「普通」のみんなが、大人びて見えた
——このたびは、学校功労賞の受賞、おめでとうございます。
東田 どうもありがとうございます。まさか僕がみんなの代表としていただけると思っていませんでしたから、とても嬉しかったです。おわり(※)
※東田さんは紙に書いたアルファベットを指差しながら話す。伝えたかったことを言い終えると、その合図に「おわり」という言葉が入る。
——高校生活は、東田さんに何を与えてくれたのでしょうか。
東田 障害に関係なく、人は誰でも学ぶ権利があるということです。僕は普通の高校生が学ぶ勉強をしたかったので、有意義な3年間でした。おわり
——高校は、通信制のコースということですが、どのように勉強されていたのですか。
東田 みんなのようにできないので、問題を音読してもらいながら解き、問題集を毎月提出していました。そのほかに作家としての活動や、和時計や金閣寺のことなど、自分の興味のあるテーマでもレポートを書きました。おわり
——高校生活で、特に印象的だったことはありますか。
東田 石川県でのスクーリング(編注:通信教育を受けている人が、一定期間通学して受ける面接授業のこと)です。中学では養護学校に通っていたので、普通のみんながすごく大人びて見えて、自分だけ時が止まったような4年間を過ごしていたことにショックを受けました。僕はパニックになったり逃げだしたりしましたが、同じクラスの同級生たちが自然体で受け入れてくれたので、僕ももう一度この社会で居場所を探すことを決心しました。おわり
(ここで、東田さんは立ち上がり、窓辺に移動する。3階の窓から、食い入るように外を眺めている。)
外を眺めている東田さん。このあと、「3時まで」とご自身で時間を区切って外を眺め、インタビューの席に戻ってきてくださった。
——先ほどは、どうして外を眺めていたのでしょうか。
東田 車のタイヤの動きを見るのが楽しくて、いつも見ています。遠くで見るタイヤの動きと、近くで見るタイヤの動きが違うので、それが面白く、長い間見続けることもあります。どうしてあんなふうに見えるのか、ずっと考えています。
近くのタイヤは、動く方向にちゃんと回っているのがわかるけれど、遠くのタイヤは、どちらに回転しているのかわからないように見えることがあり、それがすごく興味深いです。おわり
もっと広い場所で、自分の力を試したかった
——小学5年生まで、普通学級に通われていたそうですね。
東田 授業中も、母が隣や後ろにいてくれました。集団での指示が通りにくかったり、どこを勉強しているのかわからなくなったりすると、母が僕を助けてくれました。
もちろん、先生や友達も僕を助けてくれましたが、それだけではみんなのように勉強するのが難しかったのです。おわり
——なぜ、6年生で、養護学校に転校されたのでしょうか。
東田 普通クラスではさまざまなことを体験することができました。それは僕にとって充実した日々だったと思います。けれども、学年が上がるにつれて、みんなとの差は努力だけでは埋まらないことに気づきました。僕にはみんながまぶしすぎたのです。それで逃げるように、養護学校に転校しました。
クラスの友達は急な転校に驚いていました。みんなが引きとめてくれた時は嬉しかったです。「共生」ということを考えるとき、僕はこの小学校時代を思い出します。おわり
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