27歳になったその日、世界が変わった。
1978年10月2日、スティングが27歳の誕生日を迎えた日のこと。
彼が商店に向かって思いきりビール箱を投げつけると、ウィンドウ・ガラスが派手な音を立てて砕け散った。
その日は早朝から映画『さらば青春の光』の撮影だった。
警官も入り乱れて100人以上のモッズとロッカーが対決するこの暴動シーンは、特に印象的な場面の一つだ。
小学校教師を辞めて以来、失業保険しか収入のなかったスティングは、妻と息子を養うため友人から紹介された俳優業を引き受けていた。
自身のバンド、ポリスは半年前にシングル「Roxanne」でデビューするも、セールス的に振るわず、音楽シーンでは無名同然だった。
午後4時に撮影が終わったスティングは、車と飛行機を乗り継ぎ、マンチェスターにあるスタジオに、文字通り飛んで向かった。
夜にはBBCの超人気音楽番組「ザ・オールド・グレイ・ホイッスル・テスト」でポリスの生ライブが予定されていたのだ。
この時のライブで、スティングは不自然なほど大きなサングラスをしている。
本番前にプラチナシルバーのヘアスプレーを誤って目に噴射し、眼球を火傷してしまったのだ。
偶然にもスタジオの隣が眼科だったためすぐに治療は済んだものの、目は真っ赤だった。
ベースを弾いて歌いながら、スティングはずり落ちてくるサングラスと必死で格闘していた。
そんな訳でスティングは演奏中に、しきりにクイッと頭を左上に振る仕草を見せたのだった。
スティングいわく、このライブは「人生で最も長い十分間」だったという。
収録が終わるとすぐさま、今度は寝台列車に乗って、再び撮影現場に向かった。
こうして、過密スケジュールの中、スティングの27歳最初の日は終わった。
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