久しぶりにワクワクした田舎での生活
4月28日に『フルサトをつくる』(東京書籍)という本を出した。『ナリワイをつくる』(同)という本の著者である伊藤洋志くんとの共著だ。
どういう本かというと、「田舎に自分たちで新しい故郷(フルサト)を作ろう」というのがテーマで、僕と伊藤くんが実際に和歌山県の熊野地方の、洪水(2011年の紀伊半島大水害)で浸水してやられてしまった一軒家を改修して人が集まる場所にしたという活動を紹介しながら、過疎地の新しい活用法についていろんなことを論じている。自分の実際の故郷じゃないけど、疲れたときや人生に失敗したときに帰って休んだり、長い休みなどにときどき帰ってリフレッシュできるような場所を自分で田舎に新しく作って、メインで住む場所=都会と、たまに帰る場所=フルサトの二箇所を連動させたら楽しいんじゃないか、という本だ。
僕が前に書いた本『ニートの歩き方』(技術評論社)は「働くのってだるいし、あんまり働きたくない人は働かなくてもいいはずだと思うし、インターネットとかシェアハウスとか活用したらなんとか生きていけるんじゃね?」って本だったんだけど、「なんとか死なないだけの最低限の生活を確保しよう」って趣旨はそのときから一貫していてこの本もその延長線上にある。
都会で貧乏だと安アパートとか脱法ハウスに押し込められて生きるしかないわけだけど、田舎なら空き家が腐るほど余ってるので(木造の家は本当に腐る)月に5000円くらいで一軒家が借りられたりする。そういう物件は安すぎて不動産屋には出てこないので、地道に知り合いのつてなどで探すしかない。住宅事情だけ見てみてもやっぱりこの都会と田舎の格差はバランスが悪いと思うので、田舎に移住するのはハードルが高いけど、うまく都会と田舎を連動させて「都会と田舎を行ったりきたりする」って感じで田舎の余った家や土地をうまく活用すればいいんじゃないだろうかと思う。
例えば都会のシェアハウス(相部屋)を月2万5000円で借りて田舎の一軒家を月5000円で借りる。それで平日は都会で働いてシェアハウスは寝るだけに使って、週末は田舎の一軒家でDIYとか畑とかやりながらのんびり過ごす。それって、田舎と都会の往復の交通費はかかるけど、都会で月6万出して狭いワンルームマンションに住むよりも充実感のある暮らしができるんじゃないだろうか。
あと、田舎は安く快適に過ごせるというのもあるけれど、安心感やセーフティーネットとしての役割だけじゃなく、都会やインターネットよりも未開拓感があってワクワクするというのも田舎に関わり始めた理由だ。僕は昔(7年前くらい)は「インターネット最高」「wi-fiがないと呼吸ができない」「No Internet No Life」とか言ってたんだけど、なんか最近はそんなにインターネットにワクワクしなくなってきた。多分それは、ネットがメジャーになってきて人が増えすぎて、自由にいろんなことをやっていける感や自分たちでいろいろ作っていける感がなくなってきたからだ。
「昔のインターネットはよかった」とか言うと老害っぽいけど、でも昔のネットは、もっと人が少なくて面白い少数の人たちと繋がれる感じがあって、現実世界と切り離された独自の世界という雰囲気があって居心地がよかった。ウェブサービスとかも、ちょっとプログラミングを覚えれば自分たちで何でも作っていけるDIY感があった。
今のネットは人が増えすぎたし、すっかり現実世界と繋がってしまった。Twitterのようなリアルタイム性の高いサービスによって現実の生活とネットが連動して、FacebookなどのSNSによって現実の人間関係がネットにも呼び込まれた。ネットがメジャー化することで企業の経済活動がネット空間に溢れて、たくさんの資本が投入されて綺麗に作り込まれたサイトやサービスが増えて、自分たちだけの手作りの遊び場感は薄れてしまった。
ネットはそのへんの普通の人たちもみんなが使うものになってアンダーグラウンド感はなくなった。何か変なことを言ったりやったりするとすぐに晒し上げられ炎上するようになってしまい、ここだけの内緒の話とかヤバいけど面白い話というようなものは、全部LINEやFacebookなどの身内だけのクローズドな場に引っ込んでしまうか、もしくは昔のように会話のログが残らないオフラインの場で話されるようになってしまった。インターネットは日の当たる場所になりすぎた。
まあそれは仕方がないことだと思う。何でも人が増えすぎると尖った部分がなくなってつまらなくなるものだし、かと言って優れたものに人が集まるのは止められない。何でも一番面白いのは発展途上の過渡期の時期だ。
そんなこんなでネットにあまりエキサイティングさを感じなくなってしまったんだけど、でも他にすることもないからネットを辞めるわけでもなくて、なんとなく惰性でだらだらネット生活を送っているときに、たまたま田舎に行ったら昔のネットに感じたような未開拓感を感じて、久しぶりにワクワクしたのだ。