後編】テクノロジーで社会をおもしろくする

10月3日に、代官山蔦屋書店とcakes(ケイクス)の初コラボ企画として行われた、「津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ」の様子を前後編に分けてお届けします。津田さんが語る津田マガというメディアの戦略、速水さんが語る著者としての戦略を通じて、ケイクスがキャズムを超える方法を探っていきます。

ケイクスがキャズムを越えるには

速水 ケイクスを読んでいてひとつ問題になるかなと思ったのは、いまの宣伝方法だと、一定のフォロワーのいる著者に頼らざるをえないという部分です。この方法でアーリーアダプターは取り込めたと思うんですけど、キャズムを乗り越えてアーリーマジョリティーに届かせるには別の方法が必要なんじゃないかと。まだ1ヶ月くらいしか経っていないとはいえ、読者を継続的に増やしていくには、次の宣伝方法も考えないといけないですよね。

加藤 その通りです。まずは、ケイクスでの連載をまとめた本をヒットさせたいですね。そのヒットによって、キャズムを越えられるのではないかなと。

速水 なるほど。

加藤 映画化できるような作品を出したい。

速水 映画化! 『もしドラ』を作った人は考えていることのスケールが違うんだな。

津田 テキストだけじゃなくて、写真とか動画とかゲームとか、内容を広げていく予定は?

加藤 まず、漫画はやりたいと思っています。数が増えたら、チャネルを分けることも考えています。

速水 有料コンテンツのプラットフォームということだけど、ライバルはブロマガですか? それともKindleのような電子書籍?

加藤 綺麗ごとを言うわけじゃないんですが、別にライバルというのは考えていないんですよね。

津田 確かに似たようなサービスってないですよね。強いて言うなら500~1000円を毎月払うと登録されてる音楽が聴き放題になる音楽サービス「Spotify」が近いイメージ。

加藤 「Spotify」はたしかにちょっと似ていますね。

速水 電子書籍は書店を駆逐すると思っている人もいるけど、それはどう思っていますか? 僕自身は、電子書籍は本好きのためのツールとして期待しているから、それはないと思っている。というか、ケータイ小説やケータイコミックというのは成功したけど、本読み知的層が買う電子書籍のモデルってまだ成功していないんだよね。

津田 僕も、自分の著書である「Twitter社会論」のアプリを売ってみましたけど、やっぱり3000ダウンロードくらいしか行かなかったんですよね。

加藤 それは、かなり売れた方だと思いますよ。

津田 でも、頑張ってもそれくらい。

速水 今後もその辺りの数字はあまり変わらない気がするなあ。成功例を考えるなら、Newsweekの電子版。あれは本読みの知的層がiPadで読んでいる。ケイクスもそういったところを目指すんですか?

加藤 そうですね。雑誌はすごくやりたい。でもNewsweekは直販ですよね。ケイクスはプラットフォームとしてそういったものをまとめていきたいイメージです。

津田マガの戦略

津田 数だけで見ると、一媒体として日本で一番電子書籍を発行しているのって、たぶん僕の有料メルマガ—通称「津田マガ」なんですよ。

加藤 え、そうなんですか。

津田 津田マガって月4回出しているんだけど、電子書籍の規格であるEPUB形式でダウンロードして読んでいる人が相当多いんですよ。メルマガの配信数だけでいえば、堀江メルマガが圧倒的なんですけど、電子書籍として捉えると津田マガの方が読まれているんじゃないかな。

