雨宮ひとみ /halyosy
第8回 春
合唱部にやってきた待望の新入部員一人目は、東北から来た“ずん子ちゃん”!
ボーカロイド楽曲の卒業ソング『桜ノ雨』をモチーフにした小説シリーズの完結編『桜ノ雨 僕らはここで逢おう』の発売を記念して、一部を公開します。
♪『桜ノ雨』動画はこちらから♪

『桜ノ雨』 作詞作曲:halyosy
由有の手腕により仮入部を決めた一年生は、この春、東北地方から越してきたばかりの女子生徒だった。名前は“純子 ”という。
ただ、中学時代の呼び名が純子をもじったものだったらしく、合唱部でも彼女が聞き慣れているあだ名のほうで呼ぶことにした。
「“ずん子”ちゃんかあ」
音楽室の窓を開けながら言う理真にずん子は「はいっ」と明るく答えた。
「東北なまりの“ず”と、ずんだ餅好きが混じって“ずん子”って呼ばれてました」
「お手製のずんだ餅キャラ、作ってるくらいだもんね」
わたしの言葉を聞き、ずん子は「えへへ」と笑う。そして手元のズンモちゃんを愛でるように見つめた。
「ワタシ、いつかこの子を、生まれ故郷の公式ご当地キャラにするのが夢なんです……!」
目を輝かせるずん子に、理真とわたしは顔を見合わせた。
ズンモちゃんを公式ご当地キャラにすることが夢……?
「“ずんだ餅”はすごいんですよ! 栄養満点なのに低カロリー、うぐいす色で見た目もきれいです。でも東北以外ではちょっとマイナーだと思われている宮城県生まれの和菓子……。そんな“ずんだ餅”の美味しさと、つやつやのお米がたくさん穫れるふるさとの素晴らしさを、このズンモちゃんを使って各地の皆さんにアピールしたいんです! あ……でもまだ試作段階の子でして……。もっとこう、ずんだ餅比率を上げたいところなんですが……」
その後も止まらぬ郷土愛を、ずん子は延々と喋り続けた。
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この連載について
雨宮ひとみ /halyosy
もしも初音ミクが音楽教師だったら…。
卒業ソングの定番ボーカロイド楽曲として、250万回以上の再生回数を誇る『桜ノ雨』。この名曲のノベライズ第3弾にあたる『桜ノ雨 僕らはここで逢おう』の発売を記念して、その一部を公開します。
著者プロフィール
ニコニコ動画にてVOCALOID楽曲の投稿、また「歌ってみた」カテゴリでの活動をしているクリエイター。2008年2月に投稿した初音ミク楽曲『桜ノ雨』はネット界隈だけでなく、一般層にまでファンを作るほど大きな反響をよんだ。自身が立ち上げた「桜ノ雨プロジェクト」により、『桜ノ雨』を合唱できるように支援している。ボカロ曲だけでなく、歌い手などへの楽曲提供も行っている。
脚本家、小説家。雑誌編集者を経てフリーの文筆家となる。脚本、小説、漫画原作、ゲームやドラマCDのシナリオなどを手掛ける。VOCALOID好きが高じてノベル『桜ノ雨 僕らが巡り逢えた奇跡』の執筆を担当することに。小説『Romeo×Juliet』(角川ビーンズ文庫)、『おんたま!』(ニコニコアニメチャンネル)他。