優しくてまじめな人たちに語りかける本にしたかった
海猫沢めろん(以下、めろん) 今日はよろしくお願いします。初対面にもかかわらず、遅刻してしまってすみません。最近、物忘れがひどくて、下北沢(※)の位置がほんとにわからなくて……。
※この対談は東京下北沢の書店「B&B」でおこなわれた。
末井昭(以下、末井) どうも、初めまして。新百合ケ丘(川崎市)まで行かれたってスタッフの方がおっしゃってたけど、ずいぶん遠くまで……(笑)。
めろん 新宿から小田急線の急行に乗ったんですけど、けっこう遠かった記憶があって、気づいたら多摩川越えてて……。でも、多摩川は越えなかった気がして戻ってきたという……。では、はじめましょうか。末井さんの新刊『自殺』、拝読しました。こう言っていい本なのかわからないのですが、非常におもしろかったです。
末井 ありがとうございます。おもしろいって言ってもらえるのが一番うれしいです。
めろん 僕は、末井さんがかつて書かれた『素敵なダイナマイトスキャンダル』(ちくま文庫)も読んでいるんです。そちらも、やはりお母様のダイナマイト自殺を含むご自身の半生をつづられたものでしたよね。この『自殺』は当時と文章そのものの雰囲気は変わっていなくて懐かしくもあったんですけど、文体はちょっと変わってますよね。語り口がすごく優しくて、すばらしく解脱感があるんですよ。
末井 ぼくが想定した読者というのはやっぱり、自殺を考えている人なんですけど、そういう人は優しくてまじめだと、勝手に思ってるんですね。もちろんそうじゃない人もいるかもしれないけど、いずれにせよ生きづらさを感じてる人だから、そういう人に語りかけるように書こうと思ったんです。できれば、笑ってもらえるように。
めろん ぼくの本は読まれましたか?
末井 はい。まず『全滅脳フューチャー!!!』(幻冬舎文庫)を読んだんですけど、すごくおもしろかった。もちろんフィクションでしょうけど、めろんさんの自伝的青春小説という感じがして、「こういう環境にいたんだ」と思って、興味深く読みました。このなかに出てくるシンさんがいいですね。ヤンキーでジャンキーなんだけど、情があるみたいな。最後に阪神淡路大震災のシーンが出てきますけど、「これが、ぼくがずっと見たかったものだ! 求めていた世界だ!」というところがあって、こんなふうに書けるのはすごいなと思って。 『頑張って生きるのが嫌な人のための本』は、最初読んだときよくわからなかったんですよ。ぼくは集中力がないから、本を読むのが苦手ということもあるんですけど。
めろん ええっ!?(笑) どういうところがわからなかったんですか?
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