前回のコラムでは、ハフポストなど新世代の「バイラルメディア」が、従来のマスメディアやウェブメディアとどのように異なっているのかというお話をしました。
大手新聞社からバイラルメディアに、米国で優秀な若手ジャーナリストが次々移籍したり、またこれらのバイラルメディアが従来のメディア業界にあった「ナショナル(国籍)バイアス」の壁を越えて「グローバル展開」することに成功しつつあります。それは、彼らが単にコンテンツの「配信」をインターネットでやるだけでなく、「取材」や「編集」といった従来のメディアがその大半を非オンラインで内製化していた業務プロセスまでを「民主化」し、インターネットの乗数効果を徹底的に生かせる情報システムを開発したからだ、という話でした。
しかし、ここまで聞いて、次のような疑問を感じた人もいたのではないでしょうか。
「ちょっと待ってくれ。従来のウェブメディアはアクセス数に応じた広告収入しか入らないから、利益を出すために取材や編集のコストを削るしかなくなって質が下がったと言っていたが、バイラルメディアだって同じことではないか? 確かに同じ数の記事からより多くのアクセスを稼ぎ出せるのなら、従来のウェブメディアよりも多少コストをかけることはできるようになるかもしれないが、そもそもアクセス数に応じた広告という収益モデルが同じなら、いつかは同じようにコスト削減の競争にはまってしまうのでは?」
まさにそのとおりで、バイラルメディアの最大の問題はこの「収益モデル」にあります。今日はそのことを考えてみたいと思います。
民主化されたメディアの読者は企業広告を拒絶する
バイラルメディアは、メディアとしての業務プロセス(取材・編集・配信)のすべてにわたって読者を巻き込む仕組みが組み込まれています。従来のマスメディアやウェブメディアの編集者が「勝手に」作って配信するニュース記事に比べて、読者である自分自身や自分と近い立場の人のコメントが引用されていたり、記事の周囲にその記事を勧めている自分の知り合いの顔写真が並んでいたりといった仕掛けにより、読者が記事を「自分や自分の知り合いにかかわる情報である」と実感しやすくなっています。だからこそ、読者のエンゲージメント(記事をただ読むだけでなく、ソーシャルメディアで知り合いに紹介したり、自分のコメントを書き込んだりといった行動に出ること)が圧倒的に高く、拡散の範囲やスピードも広く速くなります。
要するにバイラルメディアの拡散力の源泉は、より多くの読者に記事内容を「自分ごと」と思わせるその記事生成の仕組み・仕掛けにあるわけです。この仕組み・仕掛けによって生み出されていないコンテンツが同じように読者に「自分ごと」と思われて拡散するとは限りません。
この構造の影響をもろに受けるのが、メディアの収益手法としてもっとも一般的な「広告」です。
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