漫画を描くことで人間の秘密をつかみたい

「今から遠い未来、僕らは『宝石』になった」。宝石がキャラクター化された物語。天才・市川春子さんはこの物語世界のことを、すべては知らない。それを知るために、考えるために、筆を進めるのだと語ります。その探究心の向かう先は、この現実世界の謎を探ることでした。宝石達を主人公にしたからこそ描けること、それは——人間っていったい何なんだ?

ダイヤモンド、フォスフォフィライト……
宝石達は、私達と違う時間軸で動いている

— 『宝石の国』ではキャラクター化された宝石が、それぞれの個性に応じた戦い方で「月人」を撃退する。でも、それ以外の日常生活では、女子寮モノのような、軽口満載のガールズトークが繰り広げられますよね。激しい戦闘と、ふんわりした日常のギャップがおもしろいんです。

市川 まず、みんながみんな鉱物に興味があるわけではないということは私もわかっていまして(笑)。シリアスなところを表現するためには、コミカルなものも入れないと全体として読んでもらうのが難しいなと思ったんです。
 軽口のようなものはいくらでも出てくるし、描くのがどんどん楽しくなっちゃって、今は1話に1つくらい真面目なセリフがあればいいだろうくらいの気持ちでいます。


『宝石の国』1巻より

— 宝石ひとつひとつの鉱物としての特徴を見つめていったら、キャラクターが立ち上がってきたんでしょうか?

市川 そうですね。わかりやすいところで言うと、硬度が高いと攻撃力が高いという設定にしてあるので、ダイヤモンドは宝石の王様ですから、シンプルに一番強いです。

— 主人公である「フォスフォフィライト」はどんな宝石なんでしょう?

市川 フォスは希少鉱物の王様なんですよ。

— レアメタル的な?

市川 レアメタルは経済に役立つ金属系鉱物ですが、それとは別にとにかく産出量が少ないのでレア度が高く、美しい高価な鉱物があるんです。ベニトライトとか、レッドベリルもそうですね。その中でもフォスフォフィライトは、他の宝石にはない、美しい色合いを持っているんですね。
 でも、硬度が低いから、宝石には適さない。すぐに割れてしまうからです。「綺麗だけど宝石にならない」というところに相反する魅力を感じました。

— レアなんだけど、役に立たない。フォスフォフィライトのそうした特性から、おバカなドジっ子のキャラが生まれた?

市川 最初はそんなバカじゃなかったんですけどね。バカのほうがお話を進めやすいだろうという判断のほうが大きかったです。厳しい世界ではあるので、打たれ強くないと主人公としては難しいなという思いもありました。

— シンシャは毒液を吐きながら戦うキャラクターです。自分が動くと周囲の迷惑になってしまうから、みんなが寝静まった夜だけ活動する。孤独な魂の持ち主ですが、これは?

市川 シンシャは特に変わった性質を持っていて、水銀を出す鉱物がモデルなんですよ。「綺麗だけど危ない」っていうイメージですね。そのギャップが、絵的にも映えるんじゃないかと思って出しました。

— そんな宝石たちは、実はかつては「にんげん」の一部だった。二巻の半ばで明かされる設定は衝撃でした。そこからストーリーも加速していきましたね。

市川 『宝石の国』の世界は、今の世界の延長上の、未来の話なんです。その設定を隠して描いていたんですが、編集さんと相談して徐々に小出しにしていかないとね、という話になりました。


『宝石の国』2巻より

— 宝石をキャラクター化し、命を与えたことによって、描けたテーマはありますか?

市川 石というのは、私達と違う時間軸で動いているんですね。不死だとも言えるし、ダイヤモンドなんて一億年かかってできている。「長く生きている彼らはどんな日常を送っているのかな?」ということは、描きながら常に考えているつもりです。

— そこから「じゃあ、人間はどうだろう?」と自然に思い返されます。市川さんは、マンガを描くことで世界や人間を知りたい、という探究心があるのでしょうか?

市川 私が漫画を描く理由は、それがほとんどですね。人間の性質の秘密を、多少なりともつかみたいという気持ちが大きいです。


さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
「ゾッとしたり、ドキドキしたり、『わからない』がおもしろい」市川春子
ぜひこちらからお楽しみください。

執筆:吉田大助


宝石の国で繰り広げられる、彼女たちの鮮烈な戦いと不思議な生命が織りなす物語を、ぜひご堪能ください!

宝石の国(1) (アフタヌーンKC)
宝石の国(1) (アフタヌーンKC)

宝石の国(2) (アフタヌーンKC)
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虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)
虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンKC)

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この連載について

初回を読む
イマ輝いているひと、市川春子「ダイヤの一億年を考えながら、人間の秘密を探してる」

市川春子

「今から遠い未来、僕らは『宝石』になった」。デビュー作で、手塚治虫文化賞新生賞を受賞し、寡作ながら天才との呼び声も高い市川春子さんが、初めての長編連載『宝石の国』で大きな変化を遂げています。期待の長編がどのような思いから生まれたのか。...もっと読む

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コメント

inn_so_far フォスフォフィライト https://t.co/IlOtHhYX36 約1年前 replyretweetfavorite

tachibana こんなインタがあったとは! 《市川春子Vol.1 “はかりしれないほどの光”でも、すべては救えない》 http://t.co/doWlhjtRZ9 2,3に続く。 加えてcakesのインタも面白かった。 https://t.co/dbjQq97nfU 4年以上前 replyretweetfavorite

umino 宝石の国未だに読めてない…… / 4年以上前 replyretweetfavorite

KindleJPComics はてなブックマーク「漫画」タグ新着エントリ: 4年以上前 replyretweetfavorite