第71回 大きな数(前編)

「お兄ちゃん! さっきからユーリが『わかった』って言ってるのに、最後まで説明し切るんだね……」とユーリはあきれたように言った。

第70回の続き)

ダイニングで

ここはの家のダイニング。 ユーリはテレビを見ていた。 科学番組で映画"Powers of Ten"が紹介されている。 この十分足らずの映画では、最初に $1$ メートル四方しほうの日常風景が写される。 そして、次第にカメラがその風景から遠ざかり、 十秒ごとに一辺の長さが $10$ 倍になっていくのだ。

ユーリ「……はふー。すごかったねー!」

「すごかったな……これが1977年の映画っていうのもすごいなあ」

ユーリ「これって、十秒ごとに $10$ 倍になってるんだよね」

「そうだね。映画の前半は、画面の一辺が十秒ごとに《 $10$ 倍》になっていた。後半になると逆に画面の一辺が十秒ごとに《 $10$ 分の $1$ 》だったね」

ユーリ「宇宙がぐんぐん見えて、すごかったー」

「うん、すごいよね。十秒ごとに《 $10$ 倍》になるってことは、 $1$ の後に十秒ごとに $0$ をつけていくわけだね」

ユーリ「最初、ピクニックしてたよね」

「そうだったね。人間のサイズから、 $0$ を $7$ 個つけただけで地球全体くらいのサイズになるんだ」

ユーリ「 $1$ の後に $0$ が $7$ 個って、何メートルになるの? いち、じゅう、ひゃく、せん……」

「一千万メートルだね。一万キロだ」

ユーリ「へー」

「 $1$ の後に $0$ が $11$ 個つくと、太陽が画面に入ってきてた」

ユーリ「ちょっと待ってお兄ちゃん、なんでそんなの覚えてんの?」

「映画の右のほうに数字が出てたじゃないか。太陽が画面に入ってきたときは $10^{11}$ になってたよ」

ユーリ「いやいや、そんなの覚えてらんないって、ふつー」

「銀河系全体は $10^{21}$ メートル四方だったかな」

ユーリ「あのね、途中でめちゃ感動したのがね、太陽系が星になったり、銀河系が星になったりするとこ」

「うん?」

ユーリ「ほらほら! 太陽系がどんどんちっちゃくなってたじゃん!」

「ああ……太陽系も、銀河系も、じゅうぶん離れると一つの星みたいだったってこと?」

ユーリ「そーそー! それと、逆に小さい方も宇宙みたい!」

「あれだろ? 原子の世界の中に入っていったとき。小さい世界を見てるはずなのに、何だか宇宙を見てるみたいだったよね」

ユーリ「それからね、宇宙で、星が《集まってる》のもおもしろかった」

「集まっているって? 太陽系のこと?」

ユーリ「うん。たとえば太陽系は星が集まってるじゃん? でもしばらくすると今度は何にもない宇宙になって、そんで、次は太陽系が集まった銀河系になって……でもまた何もない宇宙になる。 そーゆー《繰り返し》がおもしろかった!」

ゼロの数

「銀河系全体が画面に入ったのは、 $10^{21}$ メートル四方だった」

ユーリ「 $10$ の $21$ 乗って、 $1$ の後にゼロが $21$ 個続くんだよね?」

「そうだね。 $1,000,000,000,000,000,000,000$ メートルだ」

ユーリ「ふえー」

「 $1000$ メートルはキロメートルだから、わかりやすくいうと $1,000,000,000,000,000,000$ キロメートルだね」

ユーリ「いや、それ、ぜんぜんわかりやすくなってないから」

「あはは、そうだね。指数しすうを使って表現したほうがいいか。《銀河系の直径》がおおよそ $10^{21}$ メートルだとすると、 $10^{18}$ キロメートルになる」

$$ \begin{align*} \text{《銀河系の直径》} &= 1000000000000000000000\text{メートル} \\ &= 10^{21}\text{メートル} \\ &= 10^{18}\text{キロメートル} \\ \end{align*} $$

