AVからドラマが消え、そして帰ってきた

フリーライター、アダルトメディア研究家の安田理央さんに、最近起きているアダルトビデオの変化についてご寄稿いただきました。メディアや市場や社会の変化に影響されるAVの表現。なぜ最近AVにドラマの要素が増えてきたのか。ぜひご一読ください!

 21世紀に入ってから、AV(アダルトビデオ)からドラマが消えていった。かつてはAV、特に単体女優(いわゆるAVアイドル)の出演作ではドラマ物が当たり前だった。しかし、気がつくとそうした作品でも、ドラマらしいドラマは消え、シチュエーション物が中心になっていた。教師と生徒、看護婦と患者など、役はあるものの最初に設定を説明する短いやりとりがあるだけで、後はすぐにカラミに突入する。そういったコーナーが5~6個用意されているという構成であり、そこには全編を通してのドラマは存在しない。あるいは設定すらなく、ひたすらプレイ(性行為)が続くというのが今の主流のAVだ。

 AVを取り巻く環境の変化が、こうした傾向につながっている。

 もともとAVは、成人映画のビデオ化からスタートした。オリジナル作品を撮り下ろすようになってからも、成人映画のスタッフが中心となって制作していたため、自然にドラマ物が撮られていた。また当時はビデ倫(日本ビデオ倫理協会)の審査も厳しく、カラミが3分以上続いてはいけない(!)、セックスに至る必然性を描かなくてはいけない、といった基準もあり、ドラマ以外のAVは考えられなかったというのも実情だ。AVの最初のヒット作とも言える代々木忠監督の『ドキュメント ザ・オナニー』シリーズ(1982年 日本ビデオ映像)も当初はドラマでは無いということでビデ倫で議論されたという。

 AVが最初の黄金期を迎える80年代後半になっても、やはり主流はドラマ物だった。ノスタルジックな美少女像を描く「宇宙企画」や、シュールで観念的な世界にこだわる「KUKI」、エンターテイメント志向の強い「アリスジャパン」など、メーカーごとに特色を持った多くのドラマAVが作られた。

 この頃になると、ナンパなどの生々しいドキュメント物やバラエティ物も増えていったが、そうした作品は「企画物」と呼ばれ、ドラマ物に比べて一段低く見られていた。

 その構造に変化が見られたのは21世紀に入ってからだ。ドラマではなく、短いシチュエーションによる5~6パターンのカラミで構成する作品が増えてきたのだ。これはAVのメディアがVHSからDVDに変ったことが大きいだろう。ボタンひとつでチャプターを飛ばすことが出来るDVDでは、ユーザーはいきなりカラミを見ることが出来る。不要だと思えば、ドラマはどんどん飛ばされてしまう。また、AVがレンタルするものから、購入するものへと変ったことも見逃せない。すぐに返却しなければならないレンタルと違って、いつでも見られるセルAVは、今日はこのコーナー、明日はこのコーナーというように、コーナーごとに独立している方が見やすい。さらにVHS時代の60分から、120分が標準になるなどDVDでは長時間収録されるようになったことも大きいだろう。最初から通して見ることが前提となっているドラマ物は、セルDVD時代には向いていなかったのかもしれない。

 また、数百円で気軽に借りられるレンタルとは違って、数千円の金額を払って購入するセルAVは購入のハードルが上がるため、よりユーザーのニーズに寄り添うことが求められる。セル時代になり、AV業界はユーザーのニーズを積極的に取り入れるようになった。120分の中に直接的に“使えない”ドラマ映像があるよりも、実用的なカラミを少しでも多く収録した方がお得感がある。その結果としてドラマ物が消えていったわけである。00年代後半には、メーカーが対抗して参加作品の売上を競うAVイベントが盛んに開催されたが、そこでもドラマ物は惨敗していた。AVユーザーは、AVにドラマを求めていないということだ。

 しかも、ドラマ物は撮影に手間もコストもかかる。売上減少に苦しむAVメーカーに取って、メリットはあまりに少ない。AVからドラマは消えるのは必然だった。

 ところが、最近AV業界にある変化が起きている。それは、熟女・人妻物の人気だ。90年代まではキワモノ扱いされてきた熟女物だが、00年代に入ってから、急激にその人気が高まった。今年11月中に発売されるAV約2000作品のうち、熟女・人妻のジャンルに含まれる作品は400本以上。つまり全AVのうち五分の一は熟女・人妻物ということになるのだ。実は今、AVで最も勢力の大きなジャンルなのである。

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