30人の学生を前に何も言えなかった僕 ……
自信を失う背景には、だいたい人の評価が関わっていることが多くあります。
「人が怖い」というのは、誰もが持っている恐怖心です。
人に見られ、評価されることほど恐ろしいことはありません。
僕も、初めて人前で話したとき、本当に落ち込むことがあったんです。
ある日、知り合いの大学教員から「講義で小説について考えていることを話してほしい」という依頼が来ました。
初めてだったのですが、なんとかなるだろうと思い、なんにも用意せずに当日を迎えました。
大学の教室に入ると、30名くらいの学生さんたちがズラッと座っていました。そんな中、知り合いの先生 に、「じゃあどうぞ」と言われた瞬間に、僕は頭が真っ白になってしまった。
(あぁ、ヤバい ……)
気づいたら黒板に、自分でも良く分からない図を描いていたんです。
「これは本格的にヤバい」と焦るほど、生徒のほうが見られないんですよ。
一人でブツブツ言いながら、ずっと黒板を睨みつけて、なにかをガリガリと書いていって、
「僕みたいな中途半端な物書きがなにを言ってるんだろう ……」
「学生たちもきっと僕のことをバカにしている」
「もう帰ったほうがいいんじゃないか?」
とか、とにかく後ろ向きな想像が膨らんでいく。
10分くらいそうしていたら、一番前の学生さんが「はい」って、手を挙げたんです。
「良かった、助かった ……」と思って、「あ、はい、なんですか?」って笑顔で聞いたら、その男子学生 が、 「今日、僕は、こんな話を聞きに来たんじゃないです」
と、言ったんです。 その瞬間、部屋がシーンと静まりかえりました。
たまりかねた先生が「まあまあ ……」と助け船を出してくれたのですが、その後のことは記憶にありません。
もう完全にトラウマになりました。
本当に「二度と人前で喋らない」と痛感させられた経験です。
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