第75回 ゼロの足し算(前編)

「うん、そういうときは《自分で自分にクイズを出すんだよ》」と僕は言った。
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第74回の続き)

$$ \newcommand{\LOG}[1]{\log_{10}{#1}} $$

リビングにて

ここはの家のリビング。 いつものようにユーリが遊びに来ている。 は先日のミルカさんテトラちゃんとの対話をユーリに説明していた。 対数の話だ。

ユーリ「いーな、いーな! お兄ちゃんっていつもミルカさまとお話しできるんでしょ?」

「同じクラスだしね」

ユーリ「ミルカさまって、いろんな問題をばしばしっと解決しちゃうから……くううっ!」

「なに感極まってるんだよ」

中学生のユーリミルカさんにあこがれているのだ。

ユーリ「ところで、その《たいすー》って何?」

「がく。対数たいすうっていうのは、大きな数を扱うときに便利なものだよ。ミルカさんが対数の話をしたのは、とてつもなく大きくなる指数関数の話をしていたからなんだ」

ユーリ「へー。あのね、テトラさんがグラフたくさん描いて、ミルカさまが対数の話をしたのはわかったんだけど、カンジンのその対数が何かわかんないから、 いまいち盛り上がれない」

「いま、じゅうぶん盛り上がっていたじゃないか」

ユーリ「あれは別腹」

「わけがわからないよ」

ユーリ「とゆーわけで、お兄ちゃんには対数の詳しい解説が求められているのぢゃ」

対数

「じゃあね、簡単なクイズからね。『 $10$ を何乗すると $100$ になりますか?』」

ユーリ「え?  $100$ は $10$ の $2$ 乗……でしょ? なら $2$ が答え?」

「そうだね、その通り」

$10$ を $2$ 乗すると $100$ になる
$$ 10^2 = 100 $$

ユーリ「それで?」

「では、次のクイズ。『 $10$ を何乗すると $1000$ になりますか?』」

ユーリ「ねーお兄ちゃん、簡単すぎるよ、そのクイズ。 $3$ でしょ?」

「はい正解」

$10$ を $3$ 乗すると $1000$ になる
$$ 10^3 = 1000 $$

ユーリ「それで、対数の話は?」

「いまお兄ちゃんはユーリに『 $10$ を何乗すると $100$ ?』とか『 $10$ を何乗すると $1000$ ?』って訊いたよね」

ユーリ「うん。答えたよ」

「実はね、ユーリはいま《対数を求めた》んだよ」

ユーリ「は? 意味わかんない」

「つまりね、『 $10$ を何乗すると $100$ になるか答えよ』という質問は『 $100$ の対数を求めよ』という質問と同じ」

ユーリ「へ、へー……あ! じゃあさ、 $100$ の対数は $2$ なの?」

「そうだよ。そして、 $1000$ の対数は $3$ に等しい」

ユーリ「そーなんだ! なーんだ、簡単じゃん!」

《次のふたつは同じ話》
『 $10$ を何乗すると $100$ になるか』
『 $100$ の対数を求めよ』
《次のふたつは同じ話》
『 $10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』
『 $100$ の対数は $2$ に等しい』

「簡単だよね」

ユーリ「うん、簡単」

「いまの話は、対数の基本中の基本。かなり大ざっぱだけどね」

ユーリ「大ざっぱって?」

「『 $100$ の対数を求めよ』という質問は言葉が足りないっていうこと。ちゃんというなら『 $10$ をていとしたとき、 $100$ の対数を求めよ』という必要があるんだ」

ユーリ「ははーん。あれだね《何乗するか》のもとの数を決めなきゃダメってこと?」

「そうそう、ユーリ、さえてるな」

《次のふたつは同じ話》
『 $10$ を何乗すると $100$ になるか』
『 $10$ を底としたとき、 $100$ の対数を求めよ』
《次のふたつは同じ話》
『 $10$ を $2$ 乗すると $100$ に等しい』
『 $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい』

ユーリ「ふふん。こんなの簡単じゃん!」

「定義の形でまとめておこうか」

対数の定義
$0$ より大きい数 $a$ に対して、
$$ 10^x = a $$
が成り立つとする。
このとき、 $x$ を《 $10$ を底とする $a$ の対数》と呼ぶ。

ユーリ「ふんふん」

「じゃあ、クイズだよ。『 $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は?』」

ユーリ「一万?  $4$ だね」

「正解! 『 $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい』」

ユーリ「ふふん。要するにあれだよね。対数って《ゼロの個数》なんだね!」

「そうだね。 $10$ を底としたとき、 $10^n$ の形をしている数については、対数は《ゼロの個数》に等しくなる。その通り」

ユーリ「何にも難しいことないね」

「それじゃ、こんなクイズは? 『 $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は?』」

ユーリ「お、おおっ? ……そっか、わかった! $0$ だ!」

「はい、正解です。 $10^0 = 1$ だから、 $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ になる。ユーリがさっき言ったように《ゼロの個数》としてもいいね。 $10$ を底としたとき……」

