時代が変わってもリアルであり続けるパトレイバー

人気映画ブロガー・破壊屋さんがcakes再登場! 今回紹介してくれる映画は、実写版の上映がスタートしたばかりの人気ロボットSFシリーズ「パトレイバー」。といっても、今回の実写版と同じ押井守が89年に監督を務めた『機動警察パトレイバー the Movie』と93年公開の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』の2作品を取り上げます。来年の5月まで順次シリーズが公開される実写版パトレイバープロジェクトを存分に楽しむために、押井守の魅力と、パトレイバーの魅力が詰まったこの2作の見方を全3回で解説!

なぜパトレイバーが「リアル」なのか?

伝説的なSF作品『機動警察パトレイバー』の実写化計画『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の公開が始まった。

パトレイバーを知らない人向けに説明すると、テレビアニメシリーズのオープニングの前口上がわかりやすいので引用する。

レイバー。それは産業用に開発されたロボットの総称である。建設、土木の分野に広く普及したが、レイバーによる犯罪も急増。警視庁は警備部内に特殊車両二課を新設してこれに対抗した。通称、特車二課パトロールレイバー中隊....パトレイバーの誕生である。

この設定のおかげでパトレイバーは、人型のロボット同士が戦うという状況に説得力が生まれた。ロボットといってもレイバーはブルトーザーに手足が生えた程度だし、パトレイバーはパトカーのようにパトランプがあるし、そもそも車と同じ扱いなのでナンバープレートが貼ってある。もちろんレイバーには人型だけでなく、蜘蛛をモチーフにした他足歩行のタイプもいる。

パトレイバーは昭和の終わりの1988年~1989年にOVAシリーズ、マンガ、テレビアニメシリーズが次々と始まった。1998年~2003年が舞台なので「当時から10年後の近未来」が舞台になっている。80年代後半の日本は好景気を背景に人手不足が深刻だったし、日本中で乱開発が行われていた。だから産業用ロボットが飛躍的進化した世界という設定に説得力があったわけだ。

もちろんガンダムだって放送当時は「リアル」と言われたけど、その根拠は宇宙人との戦争じゃなくて人間同士の戦争を描いたからで、現実の世界とは程遠い。でもパトレイバーは本当に現実的で登場人物たちの日常生活を延々と描く。主人公たちは月給で生活している地方公務員で、彼らの敵はレイバーの酔っぱらい運転や乱開発に反発する過激な環境保護運動家だ。出前とコンビニと自炊を繰り返す主人公たちの食生活はパトレイバー世界の最重要要素で、今回公開された『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の第一話もそこが描かれる。せっかく実写化したのにレイバーじゃなくて出前とコンビニが描かれるのは不思議に思われるかもしれないけど、パトレイバーファンにとってはそれこそが実写化だったりする。

今回の連載は1989年の『機動警察パトレイバー the Movie』と1993年の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』という二つの劇場版作品について解説したい。以降はそれぞれを「劇パト1」「劇パト2」と呼ぶ。この二つの傑作映画には、今や世界的な監督になった押井守監督の独特なモチーフが散りばめられている。パトレイバーは現実的で感情移入しやすい作品だけど、その一方で押井守らしい解釈の難しいシーンもたくさんあるのだ。第1回は押井守が旧約聖書をモチーフに作った「劇パト1」について解説する。


EMOTION the Best 機動警察パトレイバー 劇場版

ほとんど登場しないのに抜群の存在感を持つ犯人

「劇パト1」の魅力はたくさんあるけれど、真っ先に挙げたいのは犯人である帆場暎一(ほばえいいち)にまつわるミステリーだ。映画が始まるといきなり帆場暎一が自殺する。その後は一度も回想シーンがないので、観客は帆場暎一の容姿すらわからない。観客は彼が連続するレイバー暴走事件の犯人ということは知っているのに、犯人が死んでいるのになぜ事件が勝手に進むのか? なぜ自殺したのか? そもそも動機は? 目的は? なにもわからず、主人公たちと一緒にその謎をたどることになる。

旧約聖書から読み解くと、帆場の目的は、旧約聖書に描かれるソドムとゴモラの滅びを首都に再現することだというのがわかる。帆場は旧約聖書に出てくる唯一絶対神エホバ(ヤハウェ)を自分と重ねていた。ちなみに86年の『天空の城 ラピュタ』や90年の『ふしぎの海のナディア』にも、ソドムとゴモラを滅ぼした兵器が出てきたりする、旧約聖書に出てくる破壊とは日本のアニメファンにとっては意外と親しみのある設定だ。

