新しい「遊び場」が生まれた年
振り返ってみれば、二〇〇七年は、インターネットや音楽を巡る数々のサービスが生み出された年でもあった。
二〇〇六年一二月に試験的なサービスを開始していた「ニコニコ動画」が、「ニコニコ動画β」として本格的に始動したのが、二〇〇七年一月のこと。
リアルタイムのライブストリーミング(生配信)サービスを提供する「USTREAM」が、一般向けベータ版のサービスを開始したのが、二〇〇七年三月。
また、世界中で数多くの有名アーティストがアカウントを持つ音楽の共有サービス「SoundCloud」は、二〇〇七年八月にベルリンでスタートしている。
インターネット上で音楽をともに楽しむことのできる新しい仕組みが、世界中で同時多発的に生まれていたのが、この頃だった。
振り返れば、YouTubeやTwitterが創業し、サービスを開始したのも、二〇〇五年や二〇〇六年の頃だった。音楽だけでなく、政治や経済の分野を含め、社会全体にとっても欠かせないインフラとなった数々のインターネットサービスが生み出されたのが、この頃のことだ。
そして、今となっては笑い話のように思えるかもしれないけれど、それが登場した当初は、誰もがそれを新しい「遊び場」として捉えていた。
二〇〇七年とか二〇〇八年の頃って、みんなDIY精神が強かったんですよ。よくわかんない面白いものが転がってるから、それをどうにかして面白くしようぜっていう文化だったんですね。
(ナタリー「kz(livetune)×八王子P 気鋭クリエイター2人が語るネットミュージックの現在と未来)
こう語ったのは、本書でも後に登場する音楽プロデューサー、kz。livetune名義でも活躍する彼は、二〇一一年末にGoogle ChromeのキャンペーンCMソングとして発表され、初音ミクとボーカロイドを世界中に広く知らしめるきっかけになった楽曲「Tell Your World」の作り手だ。初音ミク発売直後の二〇〇七年九月にオリジナル曲「Packaged」をニコニコ動画に投稿し、二〇〇八年にいち早くメジャーデビューを果たして注目を浴びた、ボーカロイドシーンのパイオニアの一人でもある。
自分はまさに曲作り始めたばっかりなんで、もうやったるぜ! みたいな感じでした。まともな曲を作れるようになったらニコ動にアップするぞ! みたいな。
学生時代にボーカロイドとニコニコ動画に出会い、その頃に見よう見まねで音楽制作を始めたという八王子Pも、二〇〇七年当時のことをこう振り返る。
つまり、クリエイターたちがそこに見ていたのは、ビジネスや採算や、そういったこととは関係ない、創作と表現の「楽しさ」そのものだった。
これは「終わりの始まり」だ——。あの頃、そんな風に語り、音楽の未来について悲観的な物言いをしていたのは、既存のシステムの中にいた大人たちばかりだった。
ニコニコ動画に出会い、ボーカロイドに出会い、そこで動画サイトに投稿していたクリエイターたちは、みんな無我夢中で目をキラキラさせていた。そこには真新しい熱気があった。それこそ、livetuneの「Tell Your World」は、まさにその熱を形にしたようなアンセムだった。
僕はどっちかっていうと、あの頃はすごくポジティブなことを思ってました。面白いことがこれからいろいろできるじゃん、って。多分、それって、既存のシステムにいなかった人たちの見方なんですよね。システムの側にいた人からすると、無料で出されちゃどうしようもないだろってなっちゃうと思うんですけど。
kzは、こんな風にも語っている。
二〇年おきに訪れる「サマー・オブ・ラブ」
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