  • $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい。
  • $10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい。
  • ……
  • $10$ を底としたとき、 $1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}$ の対数は $n$ に等しい。

ユーリ「お兄ちゃん、わかったよ。ありがと!」

「いやいや、話はここから始まるんだけど」

ユーリ「へ?」

log

「いちいち《 $10$ を底としたとき、この数の対数は何か》と言わずに済むように、数学者は記号を使っているよ」

ユーリ「記号?」

「そう。対数を表す記号。《 $10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数》のことを $\LOG{a}$ と書くんだよ。 $\log$ は《ログ》」

$10$ を底とする対数
$10$ を底としたとき、 $0$ より大きな数 $a$ の対数を、
$$ \LOG{a} $$
と書く。

ユーリ「ログ・エー……」

「うん、そうだよ」

ユーリ「ねえ、お兄ちゃん。さっきまで、対数ってすごく簡単だと思ってたんだけど、何だか急に難しっぽくなった」

「 $\LOG{a}$ のような数式が出てきたからだろ」

ユーリ「たぶん、そう」

「数式で少し遊べばすぐ慣れるんだけどね」

ユーリ「出たな数式マニア。その《数式で遊ぶ》って発想が驚きだよね」

「そうかなあ」

ユーリ「そーだよー」

「でも、お兄ちゃんが数式変形すると、ユーリいつも楽しそうじゃないか」

ユーリ「まー、そーなんだけど……そんで、ログ・エーでどう遊ぶの?」

「まずはクイズだよ。 $\LOG{100}$ の値はなーんだっ♪」

ユーリ「キャラに合わないから、そんな言い方しないほーがいいよ」

「では、 $\LOG{100}$ の値は?」

ユーリ「ログ・ひゃくの値……えーと、まちがっても笑わないでよ」

「笑わないよ」

ユーリ「……たぶん、 $2$ かにゃ?」

「はい正解。どうしてそう思った?」

ユーリ「 $100$ のゼロの数だから、 $2$ かなって……」

「うん、それでいいよ。《 $10$ を何乗したら $100$ になるか》という数が $\LOG{100}$ だからね」

ユーリ「ねー、じゃさー、 $\LOG{1000} = 3$ ってこと?」

「そうだよ、それでいい。さっきの表をもう一回書こうか」

  • $\LOG{1} = 0$ ( $10$ を底としたとき、 $1$ の対数は $0$ に等しい)
  • $\LOG{10} = 1$ ( $10$ を底としたとき、 $10$ の対数は $1$ に等しい)
  • $\LOG{100} = 2$ ( $10$ を底としたとき、 $100$ の対数は $2$ に等しい)
  • $\LOG{1000} = 3$ ( $10$ を底としたとき、 $1000$ の対数は $3$ に等しい)
  • $\LOG{10000} = 4$ ( $10$ を底としたとき、 $10000$ の対数は $4$ に等しい)
  • $\LOG{100000} = 5$ ( $10$ を底としたとき、 $100000$ の対数は $5$ に等しい)
  • ……
  • $\LOG{1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}} = n$ ( $10$ を底としたとき、 $1\underbrace{000\cdots0}_{\text{$ n $}個}$ の対数は $n$ に等しい)

ユーリ「ふんふん。よくわかるよくわかる」

「 $\LOG{a}$ という書き方は単なる約束だから、慣れてしまえば別に難しいことはないよね」

ユーリ「まーね。でもこの下の方にある小さい $10$ はうざいよね、いちいち」

「 $\LOG{a}$ の ${}_{10}$ は底を表しているから必要なんだけど、もしも底が何かはっきりしているんだったら、省略しても問題はないよ。 $\log{a}$ のようにね」

ユーリ「あ、すっきり」

「でも、慣れるまでは $\LOG{a}$ のように書いていた方がいいと思うよ」

ユーリ「へーい」

「ではここで問題です」

問題(対数が負になるとき)
次の式を満たす $x$ を求めよ。
$$ \LOG{x} = -1 $$

ユーリ「 $-10$ でしょ?」

「え、えええ?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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ryoheifg 対数のお勉強には、結城浩先生が書かれている 「数学ガールの秘密のノート」の第75,76回がわかりやすくておすすめです。 無料でもかなりの文章量を読むことが可能なので、気になった方は有料登録もぜひ(*´∀`) 2年以上前 replyretweetfavorite

lighty_karume 高校時代にlogを10gと勘違いした数学者がいましたが(笑)「10の[loga]乗」と「log[10のn乗]」の対比は深いね! 3年以上前 replyretweetfavorite

gomincyu 朝の寝ぼけた脳に少し喝が入った!続きが早く読みたい… ゼロの足し算(前編)| 4年弱前 replyretweetfavorite

koukyoraku 定義にかえれ かー 理解した気になって手痛い目にあってきた身としては刺さるお言葉 4年弱前 replyretweetfavorite