第43回】「地球温暖化を食い止めるためには、原発を無くしてはいけない」映画『パンドラの約束』の警告

脱原発がもたらす大気汚染などの脅威を人道的な見地から説明し、原子力反対者の意見を変えたアメリカ映画『パンドラの約束』。10万年後の地球や人々をも想定した壮大なドキュメンタリー映画が4月19日から全国で上映がはじまる。

パンドラの約束』というアメリカ映画を見た。一言でいうなら、原子力発電に関する誤解を解き、その長所を見直そうという映画だ。いや、違う。この映画の主張はもっと緊迫している。「地球の温暖化を今、食い止めるためには、原発を無くしてはいけない」という真摯な警告であるといったほうが正しいだろう。

脱原発を決めて2年半、CO2排出量は増える一方

2月26日、ドイツ。EFI(Expertenkommission Forschung und Innovation=研究・開発専門家委員会)という政府の調査機関が、衝撃的な調査結果を提出した。「再生可能エネルギー法は、気候変動防止にも技術の刷新にも役に立たない」というのだ。脱原発を高らかに掲げ、再生可能エネルギー法を伝家の宝刀として誇りにしてきたドイツ国民は、大きなショックを受けた。じゃあ、脱原発は今後どうなるのか、と。

再生可能エネルギー法は、自然エネルギーに由来する電気に対し、20年間にわたる全量固定価格買い取りを保証している。昨今、電気代が高騰しているのは、この買い取り金の激増が原因なのだが、国民はこれが気候変動の防止に役立つと言われ、大きな負担をのんできたのだった。

しかし、EFIは、それが間違いだと言っている。それどころか、「再生可能エネルギー法の継続を正当であるとする理由は見つけることができない」とまで断言しているのだ。

地球は確かに温暖化しているようだ。近年、毎年のように地球のどこかで殺人的な嵐や豪雨や台風が起こっているのも、それと関係があるのだろう。しかし、これから発展途上国の人々の生活が向上し、もっと多くの電気が消費されるようになり、それを火力発電で賄っていくとすれば、温暖化がさらに進むのは避けられないことだ。

だったら、それを防ぐため、CO2を出さない自然由来のエネルギーを使えばいいという説があったはずだが、それがどうも間違っていたらしい。現実としては、太陽光や風力の発電施設をいくら増設しようとも、火力発電所をなくすことはできない。

なぜかというと、太陽光と風力はどちらもお天気任せなので、電力需要のピーク期に安定的な供給を保証することができないからだ。

そうでなくても、太陽光や風力は、季節間、あるいは昼夜間で大きな変動がある。一日の間でも日の照り具合、風の吹き具合は変わる。だから、生産される電力はたえず変動する。太陽や風では、電力の安定供給は保障されない。

電力の安定供給が保障されないということは、産業国にとっては致命的なことだ。だから、太陽光や風力の発電には、必ずバックアップを行う発電施設が必要になる。それは、太陽光や風力の発電施設がどれだけたくさんあっても、変わらない。そして、原発がない限り、そのバックアップの発電はガス、石油、あるいは、石炭、褐炭でやるしかない。こういうものを燃やすと、もちろん空気が汚れる。

ドイツは今、その道を歩んでいる。現在、16基のうち9基の原発が稼働しているが、止まっている7基分を補うため、火力発電が必要なのに加え、風力と太陽光の発電容量が増えたため、そのバックアップとして、さらに火力が増えている。

つまり、脱原発を決めて2年半が過ぎたが、それ以来、安価な石炭と褐炭の使用が増え、CO2の排出量が増えた。しかも、これからさらに原発が止まり、さらに風力と太陽光発電が増えるため、今、慌てて火力発電所を作っている。CO2の排出量は、もちろんさらに増えるだろう。

ドイツは元々石炭と褐炭の国だ。脱原発をする前も、電力のうちの4割強が石炭、褐炭で作られていた。今はそれが45%を超えている。同じ量の電気を作るために排出しているCO2の量は、フランスと比べて10倍となっている。フランスは原子力発電が75%で、水力もあり、石炭は6%にすぎない。

原発論議の多くが情緒的に行われる理由

前置きが長くなったが、『パンドラの約束』では、このテーマを扱っている。脱原発の弊害として起こるCO2の増加を看過してはならないということだ。石油会社は太陽光や風力エネルギーに大賛成。なぜかというと、それにより、さらに石油が売れるからだそうで、それを聞くと、私でも「何かおかしい」と感じる。

おかしいと感じたのは、脱原発に賛成していた環境運動家たちも同じで、彼らが反原発の立場から、実は地球のために一番よいのは原発であるという意見に転じるまでのドラマがこの映画の中身だ。監督のロバート・ストーン氏も、原子力反対派として知られていた人物で、初めて監督した作品は、反原子力映画『ラジオ・ビキニ』である。

つまり、『パンドラの約束』は、今まで原発の廃止のために尽力していた人たちが、なぜ原発擁護に転向したのかという経緯を、原発の環境にもたらす意味を論理的に説明することで示そうとしている。そういう意味では、脱原発を推進しようとしている人にとっても、また、原発を擁護しようとしている人にとっても、見る価値がある映画だと思う。

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シュトゥットガルト通信

川口マーン惠美

シュトゥットガルト在住の筆者が、ドイツ、EUから見た日本、世界をテーマにお送りします。

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コメント

kappanight 絶対安全なものはない。となると脱消費社会ってのが一番なのでは。 約4年前 replyretweetfavorite

hazkkoi ”原発こそが地球温暖化の解決手段” 【東京特派員】 反原発を放棄した人々 冷厳な事実描いた「パンドラの約束」 http://t.co/gMOfxiTNkd https://t.co/XzwHuQpJph 約4年前 replyretweetfavorite