロとせずにさやわかな読み心地!
ごく普通の女性が、普通に持て余してる感じで
—— 最新作『よるのふくらみ』たいへん楽しんで読ませていただきました。冒頭から「生理」「基礎体温」「排卵」という言葉が並んで、男からすると、ちょっとウッと……。
窪美澄(以下、窪) 男性にそんな言葉を言われてしまうと、こちらとしてもちょっとねえ(笑)。
—— なので、もしかしたらすこしつらい気持ちで読むのかな、と身構えてしまったんですけど、全然そんなことなくて、読み始めたら一気に止まらず、すごく気持ちのいい物語でした。
窪 ありがとうございます。
—— 『よるのふくらみ』で6作品目ですけれども、快調なペースですね。
窪 いま6作目と聞いてびっくりしました。わたしは2010年のデビューで、同時期にデビューした作家さんに、朝井リョウさん、柚木麻子さんがいらっしゃるんですけれども、あの二人がいなかったら、こんなにコンスタントに書いていないのかなあと思います。
—— ああ、良きライバルなんですね。
窪 年齢的には本当に一回り以上も違うのでなんですけれど、なんというか、あいつらには負けてられないぞ、じゃないですけど(笑)、やっぱり刺激をくれる人たちがいるので、がんばらないといけないなと思うことはありますね。
—— デビュー作となる『ふがいない僕は空を見た』が2つの文学賞(R-18文学賞大賞受賞、第24回山本周五郎賞)を授賞し、20万部を超えるヒットとなりました。作家として作品を書いていくのにプレッシャーではないですか?
窪 それは正直めちゃめちゃありますよね。やっぱりつねづね言われるんですよ。たとえば、今回の『よるのふくらみ』も帯を見るとですね、ほら「ふがいない…」が枕詞に出されるんです。きっと『ふがいない僕は空を見た』ぐらいに売れてくれと(笑)。
—— こちらものっけからこんな質問で恐縮ですが……。
窪 まあ若い作家さんで、こんなふうなプレッシャーがあったらすごいストレスだろうと思いますけど、わたしは遅いデビューなので、図々しいし、図太いんですよね、基本。だからそんなに追いつめられてはない、と思います(笑)。
—— 窪さんの小説には、女性の性や出産といったテーマで描かれていることが多いと思いますが、そこにこだわる理由は?
窪 べつに性のことだけを書きたかったわけではぜんぜんないんですよ。まずわたしがデビューした賞が、「女による女のためのR-18文学賞」※ というところからスタートしているので、もうそのテーマは書かざるを得ないというか。
※2002年から始まった「女性ならではの感性を生かした小説」をテーマに公募さる新潮社主催の文学賞。窪の受賞時は「性をテーマにした小説」を募集していた。豊島ミホ、宮木あや子、山内マリコなどがデビューしている。
—— え、そうなんですか。『よるのふくらみ』もとてもエロかったです(興奮)!
窪 わあい(笑)。まあ、デビュー作からの筋道もあって、文芸誌の官能小説特集とかで声をかけられて書いたりとか、わりと外からの要望で性を描いていたら、おもしろくなっちゃったんですよ。ここは腰を据えて書くべきだなと思ったんですね。
—— セックスって血なまぐさい暴力や、ある種の淫靡さと共に描かれることが多いと思うんですが、窪さんの作品は、エロいんですけど嫌な気持ちにならないというか、爽やかに読める気がします。なにか描くにあたって意識していることはありますか?
窪 これはわたしだけじゃなく「R-18文学賞」の先輩たちがやってらしたことなんですけど、やっぱり日常の感覚に根ざしているっていうことだと思います。女子高生だったり、ごく普通の女性が普通に発情して、どうしたらいいものかとか、持て余してる感じですね。
幸せそうな人でも一皮剥いたらいろいろある
—— セックスのことってディテールを書くのは勇気がいることだと思うのですが。
窪 いまはしていないんですけれど、以前ライターをしていたときに、「たまごクラブ」などの育児雑誌でずっと仕事をしていたんですよね。そこで妊娠・出産のことを書いてきたんです。
だから排卵前に発情するっていうのは、メカニズムとして当然みんなが持っているもので、べつにいやらしいものでも、恥ずべきものではないよっていうベーシックな認識がライター時代に培われてきたと思います。
—— 取材ではいろいろな人に話を聞かれたり?
