(第74回の続き)
$$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} $$
リビングにて
ユーリ「いーな、いーな! お兄ちゃんっていつもミルカさまとお話しできるんでしょ?」
僕「同じクラスだしね」
ユーリ「ミルカさまって、いろんな問題をばしばしっと解決しちゃうから……くううっ!」
僕「なに感極まってるんだよ」
ユーリ「ところで、その《たいすー》って何?」
僕「がく。対数っていうのは、大きな数を扱うときに便利なものだよ。ミルカさんが対数の話をしたのは、とてつもなく大きくなる指数関数の話をしていたからなんだ」
ユーリ「へー。あのね、テトラさんがグラフたくさん描いて、ミルカさまが対数の話をしたのはわかったんだけど、カンジンのその対数が何かわかんないから、 いまいち盛り上がれない」
僕「いま、じゅうぶん盛り上がっていたじゃないか」
ユーリ「あれは別腹」
僕「わけがわからないよ」
ユーリ「とゆーわけで、お兄ちゃんには対数の詳しい解説が求められているのぢゃ」
対数
僕「じゃあね、簡単なクイズからね。『 $10$ を何乗すると $100$ になりますか?』」
ユーリ「え? $100$ は $10$ の $2$ 乗……でしょ? なら $2$ が答え?」
僕「そうだね、その通り」
$$ 10^2 = 100 $$
ユーリ「それで?」
僕「では、次のクイズ。『 $10$ を何乗すると $1000$ になりますか?』」
ユーリ「ねーお兄ちゃん、簡単すぎるよ、そのクイズ。 $3$ でしょ?」
僕「はい正解」
$$ 10^3 = 1000 $$
ユーリ「それで、対数の話は?」
僕「いまお兄ちゃんはユーリに『 $10$ を何乗すると $100$ ?』とか『 $10$ を何乗すると $1000$ ?』って訊いたよね」
ユーリ「うん。答えたよ」
僕「実はね、ユーリはいま《対数を求めた》んだよ」
ユーリ「は? 意味わかんない」
僕「つまりね、『 $10$ を何乗すると $100$ になるか答えよ』という質問は『 $100$ の対数を求めよ』という質問と同じ」
ユーリ「へ、へー……あ! じゃあさ、 $100$ の対数は $2$ なの?」
僕「そうだよ。そして、 $1000$ の対数は $3$ に等しい」
ユーリ「そーなんだ! なーんだ、簡単じゃん!」
『 $10$ を何乗すると $100$ になるか』
『 $100$ の対数を求めよ』
『 $10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』
『 $100$ の対数は $2$ に等しい』
僕「簡単だよね」
ユーリ「うん、簡単」
僕「いまの話は、対数の基本中の基本。かなり大ざっぱだけどね」
ユーリ「大ざっぱって?」
僕「『 $100$ の対数を求めよ』という質問は言葉が足りないっていうこと。ちゃんというなら『 $10$ を底としたとき、 $100$ の対数を求めよ』という必要があるんだ」
ユーリ「ははーん。あれだね《何乗するか》のもとの数を決めなきゃダメってこと?」
僕「そうそう、ユーリ、さえてるな」
『 $10$ を何乗すると $100$ になるか』
『 $10$ を底としたとき、 $100$ の対数を求めよ』
『 $10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』
『 $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい』
ユーリ「ふふん。こんなの簡単じゃん!」
僕「定義の形でまとめておこうか」
$0$ より大きい数 $a$ に対して、
$$ 10^x = a $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $a$ の対数》と呼ぶ。
ユーリ「ふんふん」
僕「じゃあ、クイズだよ。『 $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は?』」
ユーリ「一万? $4$ だね」
僕「正解! 『 $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい』」
ユーリ「ふふん。要するにあれだよね。対数って《ゼロの個数》なんだね!」
僕「そうだね。 $10$ を底としたとき、 $10^n$ の形をしている数については、対数は《ゼロの個数》に等しくなる。その通り」
ユーリ「何にも難しいことないね」
僕「それじゃ、こんなクイズは? 『 $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は?』」
ユーリ「お、おおっ? ……そっか、わかった! $0$ だ!」
僕「はい、正解です。 $10^0 = 1$ だから、 $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ になる。ユーリがさっき言ったように《ゼロの個数》としてもいいね。 $10$ を底としたとき……」
- $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい。
- $10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい。
