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女性も男性と同じように軍事教練を受けるイスラエル
ルツ・カハノフ駐日イスラエル大使とサシで大使公邸で昼食をともにして、日本とイスラエルの補完性に関して興味深い話を伺った。なかでも起業大国イスラエルの背景についての話は非常に面白かった。
カハノフ大使は一貫してアジア太平洋畑を歩んでこられた。イスラエル、ハイファ市生まれで、エルサレムのヘブライ大学国際関係・東アジア研究科を卒業。のちに香港大学アジア研究センターへ1年間、客員研究員として留学した。
1983年外務省に入省後は、84-89年アジア太平洋部、95-2001年北東アジア部長。海外駐在ポストとしては、89-91年在香港イスラエル総領事館領事、のちに次席、91-92年在北京イスラエル連絡事務所副所長、92-94年在北京大使館公使参事官・次席、2001-02年駐ニュージーランド大使および非駐在フィジー、トンガ、サモア、キリバス、ツバル大使、2003-06年台北イスラエル経済文化事務所所長、日本着任以前の2007-2013年には外務省次官補兼アジア太平洋局長を務めた。
プライベートな会食での話なのでここでは全容を披露することはできないが、自国が友好的でない国々に囲まれ、中国、香港、台湾に長くいらしたので、中東と東アジアの地政学的課題についての議論から始まった。中東におけるイスラエルと東アジアにおける日本の立場については、かつてこのコラムで紹介したイアン・ブレマー氏は共通点が多いと言っていたが、大使から見たら、相違点も多いということだけは申し上げておこう。
次の話は、安倍政権が進めるウーマノミクスについて。イスラエルでは女性が男女平等を訴える過程で、男性と同じ軍事教練を要求し、男性と一緒に軍隊で訓練を受けているという。「イスラエルの女性とは戦ってはいけません」と笑っておられた。女性の社会進出を支えるために政府も入念な保育体制を敷いているという。子育てしながら多忙な外交官を務めてきたカハノフ大使の「女性を子育ての負担からある程度解放してあげることが日本にもさらに必要ではないか」との主張はその通りだと思う。
過酷な環境が生み出すイノベーション
この日、本題となったのは起業大国イスラエルの話。これは非常に盛り上がった。イスラエルはたくさんの起業家を輩出していることで世界的に有名だ。例えば、楽天が買収したバイパーもそうだ。その背景にある、教育、社会構造、金融体制についても教えてもらった。
イスラエルは、人口は愛知県ほど(710万人)、面積は四国ほど。そのほとんどが乾燥地帯で、地下資源も食糧資源も非常に乏しい国である。ご存知のように隣国は敵だらけ。敵に包囲された過酷な土壌の中で生き抜く必要があったのだ。その環境下で、一人当たりのベンチャー投資額は米国の2.5倍、ヨーロッパの30倍。人口1844人につき創業1社という起業大国ぶりで名をはせている。
なぜイスラエルではこんなにたくさんの起業家が生まれるのか? もちろんユダヤ人ということもあるのかもしれない。宗教からくるのか、家庭内教育からくるのか、両方あるだろうが、シリコンバレーで大成功している起業家は、セルゲイ・ブリンもマーク・ザッカーバーグもシェリル・サンドバーグも皆ユダヤ系だ。
周りを敵に囲まれているため、軍事技術から派生するイノベーションが多いこともあるだろう。人類のイノベーションの多くは戦争が契機になっている。ロケットも脳外科手術も火薬も戦争由来だ。人類の歴史には、お互いを殺し合いながら科学技術を作り上げてきた側面があるが、イスラエルの場合は、自分の身を守るために軍事技術に投資をして、そこから色々と転用できる技術が生まれてきたという側面もあるだろう。
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