スモールネットワーク理論・文民統制・ゾンビとヴァンパイア

山形浩生さんの連載の更新頻度が上がりました! 「月報」と呼ぶのはおかしいので連載名は再考の必要ありですが、ともあれ今回論じられた主な作品名は以下の通りです。アルバート=ラズロ・バラバシ『バースト!』、三澤真美恵ほか編著『電波・電影・電視』、佐藤元状『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学』、三浦瑠麗『シビリアンの戦争』、ダニエル・ドレズナー『ゾンビ襲来』などです。

さて、前回の最後に触れたバラバシ『バースト!』(NHK出版)。ぼくはこの本は、重要なことが書いてあるような気がするんだが、二度ほど読んでもそれがよくわからない。バラバシは、スモールネットワーク理論の先駆者の一人だ。スモールネットワーク理論というと、えーと、インターネットとか神経系とかのネットワークは、あらゆる部分が均質に網の目を形成しているわけじゃない。いくつかのものすごいたくさんリンクのあるサイトと、ホンの一つか二つしかリンクのないサイトがある、という話だ。

でも、その構造であらゆる地点間はリンクを6つたどれば到達できて、世界の人も6人知り合いを介せばつながりがあって云々、という話を聞いたことがあると思う。バラバシは、それにかなり早くから注目した人だ。その理屈の人だ。あるいは、都市の規模や砂山の崩壊を見ると、それがべき乗則なるものにしたがっている、という話も読んだことがあると思う(なければ、スモールワールド理論とかマーク・ブキャナン『歴史は「べき乗則」で動く』(ハヤカワ文庫)などを見てみて。この知見自体は、もう常識に属するものなので。

バースト! 人間行動を支配するパターン
バースト! 人間行動を支配するパターン

さて、その彼が本書では、もう少し時間と活動の関係について書いている。世の中どんな現象でも、何も起きない時期と、狂ったように活動が起こるバースト期がある。でもそのバーストがいつ起こるかは……わからない。これは、人のメールを送る頻度を見てもそうだ。何十通もまとめてメールを送るときもあれば、まったくメールなしの時間が何時間も続くこともある。会社にいても、やたらにあれこれ雑用が入ってくるときもあれば、忙中閑ありで、なんかちょっと手持ちぶさたなこともある。それは歴史でも同じで、何かいろんな事件が起こるときと、何も起こらないときが交互にやってくる……。

うん、確かにそうだ。そうなんだが……それがどうした? ある意味でこれは、「べき乗則」を時間に適用しただけ、ともいえる。で、べき乗則を最初に聞いたときも「おもしろいがそれがどうした?」と思っていたら結構重要な話になってしまった。だから今回のこれも、「おもしろいけどそれがどうした?」と思ったまま、意識の片隅に引っかけておくべきだという気がしてるんだが、なぜと言われるとよくわからない。

で、今回はこれを筆頭にちょっと科学書を漁ろうかな、と思っていたんだが、それはやめてちょっと奇妙な取り合わせを。一つは、三澤真美恵、佐藤卓己、川島真編著『電波・電映・電視』(青弓社)。これは現代東アジアにおける、テレビや放送、発禁レコード、ラジオ、映画などについてまとめた論集。戦後のNHKの変なナショナリズムを絡めた権益誘導プロパガンダの実態とか、あるいは北朝鮮におけるメディアのあり方など、いろいろおもしろい話満載。多くは各国特定メディアの歴史をずらっと記述したものではあるけれど、もちろんあまり知られていない話も多い。どの国も放送やメディアは政治と密接に絡んでいて、その歴史を記述するだけでも結構この地域が戦後に経た激動が感じられて、非常におもしろい。

映像の話では、佐藤元状『ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴの映像学』(ミネルヴァ書房)。リンゼイ・アンダーソンとか、1950年代から60年代を中心に、イギリス映画について論じ、それが『フランス軍中尉の女』などもっと後の映画にどういうふうにつながるかを論じたもの。映画の評論というと、無用に社会的な意味合いを読み込んでみたり、シナリオにしか注目しなかったり、蓮實スクールの人たちみたいに「カーテンがなびいていた……すばらしい……ワンシーンワンショットの力が……」とか映像技法にばかりかまけたり、極端に別れがちだけど、本書はうまくバランスが取れていて、映画の時代との関わり、それが映像技法とどう関連しているかについて有機的に描けている。もっとも……この頃の泥臭いイギリス映画って、あんまり見ていないんだけど……ギャグのないモンティ・パイソンみたいで、地味な感じがしていまいち好きじゃなくて……。

さらに、まったくちがう話だけれど、おもしろいのが三浦瑠麗『シビリアンの戦争』(岩波書店)。これは軍隊のシビリアンコントロール(文民統制)の話。軍人はすぐ戦争したがるから、文民(シビリアン)が軍人の上にたってそれを抑えましょう、というのが日本でも軍隊の扱いの基本になっている。でも、実際には戦争になったら痛い思いをするのは軍人なので、実は軍人はそんなに好戦的というわけじゃない。むしろいやがる軍人を尻目に、バカなイデオロギーと思い込みに染まった文民どもが戦争を起こす例も多々ある。というかそのほうが多いかもしれない。文民統制なんて、実は無意味なお題目じゃないの? というのがこの本。

そして文民(デモクラシーに基づくはずの!)が暴走する理由の大きなものは、まさにその文民と軍人の分離にある。つまり、文民は戦争になっても(本土決戦にでもならない限り)自分は痛い思いをしないでいいんだよね。前都知事を含め、自分が戦闘にいく可能性が低いヤツに限って、やたらに好戦的なことを言いたがるのはよく見る現象だ。

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新・山形月報!

山形浩生

経済、文学、コンピュータなどの多方面で八面六臂の活躍をする山形浩生さん。その山形さんが月に一度、読んだ本、気になる現象について読者にお届けする密度の濃いレポートです。

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