ゴーストバスターズ 
ニューヨーク万歳!

今回の「およそ120分の祝祭」のテーマは、『ゴーストバスターズ』。この痛快な映画が放つ魅力の源泉に、ブロガーの伊藤聡さんが迫ります。なお、2014年2月24日に本作の出演者であり、脚本にも参加しているハロルド・ライミスが亡くなりました。故人を偲びつつ、この名作を改めて鑑賞してはいかがでしょうか。

映画が好きな人なら、一度はニューヨークに滞在して、地図を片手にマンハッタンの町を歩きまわってみるべきだ。僕は2011年に初めてニューヨークへ行ったが、それ以降、アメリカ映画の見方が大きく変わったようにおもう。ニューヨークを舞台とした作品を見たとき、どのあたりで撮影しているのか、目印になるモニュメントや建物さえあればだいたいの見当がつくようになったためだ。実際に町を歩いて、マンハッタンの地理が把握できたのも大きい。タイムズスクエアからセントラルパークまでは、歩いてどのくらいの距離なのか。グランド・セントラル駅から見て、エンパイア・ステート・ビルはどの方角にあるか。そういった位置関係が理解できるようになると、映画はとたんにリアリティを増す。

マンハッタン区はさほど大きな場所ではないから、3日あればおおよそ見てまわれるし、地理はすぐに理解できる。こうした経験が一度あるだけで、帰国してから見た映画にニューヨークが出てくるたびに、たのしみが何倍にも増すことに気づいたのだ。もちろん渡航にお金はかかったけれど、とてもいい体験ができた。『アベンジャーズ』(’12)のクライマックスで、42番街を舞台にしたアクションシーンが始まったとき、「よりによって、あんなに混雑した場所で戦うのか」と実際の場所をイメージすることができたし(JFK空港からバスでマンハッタンへ移動した観光客は、たいてい42番街に降ろされるのだ)、『ステイ・フレンズ』(’11)で歩行者信号を守らずにすいすい道を渡ってしまうミラ・クニスを見て、「そう、ニューヨークの人って赤信号でもおかまいなしで渡っちゃうんだよな」と、作品に込められた細かなニュアンスが理解できるようにもなった。

僕は39歳になるまでアメリカへ行ったことがなかったから、初めてのニューヨークには大いに刺激を受け、子どものようにはしゃいでしまった。未知の土地ではあったが、ニューヨークに関する知識は、本や映画を通じて増えつづけていたため、実際に訪れたとき、初めて来た場所にはどうしてもおもえなかったのだ。何しろ僕は、映画や小説のなかで数え切れないほどにニューヨークを歩きまわっていたのである。車体に NYPD(ニューヨーク市警察)と書かれたパトカーを見ただけで興奮してしまう。あれを僕は映画で何度も見た。本物だ! 『メン・イン・ブラック』(’97)に出ていたウィル・スミスが、NYPD は「ノック・ユア・パンクアス・ダウン(お前のケツを蹴り飛ばす)」の略だと自慢げに言っていたことをおもいだす。あのパトカーを運転している、こわもての警官たちに聞いてみたい。潜入捜査とかしてるんですか。『アンダーカヴァー』(’07)みたいに、麻薬取引を捜査するためにマフィアに扮した警官を送り込んだりするんですか。

『ゴーストバスターズ』(’84)は、お化け退治の会社を始める3人組を通じて、ニューヨークの町に対する愛着を描いた作品だ。ニューヨークを舞台にした映画は数あれど、町の魅力をストレートに伝える作品としては、もっともすぐれたもののひとつであるようにおもう。初めて見たのは中学の頃だったが、ニューヨークとは何とたのしそうな場所なんだろうと、そればかりが印象に残ったことを覚えている。映画館を出て、家へ向かってひとり自転車を漕ぎながら、中学生の僕は「この東北の小さな田舎町の外側には広い世界があり、無限の可能性が待っているのではないか」と胸騒ぎがしたのだった。

ゴーストバスターズ コレクターズ・エディション [DVD]
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本作におけるニューヨークは一貫して、自由で活気のある魅力的な土地だ。主人公の科学者3人組は年齢こそ大人だが、そのふるまいはまるで少年のようである。妻帯者はひとりもおらず、性的なニュアンスを含む行動がない。唯一女性に興味を示すドクター・ピーター(ビル・マーレイ)にしても「やや早熟な中学生」といった雰囲気だ。彼らは、マンハッタンをあたかも遊び場のように走りまわりながらお化け退治に興じている。中学生だった僕が夢中になるのも当然だった。

お化けといっても、恐怖感に訴える描写はいっさいない。映画を見終えた観客は何より、ニューヨークの洗練された町並みや、ストーリーテリングの風通しのよさにウキウキした気分になれる。もちろん、ポップなロゴマークや、明るいテーマソングで組み立てられたコメディタッチの作品であることも重要だ(この主題歌の歌詞を通じて、僕は「隣人」を英語で neighborhood と呼ぶのだと学んだ。映画を見るたびに、新しい英単語をいくつも吸収していった)。また、揃いのつなぎや、背中にかついだビーム発射器といった小道具も子ども心に響いた。どれもうれしくなるほどポップだった。こうして、さまざまな細部から映画全体の印象がていねいに積み上げられており、それは本作が絶えず放ちつづけるニューヨークの魅力と共振している。

わけても、シガニー・ウィーバー扮するヒロイン、ディナが住む高層アパートメントを、セントラルパークからとらえたショットはすばらしい。公園のあざやかな緑と、シックな建物の対比がうつくしく、こんな場所に住めたらさぞや気分がいいだろうと胸が高鳴るのだ。『ゴーストバスターズ』でニューヨークを知ることができてよかったとおもう。初めてアメリカ文化に触れたのが80年代だったことも、あらためて考えれば幸福だった。ややあって、『フレンチ・コネクション』(’71)や『タクシードライバー』(’76)といった作品を通して陰鬱なニューヨークを知ることになるが、そうした現実を直視するのはもうしばらく後でもいいじゃないかと僕はおもう。

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およそ120分の祝祭 最新映画レビュー

伊藤聡

誰しもが名前は知っているようなメジャーな映画について、その意外な一面や思わぬ楽しみ方を綴る「およそ120分の祝祭」。ポップコーンへ手をのばしながらスクリーンに目をこらす――そんな幸福な気分で味わってほしい、ブロガーの伊藤聡さんによる連...もっと読む

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コメント

sadaaki そういえば僕もこの映画でニューヨークと出会ったんだった。いいものを読みました。もう一度みよう! 約4年前 replyretweetfavorite

suchi おお、西手新九郎現象 約4年前 replyretweetfavorite

yomoyomo 今回も素晴らしい 約4年前 replyretweetfavorite

YusukeYoshino 映画の中のニューヨークの話し。ああ、また行きたい。 約4年前 replyretweetfavorite