今回でこの連載も最終回です。そこで、金融市場を考えるうえでもっとも大切なことをお話ししましょう。それは、外見ではなく中身で判断する、ということです。
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どれだけ外見が美しくても、性格に問題があればうまくいかないことは誰でも知っています。「ボロは着てても心は錦」という歌があるように、なんの変哲もないものが実は魅力的だったりもします。金融市場でもこれは同じで、外見のことを「名目」、中身のことを「実質」と言います。
銀行預金の金利が5%と0%ならどちらがいいでしょうか。ほとんどのひとは金利が高いほうを選ぶはずですが、実はこれだけでは判断できません。インフレ率がわからないからです。物価というのは、簡単に言うと生活コストのことです。年率10%のインフレだと、今年300万円で生活していたひとは翌年には330万円かかります。このとき、生活の原資になる銀行預金の金利が5%だと、300万円は1年後には315万円にしかなりませんから15万円足りません。これを、「実質金利はマイナス5%」といいます。
それに対して2%のデフレだと300万円の生活費は294万円に下がりますから、ゼロ金利で貯金の額が変わらなくても、手元に6万円残っているはずです。このときの実質金利は2%で、インフレで実質金利がマイナス5%の時よりずっと得です。
実質金利は、次のような単純な引き算で計算できます。
実質金利=名目金利マイナス(期待)インフレ率
金利は名目ではなく、インフレ率で調整した実質で判断しなければならないのです。
為替レートも名目と実質がある
「2007年には1ドル=120円だった円の為替レートは、2008年のリーマンショックで1ドル=100円を切るまで高騰し、東日本大震災後の11年秋には1ドル=76円台の『超円高』が日本経済を襲った。アベノミクスがそれを円安に“正常化”し、製造業の利益が回復して株価が上昇した——」というのが常識になっています。
しかしこの説明は、ほんとうに正しいのでしょうか? 金利と同様に、為替レートにも名目と実質があります。1ドル=100円として、日本で100万円の軽自動車がアメリカで1万ドルで売られていたとしましょう。アメリカのインフレ率が年率5%なら5年後の軽自動車の値段は約1万3000ドルで、このとき為替レートが1ドル=100円のままだと円建ての価格は130万円です。
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