ぼくがジョブズに教えたこと

第2回】最良の求人広告は「職場」である。

今回のお題は「人材採用」と「企業イメージ」について。クリエイティブで優秀な人に入ってきてほしい――これ、あらゆる経営者の切実な願いですよね。70年代のアタリ社は、若き日のジョブズが「雇ってくれるまで帰らない」とゴネるほど、クリエイターやエンジニアの梁山泊のような職場でした。ずばぬけて優秀な人材が自然に集まる会社の共通点とは? 5/1発売の書籍版から一足お先にご紹介します。(訳=井口耕二

ジョブズが入社したくなる会社とは?

アタリ社がスティーブ・ジョブズをみつけたわけではない。我々は、彼が我々をみつけやすくしただけだ。優れた会社というのは、それ自体が年中無休の広告となる。

1970年代半ば、アタリは大会社だったが、ふつうとはいいがたいところだった。クリエイティブな人々が存分に力を発揮できる風変わりな職場で、彼らが、歩く広告塔として会社の宣伝をしてくれていた。アタリという会社がなにをしているのか、どういう製品を作っているのかなどをあちこちで語ってくれたのだ。

一番よく語ってくれたのは、そこで働くのがいかに楽しいか、だろう。

当時、会社のロビーというのは葬儀場かと思う雰囲気が漂っているのがふつうだったが、アタリのロビーはゲームセンターのようになっていた。アタリはアーケードゲームの会社なのだ。だったら社員にも楽しんでもらうべきだろう。もちろん、みんな楽しく遊び、その話を友だちに語りまくってくれた。

あのロビーはとにかく変わっていた。そこら中がセコイアとシダで飾られていて、どこぞのジャングルにでも足を踏みいれたような気になるのだ。会社という雰囲気はまったくない。これもまた、「イマジネーションが重視される場所」というイメージの醸成に一役買っていた。

(ジャングルのような入り口を作ったのが誰なのか、私は知らない。年をとったせいではない。アタリでは、上司から許可を得なくてもおもしろいことはどんどんしていいことになっていたからだ。だから、ロビーを作ったのが才覚抜群のやつであることはわかるが、それが誰なのか、私にはわからないのだ。)

アタリではなにをしても楽しい雰囲気だったが、一番楽しかったことといえば、会社裏手の荷さばき場で金曜日に開いたビール片手のどんちゃん騒ぎだろう。必要なのはビールにピザ、それに音楽くらいなので、費用らしい費用はかからない(バンドに50ドルくらい払わなければならないこともあったが)。

このパーティーは販売目標を達成すると開くもので(販売目標はいつも達成していた)、会社の全員が集まる楽しい会だった。そう、本当に全員が集まったのだ—会社のトップから、製造ラインに採用されたばかりの工員まで。全員が入り交じり、ビールを飲みながら楽しい時を共に過ごした。

このパーティーは、アタリの会社文化を代表するイベントとなった。ほどなく、採用予定の人も招くようになる。こうすれば、リラックスした雰囲気で採用候補者の品定めができるし、(こちらのほうが大事なのだが)我々の会社がいかに楽しいところか、採用候補者に見てもらうことができる。

御社のウェブサイトは大丈夫?

いま、ある会社について詳しく知ろうと思えば、まず、ウェブサイトをチェックするだろう。ちっちゃなタブをクリックすると、会社そのものや採用予定のある仕事の紹介ページが表示される。これがつまらない。ちらっと見ただけで、ああ、ここで働くのは楽しくないだろうなと思ってしまう。

実際のところ、そこまでつまらなくはない会社が多いのだが、ウェブページは退屈で、こんなページを見て応募したいと思う人などいるはずがないと感じる。ふつうの社員が欲しいなら、ふつうの職場として会社を売り込むのもいいだろう。だが、創造的な社員が欲しいなら、こちらも創造性を見せなければならない。それなのに、そうする会社はほとんどない。大半はほかと違うことをしたがらず、そういう停滞の雰囲気がウェブサイトに現れている。

