「自分は自分」が一番むずかしい
西加奈子(以下、西) めろん君が、自殺してしまったK君にあててこの本を書いたってことは、めろん君は、K君には死んでほしくなかったってことよね?
海猫沢めろん(以下、めろん) う~ん……そこはいまだにわからなくてさ。最近、ベルギーで子供の安楽死を認める法案が可決されたの。たしかに、一生治らへん病気になっても苦しみながら生きなあかんって、死ぬより嫌かもわからへんよな。つまり安楽死って、絶対に逃れられない苦しみから解放される手段として、死が肯定されるわけやん。でも、「自由になりたい」と苦しんでいたK君のその気持ちは、不治のものではなかった気がしてるというか、「死」以外の処方箋もあったんじゃないかって。
西 K君には、「何者かになりたい」感もあったからな。
めろん 「俺はこんなもんじゃねえ」っていうね。K君も小中学校くらいまではうまくいってて、バスケやってるリア充やったんやけど。
西 ……めろん君のリア充の定義ってなんなん?
めろん え、学生時代にスポーツしてたらリア充っぽくない? K君のドレッドヘアの兄貴はリア充のままうまくいったわけで、K君もうまくいけばよかったんだけど、どこかで他人の目みたいなものを気にしだして、バスケがうまくプレイできなくなって悩み始めた。それって完全に自意識の問題やん。そういうふうに他人の価値観によって生きさせられてる人を治せないかなと。
西 そこで「自分は自分」やって認められるかどうかが重要なのよね。めろん君はこの本で、「自分は自分」やっていうのを前向きに認めるんじゃなくて、「だってもう自分なんやし、しゃあない」みたいに後ろ向きに認めることもすすめていて、それもすごくええなって思った。めろん君自身もそういう生き方をしてて、そこが素敵なんだよね。あんまり人に興味ないし、疲れてるときは疲れてる顔を隠さへんでしょ?
めろん それ、たんに空気読まれへん人やん(笑)。
西 でも、うちも、うちの周りの人もみんなめろん君大好きやし。それはたぶん、めろん君が自分を大きく見せようとせえへんからやと思う。こっちを脅かさへんし、逆にこっちがどんだけひどい話しても、絶対に引かへん。それは人に興味がないってことのいい反転やと思うんやけど。
めろん いや、人に興味はあるけど!