カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話 【第13回】「成功」と「幸福」は同時に手に入るか?

大人気マンガ『カイジ』をもとに、お金の知識を解説した『カイジ「命より重い!」お金の話』の続編となる『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』を上梓した木暮太一さん。この連載では、逆境に立ち向かい、挑戦し、生き抜いていくカイジに生き様にスポットをあて、強く生きるためのヒントを紹介していきます。

漫画『賭博黙示録 カイジ』とは?

自堕落な日々を過ごす主人公、伊藤開司(いとう・かいじ)。そのカイジが多額の借金を抱えたことをきっかけに「帝愛グループ」をはじめとする黒幕との戦いに挑んでいく大人気漫画。命がけのギャンブルを通じて、勝負師としての才能を発揮するカイジだが、その運命は果たして・・・。

(作者:福本伸行講談社『週刊ヤングマガジン』で1996年11月号~1999年36号まで連載された作品)

幸福な人生=「楽」な人生ではない

かつて「働いたら負け」という言葉がネットで流行っていたことがありました。そうつぶやいた人たちは、一体、誰と戦っていたのでしょうか?

働くことはたしかに、楽なことではありません。体を壊すまで働かされるのは間違っていると思いますが、人間は「楽」をしてばかりでは生きていけない。ぼくはそう思っています。

たとえば、ハワイが大好きな人にとって、ワイキキビーチで横になりながら冷たいビールを飲んでいる時は最高の瞬間でしょう。すぐそこにいるウェイターに声をかけるだけで、好きな食べ物と飲み物が運ばれてきます。とても"楽"ですし、これぞ"至福の時"といえるでしょう。ずっとこんな生活をしていられたらどんなにいいかと想像するだけで、逆にため息が出る人もいるかもしれません。

しかし、考えてみればわかるとおり、ハワイのビーチでビールを飲んで寝てばかりいたら、やがて貯金が底をつき、カイジと同じ運命を辿ることになります。つまり"楽"しいことをずっと続けていると、誰もがカイジの世界に入ってしまうわけです。

しかし、人生は一度しかありません。楽しくなければ、何のために生きているのか? という気分になってしまうこともあるでしょう。そう感じて現代社会に希望を見出せない人が、特に若い世代に多数いるように感じます。

1997年に『カイジ』の作者の福本伸行先生が監修して出版された『カイジ語録』にこういう一節がありました。

「僕はよく、『快楽』って言葉にかこつけて言うんですが、人生は『快』と『楽』の二者択一じゃないかと。何かを一生懸命やって、それができた時が『快』。『楽』ってのは、ああもういいやっていって辞めて、ビールを飲んで寝転んで、ナイターを見る(笑)。それが『楽』です」

これは非常に示唆に富む言葉です。「快」も「楽」も至福には違いありません。けれど、「快」と「楽」は大きく違います。

「快」と「楽」の違い

人生の楽しみは、大きく分けて2つあります。ひとつは、何かを達成した時に得られる満足感・達成感、やりたいことをやっている時の充実感です。それが福本先生が指摘する「快」です。

ただ、この種の楽しみには、苦しみや困難、プレッシャーも伴います。だからこそ、それを乗り越えた時の充実感が得られるわけです。何度やっても100%できるゲームをクリアしても全く嬉しくありませんよね。それは困難やプレッシャーがないからです。

一方、その困難やプレッシャーが全くないのが、福本先生が言う「楽」です。ワイキキビーチで横になりながら、ビールを飲んでいる瞬間は「楽」です。しかし、その状況を続けていられるのは、相当の大資産家だけです。

『カイジ』に出てくる班長の大槻も、地下帝国で2000万ペリカを貯めたら地上に出てハワイや温泉に行こうと計画していたようです。まさに"至福の時"のために貯金をしていたわけです。しかし、2000万ペリカ(日本円で200万円価値)を貯めても、1ヵ月ももたないでしょう。「楽」は長続きさせられません。

また、仕事においても「楽」な状態を長く続けることはできません。逆説的ですが、「楽な仕事」を目指していると、長期的に「楽」な状態には辿りつけなくなるのです。というのは、「楽」な仕事は、経済原則から考えて給料が安くなるからです。

人間誰しも「楽をしたい」と考える時があるものです。楽して稼げたらいいなと考えている人は山ほどいます。だから「手っ取り早く1億円稼ぐ方法」というような書籍が出版され、売れていくのです。

もし世の中に「楽して稼げる仕事」があったら、かなり応募が殺到するはずですよね。しかし、応募者が増えれば、雇い主は給料などの労働条件を引き下げても大丈夫と思い、どんどん給料を下げます。その結果、その仕事はすぐに相当安い給料(おそらく、ほぼボランティア)になってしまうでしょう。

「楽」な仕事は、給料が安いんです。仕事は楽でいいかもしれませんが、給料が安いので、プライベートの時間に「楽」を謳歌することはできません。この場合も、「楽」を長く続けることはできないのです。

さらには、「楽」をすると、選択肢が少なくなり、将来の自分が「楽」をできなくなります。前に「年齢を重ねるに従って、チャンスが減る」ということを書きました。見方を変えると、同じチャンスを得るためには、実力値を上げていかなければいけないということです。

横になってビールを飲んでいては、何の実力も身につきません。「楽」を続けるということは、将来のチャンスを失うということに限りなく近いのです。そしてチャンスを失えば、高い報酬を望みづらくなります。将来の収入が減るのです。そして収入が減れば、将来できる「楽」の範囲が狭くなります。

「借金」に例えるとわかりやすいかもしれません。「借金」というのは、将来自分が得るはずだったお金の前借りです。形式上は他人から借りていますが、本当は、将来の自分にお金を借りているのです。つまり、今の自分のツケを、将来の自分が払うということになるのです。

働くことも一緒です。いま楽をすれば、将来の自分がそのツケを支払うことになるのです。将来できるはずだった「楽」を前借りしてしまえば、いずれ「楽」をできなくなるのです。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

現代ビジネス

この連載について

初回を読む
木暮太一の「経済の仕組み」

木暮太一

10万部超のベストセラー『今まで一番やさしい経済の教科書』などのビジネス書で知られる著者が、なんとなく分かったつもりになっていた「経済の仕組み」を懇切丁寧に解説します。ビジネスパーソンの基礎力を高めたいなら必読です。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません