休憩室 第2回 — 俺はこの職場、イニシャルの語呂合わせで選んだんだぞ

人身事故の処理…… 想像しただけで辛くなるような仕事を終えて、駅員が向かった先は休憩室でした。ベテランと新米の会話から垣間見える、駅員という職業の本質をお楽しみください。
Twitterのフォロワー6万以上、日々トガったツイートで人々を魅了する鬼才、ダ・ヴィンチ・恐山。ウェブの世界を飛び出して大喜利やマンガでも活躍 する彼が、品田 遊(しなだ・ゆう)として、初の小説連載をcakesで開始しました。(連載をまとめた単行本はリトル・モア社から刊行予定)



「何も思わないんですか、そういうの」

 しばらく沈黙が続いた。隅田の真剣な顔を見つめ、城島も真顔になり、んー、と唸った。

「昔は思ったかもしれないけどね。でも、ただのマグロと思わないとやってけねえんだよなあ。仏さんに手合わせてる暇なんかないんだしさ」

 たしかにその通りではあった。駅員には感傷に浸っている時間は一秒もない。事故の目撃証明や、警笛が鳴っていたかの確認を十数分で行わなくてはならな い。処理が遅れればそれだけダイヤに響く。そのうえ、駆けつけた警察が現場保存を要求した場合、遺体を容易に動かせなくなり、運行予定は大打撃を受ける。 だから、駅員はいち早く遺体を片付けて線路脇に移動させようとするのだ。

 城島はまた食べかけのカレーを口に運び、噛み締めながら言った。

「飛んじゃうやつは飛んじゃうんだよね、俺らがどうしたって」

 その声はいつになく沈んだものだった。城島は何も考えていないわけではなかったのだと、隅田は意外に思った。だが、次の瞬間にはもう城島は軽薄な口調に戻っていた。

「それより可哀想なのは運転士だよな。生きてる人を撥ねちまうんだもんなあ。過失問われたりしたらたまったもんじゃねえよな。昔は俺も乗務員目指してたことあったけど、今思えば試験落ちて良かったよ、うん」

 しみじみとする城島に、隅田は訊ねた。

「城島さんはこの仕事を選ぶとき、そういう覚悟ってできてましたか」

「そういう?」

「つまり、死体を見たり、片づけたり……あるいは……」

「撥ねたり」

 隅田は黙って頷いた。

「ないない。あるわけないだろ、そんなもん」

 城島は笑いながら手を振った。

「俺はこの職場、イニシャルの語呂合わせで選んだんだぞ」

 空中で指を動かす。

「城島遼太郎。J・R。な?」

「そんないい加減な……」

「逆に聞くけどさ、隅田君はなんでうちに来ようと思ったわけ?」

 隅田は、少し黙ってうつむいてから、口を開いた。

「……マジックハンドが」

「マジックハンド?」

 それは、隅田がJRに入社したいと最初に思った理由だった。

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d_v_osorezan 有実泊(ありみとまる) 名義で書いてる小説のやつだよ。全編日本語なので驚異の読みやすさを実現してるよ。 前編 https://t.co/mCz2sVi7KQ 後編 https://t.co/F9xgkJ3X2A 4年以上前 replyretweetfavorite