普通に暮らしてきた人間だからこそ撮れる映画

映画『横道世之介』など、話題作を連発している気鋭の映画監督・沖田修一さん。意味がありそうでなさそうな何気ない会話や、思わずお腹が減ってくるような食事シーンなど、リアル過ぎる日常の一コマを描き出すその人間観察力や描写力は、はたしてどこから生まれてくるのか。今回は、沖田監督が感じる「普通の人を描くことの魅力」について伺いました。

沖田修一をいま注目するべき3つの理由

デビュー作から映画業界の注目の的!
2009年商業デビューとなる『南極料理人』で、その年に最も優れた新人映画監督に贈られる新藤兼人賞金賞をはじめ、第1回日本シアタースタッフ映画祭監督賞や第29回藤本賞新人賞を受賞。飛ぶ鳥落とす勢いとは、まさにこのこと。

「普通の日常」がドラマになる!
派手なアクションやバイオレンス、恋愛ドラマはない。でも、だからこそ誰もが共感して感情移入できるのが沖田作品の魅力のひとつ。鑑賞後は「自分の日常だって捨てたもんじゃない」と思えるはず。

何気ないシーンにこそ味がある!
沖田監督の作品は、何気ない会話やふとした表情がとてもリアル。ひとつひとつのシーンが繊細に描かれているからこそ、ただの食事風景や会話シーンでもぐいぐい引きこまれてしまう。

コミュニケーションのおもしろさを映画にしたい

— 沖田監督は「何気ない普通の人」の描写が本当にお上手ですよね。昔から普通の人を映像化するのがお好きなんでしょうか?

沖田修一(以下、沖田) そうですね。人間同士のコミュニケーションのおもしろさみたいなところを映画にしたいといつも思っています。

— 作中の登場人物のやりとりがおもしろいですよね。ストーリーとは別のところで、クスッと笑える部分があるというか。コミュニケーションを描きたいと思うようになったきっかけはあるんですか?

沖田 僕は別に学生時代にとんでもなく不幸に見舞われたわけでもないし、戦争中に青春時代を過したとかでもないんですよね。いたって平和に友だちとワイワイ言いながら、普通に生活していたんです。
 そんな僕のような普通の人間が映画を撮るといったら、人が日常的におこなっている普通のコミュニケーションをおもしろがるしかない。そういうところから、僕の作品づくりはスタートしている気がします。

— 『横道世之介』は吉田修一さんの原作ですが、元の小説に描かれているのも基本的に主人公の世之介の普通の大学生活ですね。

沖田 原作ありきの作品を撮る場合は、「壊す方向」と「乗っかる方向」があると思ってて。普段は壊すほうが僕はおもしろいんですけど、『世之介』は乗っかるのもおもしろいなと思って、原作の世之介をそのまま登場させたというところが大きなポイントですね。


映画『横道世之介』予告編

— 原作ものを撮るときに気をつけたポイントはありますか?

沖田 いつも作品を撮るときには、「それはないでしょ(笑)」みたいな感じでこっちがゲラゲラ笑いながら作れるかというところが重要だと思っています。うまく言えないですけど、そうなれば何を撮っても自分の色は出せるんだと思います。

「無駄」なセリフを、詰め込みました

— 常に天真爛漫で人懐っこくて、誰にでも好かれてしまう主人公の世之介のキャラクターは、ちょっと浮世離れしているというか、ファンタジーみたいなところもありますね。作中の設定が80年代ということもあるのかもしれませんが。

沖田 そうですね。おっしゃるように世之介の世界をファンタジーととらえることももちろんできるんですけど、僕はむしろ「基本的には僕の学生時代と変わんねぇな」って思ったんですよね。上京して初めて部屋を借りた時のこととか、大学で初めて出会う人と仲良くなっても結局疎遠になってしまったりとか。いろいろと自分にも思い当たる経験あるんですよね。多分、ほかの人にもあるんじゃないかな。
 だから、時代設定はあくまで80年代ですけれども、そこはあまりこだわらないで「設定がたまたま80年代だった」という体裁で撮影しました。


(c) 2013『横道世之介』製作委員会

— 確かに、当時のファッションや風俗とかいろいろ出てきますけど、映画の中で具体的な年は特定されてませんよね。時代を気にせず、純粋に世之介やその友達とのやりとりに入って行けるからこそ、どの年代の人が観ても感情移入しやすいのかもしれません。