窪 そうそう。妊婦さんだけでなく、産婦人科の先生のところに行ったりして、性のことや、身体のこととか排卵日の話とかをたくさん聞くわけです。
—— 取材中は、記事では取り上げられない話しもあったりするんですか?
窪 それはありますよね。「たまごクラブ」とかは健康的に妊娠して、健康的に産む人たちのための雑誌なので、多くの健全な人たちに向けています。だから、妊娠がうまくいかないとか、赤ちゃんが死んじゃうとか、もしくはそれ以前にセックスがうまくいかないっていう話も当然出てくるけれど、そういうことはあまり多くは描けません。だから小説を書いたっていうのはありますよね。
—— ハウツーには落とし込めない、人間の生き様に踏み込むお話も聞けそうですね。
窪 立ち会い出産ではこうしましょう、ああしましょう、っていうことを書くけれど、それも突き詰めれば、もっと前の段階の二人の関係性、カップルや夫婦のコミュニケーションの問題になるじゃないですか。
—— はい。
窪 わたしは読者の方々にすごく電話取材をしたんですよね。そうするとね、やっぱりすごいんですよ(笑)。
—— え、なにがすごいんですか?
窪 なにかこう、しゃべりたいんですよ、みんな。電話が切れないくらいみんなワーッとしゃべる。出産した妊婦さんとか。
—— 赤ちゃんが無事に生まれてめでたしめでたしという状況に思えますが。
窪 そうです。でっかいベビーカーを押して、公園とかいってね、世間的には幸せそうに見える人たちが、会ったこともないライターに不満をえんえんと話すわけです。だから幸せそうでいいですね、っていう人でも一皮剥いたらやっぱりいろいろありますよね、っていう。で、それがまあ普通なんです。
—— あまりに生々しい悩みは、家族とか周囲の人にこそ話しづらいんですかね。
窪 話せないですよ。話しづらい。
—— ええ。
窪 子どもが生まれたからといってべつに安定してるわけでも、夫とうまくいってるわけでもない。それぞれの問題があるっていうリアルさは、自分自身の経験としてもそうですし、ライター時代に見聞きした経験が大きいですね。
—— そういった踏み込んだ性のエピソードを描く時に、こういうことは書かないようにしようとか気をつけていることってありますか?
窪 ないですね。逆にこれを書いちゃいけないと思わないようにしようと思っています。そういう感情を持ったことを恥ずかしいとするような文章は書きたくないということですよね。
—— つまり性的な感情の発露は、いわゆる変態ではなく、至極まともなことだと。
窪 はい。変態とか言い出すと、またそれはそれで奥が深いのであれですけれども。
—— たとえば『ふがいない僕は空を見た』には、高校一年生の主人公が、年上の主婦とアニメのコスプレでセックスをするというシーンがありますが。
窪 『ふがいない…』は、もともと助産院を舞台ににした小説を書こうと思っていたんです。助産院で産む人って、身体が健康じゃないと産めないんですよ。旦那さんも協力しないとだめっていう、わりと健全さを求められるというか、ある種これが正しいよっていうスタイルがあるわけです。だから、インモラルというか、それとは反対のことを書きたいと思ったときに出てきたんですよね。
—— 高校生と主婦がコスプレで、ということさえも健全なものとして描きたかった?
窪 健全ではなくても、否定はしないですよね。その主婦のあんずちゃんっていう子が、不妊治療をして悩んでいて、っていうことも含めて。助産院での出産が健全で正しいものとされるなら、そういうものと正反対のことって何だろうなって思った時に出てきたアイテムだったんですよね。
(次回は6/3更新予定)
執筆:中島洋一、撮影:中島大輔