ぼくがジョブズに教えたこと

第1回】ジョブズと話しこんだ、パリの1日。

スティーブ・ジョブズが「師」と仰いだ伝説の起業家、ついに語る! 「アタリ」創業者ノーラン・ブッシュネル初の著作として、刊行前から話題の『ぼくがジョブズに教えたこと』。5/1の発売に先がけ、本書の抜粋を特別連載します。第1回は本書が生まれた経緯について。舞台は1980年のパリ。アップル創業まもないジョブズが、ある“悩みごと”を抱えてブッシュネルの自宅を訪れます。その悩みごととは――。(訳=井口耕二

かつての部下、ジョブズとの再会

1980年。私は、その3年前に創業したピザレストランチェーン、「チャッキーチーズ」の経営が順調で意気盛んだった。

だから、パリのシャンドマルスにとても大きな家を買った。エッフェル塔と旧陸軍士官学校に挟まれたところだ。6階建てで延べ床面積は1400平方メートル、階段は大理石だし地下室にプールがある豪邸である。だが、家具らしい家具がない。それならいっそ、人でいっぱいにしたらどうか。というわけで、チャッキーチーズの関係者や、もうひとつもっている会社「アタリ」の関係者、そして、昔からの友人などをみんな招待してパーティーを開いた。

たそがれ時に始まったパーティーは、夜明けが近いころまで続いた。

その夜9時ごろ、ふと見ると、元アタリ社員のスティーブ・ジョブズが来ていた。

笑顔で迎えたが、スティーブはあっけにとられているようだった。あまりに大きな家なのでちょっとまごついたのだろう。

あのころ私は絶好調だったが、スティーブは昔のままで、すごい人物とはいいがたい状態だった。

「久しぶり。来てくれてうれしいよ」

「あなたがパリでパーティーを開くというのに、僕が来ないわけがないじゃないですか。ちょうど、息抜きもしたいと思っていましたし」

パリにはどのくらいいるのかと問うと2~3日だというので、翌日、一緒に朝食をとることにした。

そのあともいろいろと話をしたのだが、そのとき、スティーブの身なりがアタリ時代から変わっていることに気づいた。実際、アタリ退社後の彼は会うたびに服がよくなり、大人っぽくなっていた。その晩はいつものリーバイス501だったが、なんときれいなリーバイスだった。髪の毛も長いままだったが、ちゃんと洗ってきていた。

なんといっても驚いたのは、マナーが完璧だったことだ。ついに社会性を身につけたのかと思うほどだった。アタリ時代の彼はすごい社員だったが、まわりとの折り合いはお世辞にもいいといえなかったというのに。

このころ、彼の新しい会社、アップルはかなりの成功を収めており、年商1億ドルに迫るくらいだったはずだが、アタリやチャッキーチーズはそのはるか上をいっていた。1980年、アタリは年商20億ドル前後だったしチャッキーチーズも5億ドルほどを売り上げていたのだ。

また、このころは、アップルの3分の1を買わないかとのオファーを断ったことも、まだ、それほど後悔していなかった—失敗だったかもしれないとは思いはじめていたが。

スティーブのことは誇らしいと思っていたし、彼の成功を後押しできたという自負もあった。アタリ経由でかなりの支援をしたのだ。たとえば、コンピューターの部品をあげたりマイクロプロセッサーを仕入れ値で分けてあげたりした。実際のところ、アップル創業期の部品は、ほとんどアタリが提供したものなのだ—マージンなしで。アップルIIはテレビにつなげるのが特長だったが、この機能を実現する巧妙な変調器もアタリの設計をもとにしたものだった。

アップルにはイノベーションが足りない!

翌日は、終日、彼と一緒に過ごし、カフェの名店ドゥ・マゴなど、お気に入りのスポットを案内した。ドゥ・マゴでは、何時間も創造性について語りあった。パリにいるといいアイデアが湧く、なぜか大きなことが浮かんでくるんだというと、彼も同意した。

そのあとはずっと、街中を歩きながらお気に入りのスポットを紹介したのだが、スティーブは、あちこちに見られる創造性と建築物に興味を惹かれていた。

「ここは創造性がとても豊かですばらしい。たくさんの人が自分の仕事をきちんとやり、それで食べていけてるなんてすごいですね」

彼はそういうと、パリで昔から栄えてきた作家やアーティストのサロンについていろいろと話してくれた。そして、最後に一言、

「コンピューターがあれば、クリエイティブな暮らしができる人はもっと増えるんだけどな」

とつぶやいた。

このころ、スティーブは、「ヒトは足が速い動物じゃありません。でも、自転車があれば話は別です」というなど、コンピューターとは知性にとっての自転車だと考えるようになっていた。

