パトロン募集で家入一真氏と出会う
—— 会社をやめていろいろ始めた頃にはもう、家入さんと一緒に仕事を始めていたんですか?
高木新平(以下、高木) いや、その頃はまだ面識はなかったんですよ。でもシェアハウスやOne Voice Campaignみたいな活動はおもしろいけど、直接的にはお金にならない。あんまりにもそういうことばかりやってて貯金がなくなってきたときに「誰かパトロンになって!」っていうことをツイートしたら、会ったこともない家入さんが「俺がなる」って声を掛けてくれたんです。
たまたまシェハウスの裏が家入りさんの家だったこともあって、「じゃあ会いましょう」と。それから頻繁に会うようになっていくんですけど。
—— 家入さんは、高木さんの活動をスポンサードしてくれてたんですか。
高木 結局してくれなかったんですよ! 家入さんってほんとおもしろい人で、「実はお金なかったんだけど、会いたかったから、なるって言っちゃった」みたいなことを言われて(笑)。でもそこから、せっかくなので一緒に何かやりましょう、という話になっていったんです。家入さんのほうが9つ上なんですがそんな感じはしなかった。
—— お互い年齢も立場も違ったと思いますが、なにか共通するところがあったんでしょうか。
高木 僕は「いいコミュニティを作って、それを社会的なものに広めたい」という話をして、家入さんは「おもしろいWebサービスを立ち上げまくりたい」ということを言っていました。
それで「liverty(リバティ)」という集団を組織しようって話になったんです。シェアハウス「リバ邸」に集まった人間たちが、自由な生き方をしながらWebサービスを作って、伸びてきたら会社化して……という形で広げていく。今はそれが全国に数箇所あって、ECサイトとしては大きくなってきた「BASE(ベイス)」とかが生まれたりしています。
—— どんなふうに都知事選のブレーンをやることを決めたんですか? 家入さんの出馬自体も、かなり唐突というか、予想外な形に見えましたが。
高木 期限ギリギリの24時間くらい前に決まりましたからね。実はあのとき僕は語学留学でフィリピンに居たんですけれど、突然家入さんから電話かかってきて、「都知事選に出馬することにした。明日早速、出馬表明の記者会見があるんだけど、何を言えばいいか考えてくれないか?」って言われたんです。
—— ええ! なんというか……無茶ぶりですね(笑)。
高木 そうなんですよ。でも、僕も僕で興味があったし、いろいろ考えた末に「やるよ!」って応えましたけど。
高木 家入さんという人はとても感覚的なところがある人で、すごく思考しているけど、それを言葉にするのが得意じゃないんです。ツイートとかは妙にうまいんですけれど、普通のコミュニケーションが苦手というか。
—— 確かに、実際に会ってみると、ネット上のイメージとは違う方ですね。
高木 会うと元ひきこもりって感じが伝わってくるんですけど、ネットではイケイケですからね。本当はすごく真面目なのに、照れてふざけちゃったり、人前だと緊張しちゃったりして、内面で考えていることが伝わりづらい人なんですよね。
2年ほどわりと近くにいたもので、僕はそれをなんとなく理解できたので、そういう家入さんのメッセージを言語化することが、僕の一番の役割だったと思います。
—— そこから、高木さんがキャンペーン戦略を考えていったんですね。
高木 はい。まず、そもそも何を発信するのかということを考え始めました。僕がゼロから言葉を作るというより、今まで散々家入さんと話してきたなかで伝わってきた想いを文脈にして、言語化するという作業でした。とりあえずは大筋として言いたいことをシート1枚くらいにまとめました。それとポスターやウェブに置くコピーを考えました。
—— 実際の都知事選出馬会見は、他の有力候補者と比べてみても、抜群にわかりやすいメッセージだったと思います。
高木 一言一言、キチンと考えて伝えようとしていましたね。メディアからの質問に対してもそうですけど、目の前にいる人の言葉に誠実に向き合って、正直に世の中に問うていく。それが家入さんらしさだし、強みなんです。途中で「もうすこししっかり答えて!」って思うところもあったけれど、本質的な想いはハッキリ伝わってきた。
—— 正直すぎる感じもしましたが、誠実にも感じました。
高木 そうですね。あの姿を見て、僕も、ほかのスタッフみんなも、「ああ、やっぱりそういう選挙戦にしよう」と確信することができたんです。僕の好きな言葉で、「偉大な思想になどならなくてもいいから、偉大な質問になりたい」という寺山修司のセリフがあるんです。
—— 偉大な質問、ですか。
高木 はい。今の世の中では、家入さんの存在に近いなと思っていて。「答えを示す政治家」ではなく、コントラバーシャルな存在、つまり議論を引き起こす存在でありたいということなんです。人々の小さな意見を集めて、それを代弁する。この選挙戦は、そういう試みだったんだなと思っています。
さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
「“ぼくら”とは一体だれのことなのか?」高木新平
ぜひこちらからお楽しみください。
構成・インタビュー撮影 呉琢磨、ポートレイト撮影 喜多村みか