ゲーム市場のシェア8割を穫った、前代未聞のアイデア
アタリが絶好調だったころ、コインを入れて遊ぶゲーム機の販売会社は、大手だけでも全米の各都市に2~3社ある状態だった。販売代理店は製品タイプごとに分かれていたが、ゲームメーカーは都市ごとに違う会社が独占していることが多かった。つまり、たとえばシカゴにアタリの代理店があったとして、別の代理店には、同じ製品タイプに参入したいと考える別のメーカーがついていることになる。
だが、どこも参入してこない。じゃあ、みずから自社の競争相手になろうじゃないかと我々は考えた。こうして設立したのがキーゲームスという会社だ。アタリの完全子会社なのだが、ライバルだと見えるように別会社としたのだ。
キーゲームスの営業担当には、各都市で2番目に力をもつ販売代理店に売り込みをかけさせ、ゲームを卸す契約を獲得するとともに、ゲームはアタリのエンジニアリング部門がもっていたものの半分をキーゲームスに移管した。キーゲームスの業績は順調に伸びていく。こうして、アタリとキーゲームスで80%もの市場シェアをつかむことに成功した。
このアイデアはどこで生まれたか
大成功したこのアイデアは、みんなでホットタブ〔※数人で入れる大きさの屋外バスタブ〕に入っているときに出てきたものだ。ちょうど新しいマーケティング部長を採用したところで、天気もよかったことから、カリフォルニア州ロスガトスにある私の自宅の庭に置いたホットタブにみんなで入り、そこでマーケティングの問題を検討しようという話になったのだ。ホットタブはゆったりと落ちつく場所であり、ここからすばらしいアイデアがいくつも生まれた。
いま、同じことをするのは無理がある。ホットタブは1970年代の遺物だからだ。なにか別のやり方で同じ効果を得なければならない。なんでもいいと思う。
たとえば、人間の頭の働きに関する研究によると、歩きながら話をするといいアイデアが湧くらしい。身だしなみを整えながらという手もある。アルベルト・アインシュタインは、ひげを剃っているときにいろいろと思いついたらしい。だから、すごいアイデアを思いついたとき、びっくりして手が滑らないように注意しながらカミソリをあてていたというのだ。
ゲシュタルト心理学のヴォルフガング・ケーラーが1969年に語った有名な言葉がある。「創造性は三つのBで生まれる」というもので、彼は「乗り物(Bus)、風呂(Bath)、寝床(Bed)」の3カ所で創造的なアイデアが得られやすいとした。
(ちなみに、ケーラーは具体的な事例を思いえがいていたらしい。風呂はギリシアの哲学者アルキメデスが浮力を発見したところ、寝床はドイツの化学者フリードリヒ・アウグスト・ケクレがベンゼン分子の電子結合について洞察を得たところ、乗り物は数学者アンリ・ポアンカレが数学的な大発見をしたところである。)
私も部下も、この3Bですごくいいアイデアを思いついた経験が何回もある。それどころか、ただ場所を変え、いつもと違う環境で仕事をさせただけでクリエイティブなアイデアがいくつも出てきたりする。だから私は、社員を連れてスキーに行ったり海水浴に出かけたり、あるいはまた、山歩きに行ったりする。その体験から彼らがなにかを感じてくれるはずだと思うからだ。
チャッキーチーズ〔※著者が創業した北米の子供向け人気ピザチェーン。レストランと遊戯施設が融合した店舗形態で有名〕では、「ゲーム機で遊ぶには小さすぎる子どもへの対応が不十分だ、小さな子どもがぐずれば親は長居しないし二度と来店してくれない」と気づいたので、ボールプールのある遊び場を作ることにした。これはチャッキーチーズにとってとびきり大事な改善だったのだが、このアイデアが得られたのは、終日スキーを楽しんだあと、暖炉を囲んで雑談をしているときだった。