パリの建築物も気に入ったらしい。建物のデザインがシンプルで統一感にあふれているというのだ。パリは7階建てか8階建ての黄みがかった石造りの建物が立ち並び、統一感のあるエレガントな街並みを生みだしている。それを眺めていると心が落ちつくとスティーブはいう。

パリの街並みがシンプルで統一感にあふれているなど、私は思ったことがなかった。だがスティーブは、パラシュートで街のどこに降りてもそこがパリだとわかると指摘。

「そんな街はめったにありません。ここは建物が街全体の特徴になってるんです」

アップルも、パリのようにシンプルにしたい—スティーブはそう考えていた。

一日中おしゃべりをしながら歩きまわったあと、別のカフェに入った。私はカプチーノ、スティーブは紅茶。彼は紅茶が大好きなのだ。アップルの調子はどうかと尋ねると、心配だ、イノベーションが足りないと返ってきた。製品には満足していないし、次にどのようなコンピューターが登場するのか、どのようなイノベーションが登場するのかも気になってしかたがないというのだ。

「なにが次の山となるのか、どうすればわかるのでしょう」

彼の問いに、私はこう答えた。

「世の中の動きをすべて把握し、それに順応していかなければならない。君の場合、お金の制約がないメインフレームの世界における最近の動向から一般の人々が望むことをみつけ、それを多くの人が手に入れられる値段で提供する方法を考える、となるだろうね」

「やはりそんなところですか。それこそ、僕がしていることですよ」

スティーブはそういうと、「コンピューターのパワーをたくさんの人に提供する」のが当時最新のコンピューター、アップルIIのしていることだと胸を張った。そのとおりである。アップルIIは、その10年前のIBMメインフレームよりさまざまな面でパワフルといえるマシンだったのだ。

「社員全体がイノベーティブな会社」は可能か?

スティーブと私は、処理速度から16ビットアーキテクチャーにいたるまで、コンピューター関連のさまざまな話題について話し合った。

でも、話題の中心は未来だった。スティーブは、今後、アップル製品をどう進化させていくべきか、真剣に悩んでいた。

「他人の一歩先を行くにはどうしたらいいのでしょうか」

「なんとかして未来の自分を想像しなければならない。『なにをコンピューターにしてもらいたいのか』、『コンピューターにぜひやってほしいけど、いまはできないことはなにか』を考えなければならないんだ」

スティーブは大きくうなずいた。

「努力はしています。でも、難しいことですよね。そういう風に考えられる人はめったにいませんから」

アップルのまねをするところが多いという愚痴もあった。

「コンピューター業界には、我々が思いついたことをなんでもまねする寄生虫がたくさんいるんですよ」

ぷりぷりしながらそういうので、まねされるのはアップルがすごい証拠だとさとすと納得してくれた。

悩み事はつきないらしい。

「みんな、発想を僕に頼ってばかりなんですよ。それじゃ強い会社になれないっていうのに」

こういってスティーブはため息をついた。創造性を社内でもっと醸成しなければならないというのだ。未来の鍵を握るのはイノベーションであり、そのイノベーションはトップのひとりではなく、アップルの社員全体から生まれなければならない—この点で我々は一致した。

ここでふと思った。彼は次なるスティーブ・ジョブズをみつけなければならないのだと。

そのあとはずっと、創造性に関することを話し合った。私からは思いついた知恵を何十種類か提示し、スティーブはその大半をメモした。以来、この知恵を私も書き記すべきだ、本にして世の中に出すべきだと私は考えてきた。

その結果、ようやくできあがったのが本書である—30年もかかってしまったが。

【第1回おわり。第2回は4/30掲載予定】


本連載の全容は、5月1日発売の『ぼくがジョブズに教えたこと』でお読みいただけます!



Antifragile
ノーラン・ブッシュネル&ジーン・ストーン『ぼくがジョブズに教えたこと』
(井口耕二訳、飛鳥新社、本体1574円+税)





この連載について

ぼくがジョブズに教えたこと

ノーラン・ブッシュネル

ジョブズが「師」と仰いだ起業家、ついに語る。伝説のベンチャー企業「アタリ」創業者にして、ジョブズのメンターだったことでも知られるノーラン・ブッシュネル。そんな彼の初の著書『ぼくがジョブズに教えたこと』が、5/1に発売されます。「ジョブ...もっと読む

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yamaza 5件のコメント http://t.co/XfZu24yzZH “【第1回】ジョブズと話しこんだ、パリの1日。| 3年弱前 replyretweetfavorite

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