会社のイメージは、必ず、採用広告かネガティブPRのいずれかとなる。社名もそうだ。ジョブズとウォズニアック、ふたりのスティーブが立ちあげるコンピューター会社の名前を考えたとき、ジョブズはオレゴン州にある共同農場でアルバイト的に働いており、果食主義に傾倒していた。そのせいか、ジョブズは、「アップル」なら安らかでユーザーフレンドリーな名前である、つまり、自分たちが作るコンピューターはこうあってほしいという想いを表す名前であると考えた。

だが、この社名はみんなに笑われた。「ヒューレット・パッカード」や「インターナショナル・ビジネス・マシーンズ」のように厳粛な響きをもつ社名にすべきだ、アップルなんてたわいもない名前じゃだめだと笑われたのだ。だがこの名前は、長期的にクリエイティブな会社というイメージを生み、維持するのにきわめて役に立った。

アップルという名前には楽しさが感じられる。その楽しさが会社のいたるところに浸透し、その歴史を形作っている。

また、アップル自身、かっこいい製品を作るかっこいい会社というイメージを入念に作ってきた。このイメージが自己充足する予言となったのだ。

会社自体を広告ととらえ、適切に構築すれば、顧客としても従業員としても、クリエイティブな人々が集まってくるクリエイティブなエコシステムを維持することができる。

一風変わった肩書も、自社がクリエイティブでおもしろい場だと示す手段になる。「エグゼクティブ・バイスプレジデント」や「アシスタント・ゼネラルマネージャー」ばかりでは特徴もへったくれもない。

靴が1足売れるたびに発展途上国の子どもに靴を1足贈るという会社がカリフォルニア州にある。この会社、TOMSでは、創業者であるブレイク・マイコスキーの肩書が最高経営責任者ならぬ「最高靴贈与者」となっているし、そのほかにも「靴貼役」、「靴守役」、「靴揃役」とひと味もふた味も変わった肩書が並ぶ。

会社自体が広告塔となっているもうひとつの例も、なぜか靴の会社だ。オンラインで靴を売るZapposである。本社人事部の近くに貼られたパネルには、マレットという80年代に大流行した髪型の男性と「表の顔は仕事……裏の顔はパーティー」という言葉が躍っている。ウェブサイトの採用ページには、フラフープやバック転をする社員やホットドッグやケチャップボトルの着ぐるみの社員が登場する「ザッポスファミリーのミュージックビデオ[※動画]」が用意されている。カラオケやオレオクッキー早食いコンテスト、小さなボールの撃ち合いなども、会社の文化として紹介されている。そして、ザッポスは働きたい職場としてトップクラスにランキングされており、募集の100倍も応募が集まるのだ。

「会社のイメージ」とは、創業メンバーの価値観そのものである

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ぼくがジョブズに教えたこと

ノーラン・ブッシュネル

ジョブズが「師」と仰いだ起業家、ついに語る。伝説のベンチャー企業「アタリ」創業者にして、ジョブズのメンターだったことでも知られるノーラン・ブッシュネル。そんな彼の初の著書『ぼくがジョブズに教えたこと』が、5/1に発売されます。「ジョブ...もっと読む

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コメント

shiunism 人生とは、自分にあったエコシステムの構築だといえる。 4年以上前 replyretweetfavorite

Singulith 「会社の文化は、最初に入社した10人あまりの従業員を核としてそのまわりに形成されていく。」   https://t.co/sqau15vqun 4年以上前 replyretweetfavorite

Singulith 「人生とは、基本的に、自分にあったエコシステムの構築だといえる。〜自分はなにに価値を認めるのだろうか。どのような主義主張をもっているのだろうか。〜そして、たぶんこれが一番大事なのだが、自分が力を発揮できるのはどういう環境なのだろうか」https://t.co/sqau15vqun 4年以上前 replyretweetfavorite

angelicalbite https://t.co/4g8PShNfl4 【第2回】最良の求人広告は「職場」である|ぼくがジョブズに教えたこと|ノーラン・ブッシュネル|cakes(ケイクス) 4年以上前 replyretweetfavorite