(第75回の続き)
$$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} $$
リビングにて
ユーリ「さっきの表もっかい見せて!」
僕「これ?」
- $\LOG{\dfrac{1}{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}}} = -n$
- ……
- $\LOG{\dfrac{1}{100000}} = -5$
- $\LOG{\dfrac{1}{10000}} = -4$
- $\LOG{\dfrac{1}{1000}} = -3$
- $\LOG{\dfrac{1}{100}} = -2$
- $\LOG{\dfrac{1}{10}} = -1$
- $\LOG{1} = 0$
- $\LOG{10} = 1$
- $\LOG{100} = 2$
- $\LOG{1000} = 3$
- $\LOG{10000} = 4$
- $\LOG{100000} = 5$
- ……
- $\LOG{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}} = n$
ユーリ「さっきから何だか引っかかってたんだけど」
僕「何に?」
ユーリ「 $10$ の対数は $1$ で、 $1$ の対数は $0$ じゃん?」
僕「そうだね。 $10$ を底とすれば」
ユーリ「だったら《 $10$ を底としたときの、 $0$ の対数》って何?」
$10$ を底としたときの、 $0$ の対数は何か。 $$ \LOG{0} = \text{?} $$
僕「ユーリはいいところに気付いたなあ」
ユーリ「いやいや、そーゆー上から目線はいーから教えてよ。 $0$ の対数は何?」
僕「何だと思う?」
ユーリ「わかんないから聞いてるんだけど」
僕「でも、予想はしてるだろ? 予想したから何かが《引っかかった》わけだし」
ユーリ「お兄ちゃんはいいところに気付いたなー……あのね、ユーリはこう考えたの」
- $\LOG{\dfrac{1}{10}} = -1$ で、これはマイナス $1$ じゃん?
- $\LOG{1} = 0$ で、これはゼロ。
- $\LOG{10} = 1$ で、これはプラス $1$ 。
僕「そうだね」
ユーリ「そーか、 $\LOG{1} = 0$ なんだ。それじゃ $\LOG{0}$ って何だろって思ったんだよ」
僕「なるほど」
ユーリ「 $\LOG{0} = 0$ なのかにゃ? って思ったけど、 $\LOG{1}$ も $\LOG{0}$ も両方とも $0$ って何だか変じゃん?」
僕「そうだね、その気持ちはよくわかる」
ユーリ「 $\LOG{10} = 1$ で、 $\LOG{100} = 2$ で、『そーだそーだ $0$ の個数』と思ったけど、でも $0$ の個数ってゆーのは $1, 10, 100, 1000, \ldots$ という数の場合の話だよね」
僕「そうだね」
ユーリ「だから結局 $\LOG{0}$ はよくわかんなくなった」
僕「なるほど。ユーリ、自分が考えたことの説明、うまくできたなあ」
ユーリ「え、そ、そーかにゃ(照れ)」
僕「いつもは割とぐちゃぐちゃな説明になるのに」
ユーリ「余計なこと言わなくていーから。それで? $\LOG{0}$ は?」
僕「 $\LOG{0}$ の値は……未定義だね」
ユーリ「《みてーぎ》って、何? やっぱりゼロってこと?」
僕「違う違う。未定義というのは定義されていないということ。いいかえると $\LOG{0}$ という表記には意味がない。数じゃないといってもいいけど。定義されていないんだから、 $0$ でもない」
ユーリ「え? 定義されてない……そんなのアリなの?」
僕「ありだよ」
$10$ を底としたときの、 $0$ の対数は未定義である。
※( $10$ を底にしたときに限らず、 $0$ の対数は未定義である)
ユーリ「うわー、めちゃめちゃ納得できないー」
僕「そう?」
ユーリ「そーだよー。 $\LOG{0}$ は未定義……」
僕「数学ではときどきあるよ。たとえば対数じゃないけど、 $\dfrac{1}{0}$ も同じように未定義だよね」
ユーリ「あ、ゼロ割……確かに」
僕「対数に話を戻すけど、 $\LOG{y}$ という表記が意味を持つのは $y > 0$ という条件を満たすときだけなんだ。この条件のことを真数条件という」
ユーリ「しんすうじょうけん……」
僕「そう。真数っていうのは $\LOG{y}$ の $y$ のこと」
$y > 0$ のとき、 $x = \LOG{y}$ を《 $10$ を底とする $y$ の対数》といい、 $y$ を《 $x$ の真数》という。
$y > 0$ を真数条件という。
ユーリ「うわややこしい」
僕「ややこしくないよ。対数と真数は用語としてちょうど逆の意味になるんだね。 $x = \LOG{y}$ のとき、《 $x$ は $y$ の対数》で《 $y$ は $x$ の真数》ということ」
ユーリ「えー、でも、その条件……真数条件 $y > 0$ はいったいどっから出てきたの? こーゆーの、突然出てこられてもなー」
僕「そうだね。それはごもっとも。お兄ちゃんも、はじめて $\log$ を習って真数条件のことを知ったときに『なんだこれ?』って思ったよ」
ユーリ「そーなんだ」
僕「でもこれは難しくない。ほらあれだよ。ポリアの《定義にかえれ》を実行してみればいい」
ユーリ「定義にかえれ? 何の定義?」
僕「もちろん、 $\LOG{y}$ の定義だよ。これだ」
$0$ より大きい数 $a$ に対して、
$$ 10^x = a $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $a$ の対数》と呼ぶ。
ユーリ「え?」
僕「さっきは真数を $y$ で表したから、こう言い直そうか」
$0$ より大きい数 $y$ に対して、
$$ 10^x = y $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $y$ の対数》と呼ぶ。
ユーリ「いやいや、これはわかってるよー。《 $10$ を $x$ 乗したのが $y$ 》とすると、《 $y$ の対数は $x$ 》ってことじゃん?」
僕「そうだよ。だったら真数条件はすぐわかるよね?」
ユーリ「?」
僕「 $10^x = y$ を考えるとすぐにわかるよ。 $y$ は $10^x$ という数だから、必ず $0$ より大きくなるじゃないか!」
ユーリ「あ!」
僕「 $y = 10^x$ というグラフを考えるともっとはっきりする。 $y = 10^x$ のグラフは $x$ 軸よりも必ず上にある。つまりそれは常に $y > 0$ が成り立っているということになるよね。 $x$ 軸よりも上というのは $y > 0$ ということだから」
ユーリ「お、おおっ? にゃるほどー……」
僕「さらに言い換えてみるよ。 $y = 10^x$ という $x$ と $y$ との関係を、 $\log$ を使って書くなら $\LOG{y} = x$ になるけれど、それは、 $x$ と $y$ の関係を逆の視点で見ているだけなんだよ。 $y > 0$ としたとき……」
$$ y = 10^x \quad \Longleftrightarrow \quad \LOG{y} = x $$
ユーリ「そっかー。 $y = 10^x$ と $\LOG{y} = x$ は逆の視点……」
僕「ね? だから、 $\LOG{y}$ という数式をみたときには $y > 0$ という真数条件を絶対に忘れないようにしなくちゃいけないんだ。 $y > 0$ は納得した?」
ユーリ「納得……してない」
僕「がく。え? どうして?」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)