なぜ、人にひどいことを言ってはいけないのか
—— 前回、非論理的な部分しか人間性は残らない、という話になりました。なにかそれに気づいた出来事などがあったのでしょうか? 例えば、論理的な話をしすぎて女の子にふられた、とか(笑)。
川上量生(以下、川上) あー、ふられた話じゃないですが、エピソードとしてちょうどいい話はあります(笑)。なんか「いい話」に聞こえてしまいそうな。いい話にはしたくないんですけどね。
—— そのエピソード、聞きたいです。
川上 僕は新卒で入った会社で、海外企業から日本での権利を取るビジネスをやっていたんです。その海外担当の課長がものすごく仕事のできない人でした。話も通じない。だから僕は、邪魔なのでクビにしろということを、社内で公言していました。
—— そのとき川上さんはいくつだったんですか?
川上 24歳ですね。入社して間もない頃です。で、その課長は僕より20歳くらい年上の人。その人のことを「ほんとあいつ使えない」とか言ってました。
—— うわあ……。
川上 その課長は誰に対しても話が通じないから、けっこう社内に敵が多かったんですよ。だから僕が悪口を言っていても、誰も諫めませんでした。そうしたら、ある日突然、社長に呼び出されて怒られたんです。もう、並大抵の怒り方じゃなかった。僕は、それにびっくりしたんです。何でそこまで怒られなきゃいけないのかと。
—— ふむ。
川上 「彼にだって生活がある」みたいなことを社長は言うんですけど、仕事ができない人を雇い続けて会社の業績が悪くなったら、他の社員の生活だって守れなくなるじゃないですか。守れる人数は、利益に比例しますよね。だから、ああいう人を雇うことは、会社にとってマイナスでしかない。あらゆる観点から考えて、当時の僕は、理解ができませんでした。
—— はい。
川上 で、普段だったら、「自分が正しいよな」と思っておしまいなんですよ。オタクですから。でも、その時の社長の怒り方が尋常じゃなかったから、僕は本当にひどいことをしたのかもしれないという疑念を抱き続けていたんです。その後も折にふれて「あれはなんだったんだろう」と思い返していました。このことについては、24歳から40歳の手前くらいまでずーっと考えていたんです。
—— 15年にわたって。それは長いですね。
川上 よく「歳をとるとわかるようになる」とか言うじゃないですか。そういうことを言う人は多いから、一応その可能性もゼロではないと思って、判断を留保していました。で、考えるたび、「どうかんがえてもやっぱりおかしい」という結論にたどりつくんですよね(笑)。「あの人やっぱりクビだよねー」としか思えなかった。
—— そう簡単には変わらない(笑)。
川上 でもね、7、8年くらい前から、あのときの社長の「気持ち」が理解できるようになったんですよ。なぜあんなに怒ったのかという理由はわからなかったけれど。
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