武田砂鉄
ソフトバンクの「いぬのきもち」
武田砂鉄さんのテレビ時評、今回取り上げるのはソフトバンクのCMでお馴染みの犬・カイくんです。2007年からお父さん役を務めてきたカイくんも10歳になり、先日すべての仕事から引退したことが発表されました。CMはお父さん役はカイくんの子どもに引き継がれるそうですが、なにごともなかったかのように入れ替わるその交代劇を、視聴者は当たり前のように受けて止めていいのでしょうか……?
犬・赤ちゃん・料理・占いは同じ処方箋
「早朝」のワイドショーから「朝」のワイドショーに切り替わる朝8時の数分前、日本テレビはイケメンに料理をさせ、TBSは赤ちゃんの写真を見せ、フジテレビは飼い犬を紹介する。その前後に用意される占いは、テレビ朝日も含め各局マスト。視聴者を引き離さないために考え抜かれたコンテンツがこれらだとすれば、犬・赤ちゃん・料理・占いは、同じ処方箋だと考えていい。だったら全部混ぜ合わせりゃ最強じゃんと、片手で飼い犬を引いた赤ちゃんが片手でフライパンを振りながら「獅子座のラッキーアイテムは、えっと、今日もオリーブオイルでしたっけ」なんて慌てふためく光景を思い浮かべてしまう。
ところで、犬・赤ちゃん・料理、このなかでもっとも長いコーナーは「めざましテレビ」の「きょうのわんこ」である。2014年5月13日現在、No.4612という回数を重ねている。人様のわんこが、起き抜けの不機嫌をほぐし、出がけの慌ただしさを一瞬だけでも落ち着かせてきた。
「あんだけ現場で働かせといてだよ、こんなふざけた人事異動があんのかよ」
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この連載について
武田砂鉄
365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む
著者プロフィール
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。
Twitter:@takedasatetsu