第76回 ゼロの足し算(後編)

「でも、その条件はいったいどこから出てきたの? 突然出てこられてもなー」とユーリは言った。
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第75回の続き)

$$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} $$

リビングにて

ユーリに $\log$ について説明していた。 対数を表す $\log$ は数式にするとややこしく見えるけれど、 定義をきちんと理解すればそんなに難しい話ではない。 するとユーリはこんなことを言い出した。

ユーリ「さっきの表もっかい見せて!」

「これ?」

  • $\LOG{\dfrac{1}{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}}} = -n$
  • ……
  • $\LOG{\dfrac{1}{100000}} = -5$
  • $\LOG{\dfrac{1}{10000}} = -4$
  • $\LOG{\dfrac{1}{1000}} = -3$
  • $\LOG{\dfrac{1}{100}} = -2$
  • $\LOG{\dfrac{1}{10}} = -1$
  • $\LOG{1} = 0$
  • $\LOG{10} = 1$
  • $\LOG{100} = 2$
  • $\LOG{1000} = 3$
  • $\LOG{10000} = 4$
  • $\LOG{100000} = 5$
  • ……
  • $\LOG{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}} = n$

ユーリ「さっきから何だか引っかかってたんだけど」

「何に?」

ユーリ「 $10$ の対数は $1$ で、 $1$ の対数は $0$ じゃん?」

「そうだね。 $10$ を底とすれば」

ユーリ「だったら《 $10$ を底としたときの、 $0$ の対数》って何?」

問題( $0$ の対数)
$10$ を底としたときの、 $0$ の対数は何か。 $$ \LOG{0} = \text{?} $$

「ユーリはいいところに気付いたなあ」

ユーリ「いやいや、そーゆー上から目線はいーから教えてよ。 $0$ の対数は何?」

「何だと思う?」

ユーリ「わかんないから聞いてるんだけど」

「でも、予想はしてるだろ? 予想したから何かが《引っかかった》わけだし」

ユーリ「お兄ちゃんはいいところに気付いたなー……あのね、ユーリはこう考えたの」

  • $\LOG{\dfrac{1}{10}} = -1$ で、これはマイナス $1$ じゃん?
  • $\LOG{1} = 0$ で、これはゼロ。
  • $\LOG{10} = 1$ で、これはプラス $1$ 。

「そうだね」

ユーリ「そーか、 $\LOG{1} = 0$ なんだ。それじゃ $\LOG{0}$ って何だろって思ったんだよ」

「なるほど」

ユーリ「 $\LOG{0} = 0$ なのかにゃ? って思ったけど、 $\LOG{1}$ も $\LOG{0}$ も両方とも $0$ って何だか変じゃん?」

「そうだね、その気持ちはよくわかる」

ユーリ「 $\LOG{10} = 1$ で、 $\LOG{100} = 2$ で、『そーだそーだ $0$ の個数』と思ったけど、でも $0$ の個数ってゆーのは $1, 10, 100, 1000, \ldots$ という数の場合の話だよね」

「そうだね」

ユーリ「だから結局 $\LOG{0}$ はよくわかんなくなった」

「なるほど。ユーリ、自分が考えたことの説明、うまくできたなあ」

ユーリ「え、そ、そーかにゃ(照れ)」

「いつもは割とぐちゃぐちゃな説明になるのに」

ユーリ「余計なこと言わなくていーから。それで?  $\LOG{0}$ は?」

「 $\LOG{0}$ の値は……未定義だね」

ユーリ「《みてーぎ》って、何? やっぱりゼロってこと?」

「違う違う。未定義というのは定義されていないということ。いいかえると $\LOG{0}$ という表記には意味がない。数じゃないといってもいいけど。定義されていないんだから、 $0$ でもない」

ユーリ「え? 定義されてない……そんなのアリなの?」

「ありだよ」

解答( $0$ の対数)
$10$ を底としたときの、 $0$ の対数は未定義である。
※( $10$ を底にしたときに限らず、 $0$ の対数は未定義である)