ユーリ「え? お兄ちゃん、いまどんな計算したの。 $21$ 乗から $18$ 乗」

「うん?  $21$ から $3$ 引いたら $18$ だよ」

ユーリ「そんなのわかってる。何で $3$ 引いたの?」

「だって、 $1$ キロメートルは $1000$ メートル、つまり $10^3$ メートルだから、 $3$ 引けばいい」

$$ \begin{align*} 10^{21}\text{メートル} &= 1\underbrace{000000000000000000000}_{\text{ $21$ 個}}\text{メートル} \\ &= (1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}} \times 1\underbrace{000}_{\text{ $3$ 個}})\text{メートル} \\ &= 1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}}\text{キロメートル} \\ &= 10^{18}\text{キロメートル} \\ \end{align*} $$

ユーリ「あー、そかそか。あたりまえじゃん」

「うん、これはちょうど指数法則しすうほうそくの一例になっているよね」

ユーリ「しすーほーそく、って何だっけ」

「うん、たとえばこういうの。《全体の掛け算》は《指数の足し算》で計算できる」

指数法則の例(全体の掛け算は指数の足し算)
$$ \begin{align*} 1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}} \times 1\underbrace{000}_{\text{ $3$ 個}} &= 1\underbrace{000000000000000000000}_{\text{ $18+3 = 21$ 個}} \\ 10^{18} \times 10^{3} &= 10^{18+3} \\ \end{align*} $$

ユーリ「ふんふん。《 $10$ の $18$ 乗》と《 $10$ の $3$ 乗》を掛けると、《 $10$ の $21$ 乗》になるってことだね」

「そうそう。その $21$ という数は、 $18+3$ で求める。これを《一般化》すると……」

ユーリ「ほらきた!」

「『ほらきた』って?」

ユーリ「ねえ知ってた? お兄ちゃんって、数学の話するとき必ず『一般化すると』って言い出すんだよー!」

「え、必ずってことはないと思うけどな」

ユーリ「いーや、違うね。必ずだね」

「まあ、だって、数学では《一般化》はとても大事だからしょうがないよ」

ユーリ「はいはい。では続けたまえ(にやにや)」

指数法則

「 $10^{18} \times 10^{3} = 10^{18 + 3}$ を一般化すると、こんなふうに書ける」

指数法則(全体の掛け算は指数の足し算)
$$ 10^{m} \times 10^{n} = 10^{m + n} $$
※ここで $m$ と $n$ は $1$ 以上の整数( $1,2,3,\ldots$ )とする。

ユーリ「ふんふん」

「さっきは $m = 18$ で $n = 3$ の例を話していたんだね」

ユーリ「そーだね」

「簡単な例を見るとすぐに意味はわかるよ」

ユーリ「もーわかったから、いーよ」

「そう? たとえば、 $m = 2$ で $n = 3$ とすると」

ユーリ「わかったって」

「 $m = 2$ で $n = 3$ とすると、こうなって、確かにこの指数法則は成り立っている」

$$ \begin{align*} 10^{2} \times 10^{3} & = 100 \times 1000 \\ & = 100000 \\ & = 10^{5} \\ & = 10^{2+3} \\ \end{align*} $$

ユーリ「お兄ちゃん……ユーリが『わかっている』って言ってるのに、最後まで説明し切るんだね……」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki @7irigoma7 https://t.co/8BDibfzKsm https://t.co/uAazeIEmNf 10ヶ月前 replyretweetfavorite

lighty_karume 映画から始まるのは斬新だった!でも書籍化のときはどうするんだろう?確かに目がちらちらするにゃ! 約4年前 replyretweetfavorite

kyodaisuu ついに結城浩さん @hyuki による巨大数論の解説がはじまった。 https://t.co/SQWwDSVLHV https://t.co/4mLgZJZ2W5 約4年前 replyretweetfavorite

fall_twtr 必要性と十分性のとこが気になるとか、さすがユーリか。そんなユーリは何を思いついたのか? 約4年前 replyretweetfavorite