- $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい。
- $10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい。
- $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい。
- $10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい。
- ……
- $10$ を底としたとき、 $1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}$ の対数は $n$ に等しい。
ユーリ「お兄ちゃん、わかったよ。ありがと!」
僕「いやいや、話はここから始まるんだけど」
ユーリ「へ?」
log
僕「いちいち《 $10$ を底としたとき、この数の対数は何か》と言わずに済むように、数学者は記号を使っているよ」
ユーリ「記号?」
僕「そう。対数を表す記号。《 $10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数》のことを $\LOG{a}$ と書くんだよ。 $\log$ は《ログ》」
$10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数を、
$$ \LOG{a} $$
と書く。
ユーリ「ログ・エー……」
僕「うん、そうだよ」
ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。さっきまで、対数ってすごく簡単だと思ってたんだけど、何だか急に難しっぽくなった」
僕「 $\LOG{a}$ のような数式が出てきたからだろ」
ユーリ「たぶん、そう」
僕「数式で少し遊べばすぐ慣れるんだけどね」
ユーリ「出たな数式マニア。その《数式で遊ぶ》って発想が驚きだよね」
僕「そうかなあ」
ユーリ「そーだよー」
僕「でも、お兄ちゃんが数式変形すると、ユーリいつも楽しそうじゃないか」
ユーリ「まー、そーなんだけど……そんで、ログ・エーでどう遊ぶの?」
僕「まずはクイズだよ。 $\LOG{100}$ の値はなーんだっ♪」
ユーリ「キャラに合わないから、そんな言い方しないほーがいいよ」
僕「では、 $\LOG{100}$ の値は?」
ユーリ「ログ・ひゃくの値……えーと、まちがっても笑わないでよ」
僕「笑わないよ」
ユーリ「……たぶん、 $2$ かにゃ?」
僕「はい正解。どうしてそう思った?」
ユーリ「 $100$ のゼロの数だから、 $2$ かなって……」
僕「うん、それでいいよ。《 $10$ を何乗したら $100$ になるか》という数が $\LOG{100}$ だからね」
ユーリ「ねー、じゃさー、 $\LOG{1000} = 3$ ってこと?」
僕「そうだよ、それでいい。さっきの表をもう一回書こうか」
- $\LOG{1} = 0$ ( $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい)
- $\LOG{10} = 1$ ( $10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい)
- $\LOG{100} = 2$ ( $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい)
- $\LOG{1000} = 3$ ( $10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい)
- $\LOG{10000} = 4$ ( $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい)
- $\LOG{100000} = 5$ ( $10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい)
- ……
- $\LOG{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}} = n$ ( $10$ を底としたとき、 $1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}$ の対数は $n$ に等しい)
ユーリ「ふんふん。よくわかるよくわかる」
僕「 $\LOG{a}$ という書き方は単なる約束だから、慣れてしまえば別に難しいことはないよね」
ユーリ「まーね。でもこの下の方にある小さい $10$ はうざいよね、いちいち」
僕「 $\LOG{a}$ の ${}_{10}$ は底を表しているから必要なんだけど、もしも底が何かはっきりしているんだったら、省略しても問題はないよ。 $\log{a}$ のようにね」
ユーリ「あ、すっきり」
僕「でも、慣れるまでは $\LOG{a}$ のように書いていた方がいいと思うよ」
ユーリ「へーい」
僕「ではここで問題です」
次の式を満たす $x$ を求めよ。
$$ \LOG{x} = -1 $$
ユーリ「 $-10$ でしょ?」
僕「え、えええ?」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)