(第70回の続き)
ダイニングで
ユーリ「……はふー。すごかったねー!」
僕「すごかったな……これが1977年の映画っていうのもすごいなあ」
ユーリ「これって、十秒ごとに $10$ 倍になってるんだよね」
僕「そうだね。映画の前半は、画面の一辺が十秒ごとに《 $10$ 倍》になっていた。後半になると逆に画面の一辺が十秒ごとに《 $10$ 分の $1$ 》だったね」
ユーリ「宇宙がぐんぐん見えて、すごかったー」
僕「うん、すごいよね。十秒ごとに《 $10$ 倍》になるってことは、 $1$ の後に十秒ごとに $0$ をつけていくわけだね」
ユーリ「最初、ピクニックしてたよね」
僕「そうだったね。人間のサイズから、 $0$ を $7$ 個つけただけで地球全体くらいのサイズになるんだ」
ユーリ「 $1$ の後に $0$ が $7$ 個って、何メートルになるの? いち、じゅう、ひゃく、せん……」
僕「一千万メートルだね。一万キロだ」
ユーリ「へー」
僕「 $1$ の後に $0$ が $11$ 個つくと、太陽が画面に入ってきてた」
ユーリ「ちょっと待ってお兄ちゃん、なんでそんなの覚えてんの?」
僕「映画の右のほうに数字が出てたじゃないか。太陽が画面に入ってきたときは $10^{11}$ になってたよ」
ユーリ「いやいや、そんなの覚えてらんないって、ふつー」
僕「銀河系全体は $10^{21}$ メートル四方だったかな」
ユーリ「あのね、途中でめちゃ感動したのがね、太陽系が星になったり、銀河系が星になったりするとこ」
僕「うん?」
ユーリ「ほらほら! 太陽系がどんどんちっちゃくなってたじゃん!」
僕「ああ……太陽系も、銀河系も、じゅうぶん離れると一つの星みたいだったってこと?」
ユーリ「そーそー! それと、逆に小さい方も宇宙みたい!」
僕「あれだろ? 原子の世界の中に入っていったとき。小さい世界を見てるはずなのに、何だか宇宙を見てるみたいだったよね」
ユーリ「それからね、宇宙で、星が《集まってる》のもおもしろかった」
僕「集まっているって? 太陽系のこと?」
ユーリ「うん。たとえば太陽系は星が集まってるじゃん? でもしばらくすると今度は何にもない宇宙になって、そんで、次は太陽系が集まった銀河系になって……でもまた何もない宇宙になる。 そーゆー《繰り返し》がおもしろかった!」
ゼロの数
僕「銀河系全体が画面に入ったのは、 $10^{21}$ メートル四方だった」
ユーリ「 $10$ の $21$ 乗って、 $1$ の後にゼロが $21$ 個続くんだよね?」
僕「そうだね。 $1,000,000,000,000,000,000,000$ メートルだ」
ユーリ「ふえー」
僕「 $1000$ メートルはキロメートルだから、わかりやすくいうと $1,000,000,000,000,000,000$ キロメートルだね」
ユーリ「いや、それ、ぜんぜんわかりやすくなってないから」
僕「あはは、そうだね。指数を使って表現したほうがいいか。《銀河系の直径》がおおよそ $10^{21}$ メートルだとすると、 $10^{18}$ キロメートルになる」
$$ \begin{align*} \text{《銀河系の直径》} &= 1000000000000000000000\text{メートル} \\ &= 10^{21}\text{メートル} \\ &= 10^{18}\text{キロメートル} \\ \end{align*} $$
ユーリ「え? お兄ちゃん、いまどんな計算したの。 $21$ 乗から $18$ 乗」
僕「うん? $21$ から $3$ 引いたら $18$ だよ」
ユーリ「そんなのわかってる。何で $3$ 引いたの?」
僕「だって、 $1$ キロメートルは $1000$ メートル、つまり $10^3$ メートルだから、 $3$ 引けばいい」
$$ \begin{align*} 10^{21}\text{メートル} &= 1\underbrace{000000000000000000000}_{\text{ $21$ 個}}\text{メートル} \\ &= (1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}} \times 1\underbrace{000}_{\text{ $3$ 個}})\text{メートル} \\ &= 1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}}\text{キロメートル} \\ &= 10^{18}\text{キロメートル} \\ \end{align*} $$
ユーリ「あー、そかそか。あたりまえじゃん」
僕「うん、これはちょうど指数法則の一例になっているよね」
ユーリ「しすーほーそく、って何だっけ」
僕「うん、たとえばこういうの。《全体の掛け算》は《指数の足し算》で計算できる」
$$ \begin{align*} 1\underbrace{000000000000000000}_{\text{ $18$ 個}} \times 1\underbrace{000}_{\text{ $3$ 個}} &= 1\underbrace{000000000000000000000}_{\text{ $18+3 = 21$ 個}} \\ 10^{18} \times 10^{3} &= 10^{18+3} \\ \end{align*} $$
ユーリ「ふんふん。《 $10$ の $18$ 乗》と《 $10$ の $3$ 乗》を掛けると、《 $10$ の $21$ 乗》になるってことだね」
僕「そうそう。その $21$ という数は、 $18+3$ で求める。これを《一般化》すると……」
ユーリ「ほらきた!」
僕「『ほらきた』って?」
ユーリ「ねえ知ってた? お兄ちゃんって、数学の話するとき必ず『一般化すると』って言い出すんだよー!」
僕「え、必ずってことはないと思うけどな」
ユーリ「いーや、違うね。必ずだね」
僕「まあ、だって、数学では《一般化》はとても大事だからしょうがないよ」
ユーリ「はいはい。では続けたまえ(にやにや)」
指数法則
僕「 $10^{18} \times 10^{3} = 10^{18 + 3}$ を一般化すると、こんなふうに書ける」
$$ 10^{m} \times 10^{n} = 10^{m + n} $$
※ここで $m$ と $n$ は $1$ 以上の整数( $1,2,3,\ldots$ )とする。
ユーリ「ふんふん」
僕「さっきは $m = 18$ で $n = 3$ の例を話していたんだね」
ユーリ「そーだね」
僕「簡単な例を見るとすぐに意味はわかるよ」
ユーリ「もーわかったから、いーよ」
僕「そう? たとえば、 $m = 2$ で $n = 3$ とすると」
ユーリ「わかったって」
僕「 $m = 2$ で $n = 3$ とすると、こうなって、確かにこの指数法則は成り立っている」
$$ \begin{align*} 10^{2} \times 10^{3} & = 100 \times 1000 \\ & = 100000 \\ & = 10^{5} \\ & = 10^{2+3} \\ \end{align*} $$
ユーリ「お兄ちゃん……ユーリが『わかっている』って言ってるのに、最後まで説明し切るんだね……」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)