「私とおばあちゃんとは、いつもトニー・ベネットとフランク・シナトラについて言い争いになっていたの。私はベネットが大好きで、おばあちゃんはシナトラが好きだった」
命を削るように歌い、短い人生を駆け抜けたエイミー・ワインハウス。
酒に溺れ、ドラッグに溺れ、セックスに溺れる、放蕩の限りを尽くした女性シンガーというイメージが強調されがちだが、その一方で家族想いの優しい面もあった。
彼女が9歳の頃に両親が離婚するなど波乱に満ちた人生ではあったが、暮らしの中には音楽が溢れていた。
なかでもジャズ・シンガーとして活動した過去を持ち、サックス奏者ロニー・スコットと婚約関係にもあったという祖母のシンシア・レヴィと好きなジャズ・シンガーについて語る時間は、おばあちゃん子だったエイミーにとって幸せなひとときだった。
「おばあちゃんと一緒にキッチンに腰掛けて、よく話をしたわ。私が『大変! 今夜、トニー・ベネットのライブがあったの見逃しちゃったわ!』なんて騒いでると、おばあちゃんは肩をすくめながら『だからどうしたのよ? ただのトニーじゃない』なんておちょくってきたりね」
2006年に発表した『Back To Black』の世界的なヒットでスターダムへとのぼりつめたエイミーだったが、彼女を酒とドラッグの道へと引きずりこんだとされるかつての恋人、ブレイク・フィールダー・シビルとの激しくも破滅的な恋愛が再燃。
再び生活は荒み、リハビリ施設への入退院を繰り返す中、キャリアは停滞する。
2009年8月にブレイクと離婚。
その後、新たな恋人となった映画監督レグ・トラヴィスは、彼女との結婚を真剣に考えていたという。
その愛情に応えるようにアルコールやドラッグの依存から脱し、音楽活動への本格的な復帰を目指していた2011年3月、幼い頃からの憧れであったトニー・ベネットから、デュエットを録音するという機会を得た。