数ヶ月前、かつてお世話になった方のお見舞いにいってきました。その方は5年ほど前にアルツハイマー病と診断され、2年前から施設に入院。
「去年の今頃まではね、30年前のつもりで話をすれば、また少しは会話が成立したのよ……」
僕を案内してくれた彼の奥さまの寂しげな表情。
僕のオヤジも、晩年にはすっかり記憶力を失ってしまっていました。聞いたばかりのことを何度も聞き返し、よく知っている近所の道で道に迷い、やがて転倒して大けがしました。加齢ととも記憶力の低下は避けられない……頭では判っていても、肉親のそんな姿を見るのは受け入れがたいものです。その人がその人でなくなってしまう。時折少しだけハッキリして、「その人」に一時的に覚醒する。しかし、徐々にその頻度が下がり、やがて「その人」は戻ってこなくなってくる。記憶の喪失がもたらす切なさ、哀しさ。
認知症は当人も周囲も本当に大変です。記憶力の低下を遅延させる技術が開発されたら、救われる人は本当にたくさんいるでしょう。漠然とそんなことを思っていたところ、なんと記憶力の低下を解決するテクノロジーの研究が着々と進んでいるというニュースを耳にしました。
記憶を「記録する」機械
南カリフォルニア大学のセオドア・バーガー(Theodore Berger)教授は、記憶を司る「海馬」をコンピュータチップで置き換えてしまう方法を編み出し、ネズミの実験でこれを成功させ一躍注目を集めました。