【ネタバレあり、未読のひとはご注意ください】
『うみべ』は恋愛の順番を全部逆再生しようと思った
—— 『プンプン』連載中に、『うみべの女の子』という作品も発表していますが、こちらも初恋の話です。それと合わせて、SPAに書評を書かせていただく機会があったんです。
浅野いにおの連載『おやすみプンプン』が、暗黒の極みへ到達しようとしている。ひとつネタバラシさせてほしい。鳩サブレみたいにデフォルメされた「顔」を持つ主人公は、人を殺した。すべては、初恋という呪いにかかってしまったがゆえに。彼は今、呪いの源泉である少女と逃避行を続けている。
同時連載されていた『うみべの女の子』が一足早く、全2巻で完結を迎えた。こちらの主人公は、海辺の街に暮らす中学2年生の女の子・小梅。好きだった先輩にむりやりフェラチオさせられた腹いせに、処女を捨て同級生の男の子・磯辺を犯す。付き合わないし、好きでもない、キスもしない体だけの関係。『プンプン』のような自問自答を繰り返す内面モノローグが排除され、セックスにまつわる肉体描写が前面に押し出しされている。そして何より、ヒロインの「顔」が歪む。快楽と、憤怒と。家族やクラスメイトには絶対見せないような「顔」を、女の子は男の子に見せつけ、相手のそれを見ることで、二人の関係は新たな局面に突入していく。「恋」という関係に。
「好き」より先に、体の関係が始まってしまったら、どうするか。好きと思うタイミングと量は、相手が好きと思うタイミングと量と、いつも違う。じゃあ、どうするか。さまざまな過去の因縁話も関わってくるが、ど真ん中に据えられているのは、ふたりのピュアな恋愛だ。うまくいって欲しい、そんな願いが最高潮に達した時、物語は意外な展開を迎える。『プンプン』から引き継がれたテーマ——初恋という呪いを自らの手で解いて、子供から大人になること——が、ここで成就している。過去の呪いなんてはねつける若さ特有の体力と、若さゆえの気まぐれさが、ポジティブな未来を引き寄せているのだ。では、『プンプン』はどうか。どうなるのか。『うみべの女の子』を読み返しながら、その結末を待ちたい。
(吉田大助、「SPA!」 2/26号より)
浅野いにお(以下、浅野) もともと中学生のとてもうぶな恋愛を書いて、最終的にセックスする話にしようと思ってたんです。でも、ネームを書く段階で取っ掛かりがなさすぎて、じゃあこれは、恋愛の順番を全部逆再生する話にしようと思ったんですよね。
—— セックスで始まって告白で終わる話ですね。
浅野 ちなみに主人公の磯辺っていうキャラクターは、僕が「厨二病」っていう言葉を覚えた後のキャラクターなんですよ。僕ももう大人だからその年頃の「厨二病」の男の子っていうのはかわいいんですよ。もう親目線。だから磯辺とヒロインの小梅ちゃんのいじらしい感じというか背伸びしてる感じを、一歩ひいた目線でひたすら丁寧に描いてました。
—— 『うみべ』は初恋を軸にした『プンプン』のアナザーバージョンだなと思いました。浅野さんは、初恋に何かトラウマでもあるんですか?
浅野 小学生の時、転校生を好きになったことはあるんですが、その子はあんまり自分の性格には影響してないっていうか、全然愛子ちゃんタイプじゃないんですよね。愛子ちゃんタイプは、奥さんの前に付き合ってた子かなあ。『ソラニン』の時に付き合ってた子なんですけど、「俺が救わなきゃ!」と思うくらい不器用な女の子だったんです。でも、実は全然僕のこと必要としてなかった。
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