速水 この辺りで、ケイクスと比較しながら津田マガの話を掘り下げましょうか。

津田 そういえば、ケイクスは津田マガの価格を参考にしていただいたんですよね。

加藤 そうです。ケイクスは週150円なんですが、津田マガは月630円ですよね。

津田 メルマガって、堀江さんがイノベーターだから、堀江さんのメルマガの価格である月840円がスタンダードになってしまっているんです。これは、もともと堀江さんが参考にした日垣隆さんのメルマガの価格が年間1万円で、その価格を月割りにしたもの。
 僕は堀江さんに始まった有料メルマガブームから1年くらい遅れて始めたから、同じ価格でやっても勝てないと思ったんです。で、1号あたり200円くらいの値付けがいいなと。だって、「週刊少年ジャンプ」は1冊250円ですよ。ジャンプっておもしろいじゃないですか。だから、少なくともジャンプよりは安くしないとダメじゃんって思った。1号150円なら、ペットボトルと同じ値段、とお得感も出しやすいだろうと思って、税込みで月630円にしました。

速水 津田マガが良かったのは、価格もだけど、始めた時期。1年遅れて始めたというけど、あんまり早くてもだめだったと思うんです。電子書籍もそうだけど、早くやりすぎたところは体力がなくなっている。

津田 たしかに時期とかタイミングは大事ですね。『動員の革命』は4月に出して、いま2万5000部くらいなんだけど、6月に出していたら2倍は売れていたんじゃないかなと思ってます。

加藤 何でですか?

津田 官邸前デモが盛り上がったときに、それを読み解く本として出していたら、すごく売れ行きが良くなっただろうと。

加藤 ああ、なるほど。

津田 メルマガは、そういうタイミングをコントロールして出していけるメリットがありますね。

加藤 メルマガというのは、これからずっと拡大していけるものだと思ってます?

津田 いやいやいや。いけるわけないでしょう(笑)。

速水 実は先日、第1期津田マガ連載陣が卒業しましたからね。

加藤 えっ!

速水 僕の書評連載も半年近くやっていたんだけど、昨日で最終回。

津田 ありがとうございました。どのコーナーもおもしろかったし、続けたいものもあったんだけど、ちょっと新しくしたかった。次号から津田マガはリニューアルするんですよ。もともと政治メディアをつくるための通過点、という位置づけでもあるので。

加藤 ほう。

津田 一番わかりやすいリニューアルとしては、EPUBを変えます。もうほとんど電子雑誌になりますね。有料メルマガといえばEPUBとセット、という流れが津田マガのおかげで生まれたわけですけど、だからこそほかと差別化する必要が出てきたかなと。そこで二世代先にいこうと思っていろんな仕掛けを考えています。

速水 アーリーアダプターからアーリーマジョリティーに切り替えていこうというときに、戦略も変えていくわけですね。

津田 まだ津田マガはキャズムを越えられていないですからね。「津田大介」はキャズムの隣にいると言われているけど(笑)。

速水 津田大介がブレイクしたのは、どの瞬間なんだろう?

津田 『Twitter社会論』(洋泉社)が5万部弱売れたので、そのときなんじゃないですかね。まあ、それでも5万部だから、じつは世間が思っているほど売れてないんですよ。

加藤 影響力はすごかったですよね。

津田 そうそう。『Twitter社会論』を出したことで、世間から「ソーシャルメディアの専門家」と思われるようになった。結果、取材がすごく増えたので、それがいろいろな相乗効果を生んでいったということでしょうね。

速水 津田マガはいつ頃キャズムを越えられそうですか?

津田 まず堀江メルマガを越えなきゃなという気持ちがあります。今年中はちょっと難しいかな。それもあっての方向転換なんです。

著者がケイクスに期待すること

加藤 速水さんは、以前話したときに、有料メルマガは絶対やらないって言っていましたよね。書き続けることができないっていうのと……。

速水 いまは自分の宣伝期なので、まだお客様にお金をもらう段階ではないからです。津田マガも宣伝になるから「ギャラはいらないから書かせてくれ」って頼んで書評を書かせてもらっていたんです。結局、かなりいいギャラをいただいてしまったんですけどね。

津田 はは(笑)。

速水 僕はいくつかライターとしての戦略を持っているんだけど、この1年については書評の仕事を増やすことだった。朝日新聞で書評を連載していたので、もう一個、新しいメディアで書評をやりたかったんですよ。

津田 マルチウィンドウ戦略だ。

速水 いまは文藝春秋でも書評を連載しています。

津田・加藤 おお!