ユーリ「うわー、めちゃめちゃ納得できないー」

「そう?」

ユーリ「そーだよー。 $\LOG{0}$ は未定義……」

「数学ではときどきあるよ。たとえば対数じゃないけど、 $\dfrac{1}{0}$ も同じように未定義だよね」

ユーリ「あ、ゼロ割……確かに」

「対数に話を戻すけど、 $\LOG{y}$ という表記が意味を持つのは $y > 0$ という条件を満たすときだけなんだ。この条件のことを真数条件しんすうじょうけんという」

ユーリ「しんすうじょうけん……」

「そう。真数っていうのは $\LOG{y}$ の $y$ のこと」

対数と真数
$y > 0$ のとき、 $x = \LOG{y}$ を《 $10$ を底とする $y$ の対数》といい、 $y$ を《 $x$ の真数》という。
$y > 0$ を真数条件という。

ユーリ「うわややこしい」

「ややこしくないよ。対数と真数は用語としてちょうど逆の意味になるんだね。 $x = \LOG{y}$ のとき、《 $x$ は $y$ の対数》で《 $y$ は $x$ の真数》ということ」

ユーリ「えー、でも、その条件……真数条件 $y > 0$ はいったいどっから出てきたの? こーゆーの、突然出てこられてもなー」

「そうだね。それはごもっとも。お兄ちゃんも、はじめて $\log$ を習って真数条件のことを知ったときに『なんだこれ?』って思ったよ」

ユーリ「そーなんだ」

「でもこれは難しくない。ほらあれだよ。ポリアの《定義にかえれ》を実行してみればいい」

ユーリ「定義にかえれ? 何の定義?」

「もちろん、 $\LOG{y}$ の定義だよ。これだ」

対数の定義
$0$ より大きい数 $a$ に対して、
$$ 10^x = a $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $a$ の対数》と呼ぶ。

ユーリ「え?」

「さっきは真数を $y$ で表したから、こう言い直そうか」

対数の定義( $y$ で表した)
$0$ より大きい数 $y$ に対して、
$$ 10^x = y $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $y$ の対数》と呼ぶ。

ユーリ「いやいや、これはわかってるよー。《 $10$ を $x$ 乗したのが $y$ 》とすると、《 $y$ の対数は $x$ 》ってことじゃん?」

「そうだよ。だったら真数条件はすぐわかるよね?」

ユーリ「?」

「 $10^x = y$ を考えるとすぐにわかるよ。 $y$ は $10^x$ という数だから、必ず $0$ より大きくなるじゃないか!」

ユーリ「あ!」

「 $y = 10^x$ というグラフを考えるともっとはっきりする。 $y = 10^x$ のグラフは $x$ 軸よりも必ず上にある。つまりそれは常に $y > 0$ が成り立っているということになるよね。 $x$ 軸よりも上というのは $y > 0$ ということだから」

$y = 10^x$ のグラフと真数条件 $y > 0$

ユーリ「お、おおっ? にゃるほどー……」

「さらに言い換えてみるよ。 $y = 10^x$ という $x$ と $y$ との関係を、 $\log$ を使って書くなら $\LOG{y} = x$ になるけれど、それは、 $x$ と $y$ の関係を逆の視点で見ているだけなんだよ。 $y > 0$ としたとき……」

$$ y = 10^x \quad \Longleftrightarrow \quad \LOG{y} = x $$

ユーリ「そっかー。 $y = 10^x$ と $\LOG{y} = x$ は逆の視点……」

「ね? だから、 $\LOG{y}$ という数式をみたときには $y > 0$ という真数条件を絶対に忘れないようにしなくちゃいけないんだ。 $y > 0$ は納得した?」

ユーリ「納得……してない」

「がく。え? どうして?」

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結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

lighty_karume グラフを「読む」事でいろいろな事が「見える」典型だね!値の範囲や、逆関数の意味もわかる!ユーリの探究心はすごいにゃあ! 約4年前 replyretweetfavorite

cielavenir ふと思い立ってGoogleにお伺いを立てたところ、やはりlog10(-1)=πilog10(e)で正解だった感じ http://t.co/c5fD2eitGA) 約4年前 replyretweetfavorite

otuka_T 数学苦手だけど、これは毎週楽しく読める 約4年前 replyretweetfavorite

chibio6 真数条件をすっとばして、対数関数の値に-をとるとどうなるのか、次回が楽しみだ。 約4年前 replyretweetfavorite