話が逸れた。レイバーOSの設計者である帆場は、レイバーが一斉に暴走する仕掛けを仕込む。レイバーは首都圏の作業現場や原発炉心部でも稼働しており、レイバーが一斉に暴走したらそれこそエホバが滅ぼしたソドムとゴモラの再現である。

帆場暎一の目的は、彼が開発したOSにアクセスしたときに表示されるメッセージでわかるようになっている。

エホバくだりて、かの人々の建つる街と塔を見たまえり。いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互いに言葉を通ずることを得ざらしめん。ゆえにその名は、バベルと呼ばる。

旧約聖書の創世記11章から引用されたこのメッセージは、人間が大きな建造物を作ろうとすると、それを神への挑戦と受け取ったエホバが人間に裁きを下すという意味だ。旧約聖書でエホバに破壊される建造物はバベルの塔だけど、「劇パト1」で帆場がターゲットにしたのは高層ビルをどんどん増やしていた90年代の東京だ。

また帆場の生家には彼が書き残した一文が残されている。

エホバ天をたれて下りたもう。御足のもと暗きこと甚だし

これは旧約聖書の詩篇18編9項。砕けた感じで説明すると「神が地上に来たけど地上は酷い状態でした」という意味だ。「劇パト1」内では、帆場の生家のある地区が地上げで壊滅したことになっていて、これが「酷い状態」を意味している。神を自称する帆場にとっては、東京の都市開発そのものが神への背きなのだ。

文章で書くと旧約聖書の難しい引用ばっかりだけど、映画本編では音楽や演出を駆使して旧約聖書と現代の東京をうまく関連付けている。とくにクライマックスで海中から巨大な柱がバベルの塔のごとく出現し、神の裁きのごとく柱が折れるシーンは、アニメならではの壮大さに溢れた名シーンだ。

いかんせん映画本編では帆場暎一は死んでいるので、観客が彼について知っているのはオープニングの自殺シーンのときの笑顔だけだ。にもかかわらず劇中の帆場暎一の存在感は抜群だ。なぜなら帆場暎一が裁きの対象とした東京の街並みを観客にも共有させるからだ。劇中では二人の刑事が帆場の見てきた風景を延々と調べ続ける。その風景とは、再開発によって消えゆく昭和的な東京の街並みと、高層ビル群が立ち並ぶ新しい東京の街並みの対比だ。この対比が強烈すぎて、観客にも再開発の現場が人間の傲慢に見えてくる。

そしてもう一つ素晴らしい演出がある。パトレイバーの人気キャラクターに後藤隊長という男がいる。この後藤隊長が帆場暎一の心理を解析するんだけど、そのときの後藤隊長の笑顔が帆場暎一が自殺するときの笑顔と同じなのだ(ちなみにBGMも同じ曲が使われている)。

この見事なトリックとプロットは、「踊る大捜査線」シリーズの『交渉人 真下正義』でも流用されている。『交渉人 真下正義』で犯人が主人公の真下正義に向かって「僕と君は似ている」って言い出すシーンがある。「似ている」の意味がわからない人が多かったと思うけど、実は「劇パト1」の後藤隊長と帆場暎一の関係性を再現しようとしていたのだ。監督の本広克行も「踊る」シリーズがパトレイバーからの影響を受けたことを公言している。

次回は「劇パト1」のIT技術について解説したいと思います。

この連載について

大人のためのパトレイバー入門

破壊屋

今回破壊屋さんが紹介してくれる映画は、実写版の上映がスタートしたばかりの人気ロボットSFシリーズ「パトレイバー」。といっても、今回の実写版と同じ押井守が89年に監督を務めた『機動警察パトレイバー the Movie』と93年公開の『機...もっと読む

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コメント

6janazi https://t.co/LiqgrMW5SY 2ヶ月前 replyretweetfavorite

hakaiya パトレイバーコラムの連載第一回はこちらで読めます。 https://t.co/dlR9HflroE 4年以上前 replyretweetfavorite

umaimai1104 これも素晴らしい記事。/ 4年以上前 replyretweetfavorite

rocki141 万を辞して映画館行ったら満席ってorz 4年以上前 replyretweetfavorite