速水 ああいったメディアでは、ビジネス書が低く見られている部分があるから、偉い先生には頼まない。でもビジネス書の需要はすごく高い。だから僕はそういうメディアでのビジネス書の書評を狙ったわけです。
 もちろん、ケイクスでの連載も戦略のひとつですよ。僕が加藤さんやケイクスに期待しているのは、ケイクスでの連載が本になるときのことなんです。僕が期待しているのはケイクスのエージェント機能。先ほど、ケイクスからヒットが出ることが著者のインセンティブになると言いましたが、加藤さんといっしょに売れる本をつくりたいというのが、僕のモチベーションなんです。

加藤 そういってもらえるのは本当に嬉しいです。

これからの出版界を考えた時に、やはりエージェントの重要性は上がると思うんです。先日できた「コルク」も作家のためのエージェントの会社ですし。

津田 講談社で「ドラゴン桜」や「働きマン」の担当編集をした佐渡島庸平さんと、伊坂幸太郎さんなどを担当している編集の三枝亮介さんが立ち上げた出版エージェントですね。

加藤 佐渡島さんの意図や、コルクの今後の展開については、ケイクスの古賀史健さんによるインタビューで詳細に語ってもらっています。

津田 というか、コルクのエージェント機能がケイクスのなかにはいったら最強じゃないですか。そしたら天下とれるんじゃないのかな(笑)。

加藤 佐渡島さんとは友人なので、いろいろ組んでみたいとは思っています。

津田 ついでに合併して名前も「コルクス」にしちゃうと。

加藤 (笑)。ただ、僕自身がものをつくるのが好きで、ネットにものをつくる場がないからこそ会社をつくったというのはあります。もちろんこれからも本を作っていきたい。おふたりの連載も本にさせていただきたいと思っています!

速水 期待しています!

加藤 いまはちょうどインターネットのインフラ整備が完了した段階だと思うんですよ。これからはコンテンツの時代になる。インターネットの技術をうまく利用して、社会をもっとおもしろくしていきたいですね。

津田 テクノロジーへの関心というのは、この3人の共通点ですね。速水さんはテクノロジーと消費をテーマとしているし、僕はテクノロジーによる社会の変化に興味がある。それぞれの戦略を生かしながら、がんばっていきましょう。

(2012年10月3日、代官山蔦屋書店にて)

 

津田大介(つだ・だいすけ)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。ケイクスでは『Commitment2.0—そろそろコミットしてもいいんじゃないの?』を連載中。
Twitterアカウント:@tsuda

速水健朗(はやみず・けんろう)

石川県金沢市出身。 パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著書に『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)などがある。ケイクスでは『弔いの流儀』を連載中。
ブログ:犬にかぶらせろ!
Twitterアカウント:@gotanda6

加藤 貞顕(かとう・さだあき)
ピースオブケイク代表取締役CEO・編集者。アスキー、ダイヤモンド社で雑誌、書籍、電子書籍の編集に携わる。おもな担当書は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』『スタバではグランデを買え!』『なぜ投資のプロはサルに負けるのか?』(以上、ダイヤモンド社)、『英語耳』など。独立後、2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立。12年9月に当サイト「cakes(ケイクス)」をオープン。
会社サイト:http://www.pieceofcake.co.jp/
個人サイト:http://sadaakikato.com/
twitterアカウント:@sadaaki

 

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cakes×代官山蔦屋書店コラボ企画 津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ

cakes編集部

10月3日に、代官山蔦屋書店とcakes(ケイクス)の初コラボ企画として行われた、「津田大介×速水健朗×加藤貞顕トークライブ」の様子をお届けします。

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