沖田 僕も当時は小学校5年生くらいだったので、街の雰囲気をなんとなく覚えていたり、冒頭に出てくる斉藤由貴さんのアルバム『AXIA』のポスターも見たことあった。あと、当時流行ったS&Bのスナック菓子「鈴木くん」「佐藤くん」も、スタッフさんに見せてもらったときに「これ、忘れてたけど、めちゃくちゃ覚えてるわ!」って興奮しました(笑)。
 でも、映画では1987年の世界ということをあまり言わないことにして、最初に年号も出さなかったんです。時代背景を前に出すことにこだわらないほうがいいというか、当時を知っている人だけが楽しめる映画だと思われたくはなかったので。

— 全然そんな感じはありませんでしたね。むしろ、映画を見ている時の時間感覚もちょっと不思議な感じで、160分という通常の映画より長い時間も、まったく長く感じませんでした。

沖田 僕もフィルムをつないでまだ音もつけていない段階で観た時、「実際の時間より体感が早いな」と思いました。確かに時間自体は160分もあるので、長いことは長いんです。でも、嫌な長さじゃないなと。プロデューサーも「これはむしろ切って短くしないでくれ」という感じでした。

— これ見よがしの長回しでなく、気づいたらこのシーンずっと1カットで撮っていたっていうような。本当に誰かの会話を横で立ち聞きしているような気分になりました。

沖田 主役の高良くんやヒロイン役の吉高由里子さんをはじめ、キャストのみんなが素晴らしかったんですよ。だから意識して撮ったというより、「別にカット割らなくていいな、このまま見せちゃえ」っていう判断を下せたんです。ただ、誰かと誰かがしゃべっているライブ感みたいなのは大事にしたいと思ってました。

— 何気ないセリフが本当にたくさん入ってましたよね。「あの先生の講義、おもしろいの?」「ううん、全然つまんない」みたいな会話とか。ちなみに、脚本は前田司郎さんが最初に書かれたということですが。
※劇団「五反田団」主宰、小説家、映画監督

沖田 台詞はほぼ前田君が書いたままで、それを元に僕がちょっと変えたりしてますけど、土台みたいなものは彼が作ってくれました。台詞に「えっ」とか「あ……」とか、そんなのばっかりというか(笑)。でも、そもそも登場人物が19歳くらいなんですが、19歳の会話ってそうだよねって。


(c) 2013『横道世之介』製作委員会

— たしかにそうですね。すごく自然でした。

沖田 いかにも「台詞を読んでます」というように見えないように、仕向けたかったというのはすごくありますね。自分の当時を思い出してもそうですけど、19歳同士ってそんなに的を得たことばかり言ってないですよね。すごく無駄なこと話してたり、微妙なニュアンスだったり、相手の話を聞いてなかったり、会話に間があったりとか。そういう無駄があるコミュニケーションっていうのが、作品のなかに垣間見られるといいなって、思ったんです。

— その「無駄」こそが、沖田作品の魅力のひとつなんでしょうね。

沖田 「僕らしさ」について自分で話すのは恥ずかしいですけど、そう言っていただけるとうれしいですね(笑)。

(次回、4月15日更新予定)

執筆:小林英治、撮影:加藤麻希



Blu-ray・DVD『横道世之介』(販売元:バンダイビジュアル)
監督:沖田修一、脚本:前田司郎 沖田修一、
出演: 高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛

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この連載について

イマ輝いているひと、沖田修一「『普通の日常』に染み込んでいるおもしろさを撮る」

沖田修一

映画『横道世之介』など、話題作を連発している気鋭の映画監督・沖田修一さん。意味がありそうでなさそうな何気ない会話や、思わずお腹が減ってくるような食事シーンなど、リアル過ぎる日常の一コマを描き出すその人間観察力や描写力は、はたしてどこか...もっと読む

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コメント

e_covi インタビューUPされてました→ 4年以上前 replyretweetfavorite

mayuppe @e2coff 丁度今朝インタビューが https://t.co/hPLppwcDaa 4年以上前 replyretweetfavorite

consaba #横道世之介 #eiga 4年以上前 replyretweetfavorite

sugawa 南極料理人大好き(*>ω<) 4年以上前 replyretweetfavorite