ポル・ポト(民主カンプチア首相)【第5回】理想を実践した末の惨劇

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。この連載では、世界の独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に反映させたのかを読み解いてゆきます。クメール・ルージュ政権下ですすめられる、現実を度外視した政治。惨劇を生んだそのめちゃくちゃさには、しかし、彼らなりの根拠がありました。(『独裁者の教養』より)

ポル・ポトの理想主義は、新人民の強制移住だけにとどまらない。
1976年1月、彼の政権は国名を民主カンプチアに改め、新憲法を発布する。
政権内部に司法や行政の経験者がほとんどいなかったせいか、新憲法はわずか16章21条という簡素なものだ。文中には「絶対に」「断固として」といった修辞語句がやけに目立ち、国家の大典というよりもベンチャー政党のマニフェストのような代物だった。特徴的な内容として、「有害な反動宗教」の禁止、「腐敗した反動文化」の禁止、すべての者が肉体労働に勤しむことの義務化、外国による内政干渉の拒否、などが挙げられていた。

だが、「有害な反動宗教」の禁止は、政権が「社会の寄生虫」とみなした仏教僧たちに還俗・強制労働を課すことを意味した。「反動文化」の禁止はすべての伝統文化と外国文化への弾圧、「すべての者が肉体労働に勤しむ」ことは頭脳労働の禁止と教育の廃止である。そして内政干渉の拒否は、人道目的での国際援助まで拒否の対象に含めたものだった。他に憲法には明記されなかったが、貨幣・市場の廃止、家族の解体による集団食事制度なども、クメール・ルージュ政権の下で進められた。
いずれも現実を度外視した政策だが、ポル・ポトの理想を強烈に反映したものだった。

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独裁者の教養

安田峰俊

悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たち。しかし、彼らは優れていたからこそ「独裁」を行えたはずです。そこで、この連載では、世界を代表する独裁者たちが、若い頃にどのような知識や価値観、思想などの「教養」を得て、それをどう国家支配に...もっと読む

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