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「結局、ヤクザかよ!」
斎藤 でも、その学校から有名人も輩出されているわけですよね。
海猫沢 学者とかはいませんが、お笑いタレントとか、ビジュアル系のミュージシャンやスポーツ選手は出てますね。これはブラック企業の問題とも近いんですけど。ブラック企業の問題って、実はマッチングの問題でもあると思うんです。企業側が搾取しているという問題とは別に 、ブラック企業のような激しい職場と相性がいい人っていうのがいて、そういう人はけっこういい感じで働けるという。
斎藤 海猫沢さんは卒業したんですか?
海猫沢 さすがに地方で貧乏で中卒だと未来が閉ざされる気がしたので、必死で卒業しました。
斎藤 それはすごい。逃げるヤツとかも結構いるんでしょう?
海猫沢 三百人が入学して、卒業したのは半分の百五十人くらいかなあ。ただ、そういうのは、僕の時代がちょうど分水嶺にもなっていたみたいです。そのあとは、そこまでひどくはなくなったようですよ。ヤンキーより、おたくが増えたのかもしれない。
斎藤 その時期と一致するのかはわかりませんけど、ヤンキーが暴力を忌避するようになる世代交代があったようで、バイクも乗らないし、ただチャラく遊んでいるだけの集団に変質していきます。このあたりから不良文化とは無関係なヤンキーカルチャーが前面に出ていったともいえるわけです。
海猫沢 僕らの頃はとにかく暴力ばかりで、毎日殴られてました。それで、更生できたのかというと、上の世代には更生した人もいたみたいで。トイレを磨いているうちに心が入れ替わったというようなことを書いてある文集が残っていました。ただ、当時の進学率は〇・五%という、謎の数字だった。まあ、四時に起きて掃除して、毎日一〇キロ走ってたんですから、勉強なんてできるはずがない。進学しないでどうするかといえば、工場作業員か自衛隊かヤクザか……。結局、ヤクザかよ! って話になってしまう。
斎藤 ヤクザを送り出しているのでは更生したことにはならないですね。
海猫沢 そういう学校でしたから、その頃の知り合いには連絡を取りたくないというか、当時のことは思い出したくないですね。
斎藤 同窓会とかはないんですか?
海猫沢 ないない。誰も行きたがらないですよ。
被災地におけるソーラン節
海猫沢 斎藤さんの本では、戸塚ヨットスクール的な話から「母性」をキーワードにして展開してましたよね。
斎藤 そうですね。戸塚宏や長田百合子が引きこもりをかまおうとするのは、お節介といえばお節介なんですよ。ほっとけばいいのにほっとけずに手を出してしまう。「引きこもりを続けていて、親が死んだらどうする?」みたいに考えるからなんですが、それがすなわち母性だと思うんです。ものすごく介入しようとしてきて、すべてを仕切りたがる。トイレを磨いていれば立ち直れる、というような心身の連続性を強調した心でっかちは、いかにもな母性ですね。母性的な思考回路では、身体的な部分で伝えようとすることが多いんです。
それに対して、父性的な思考回路はもうちょっと知的であり切断的な面が強い気がします。「まあ、好きなように生きればいい」というようなスタンスですね。同じ厳しさでも、干渉する厳しさは母性に近づくけれど父性はむしろ、ばっさり切り捨てる厳しさですね。もともと家族主義の強いヤンキーには、父親の存在よりも母親の存在のほうがはるかに大きくなりがちになる傾向もみられます。
海猫沢 ヤンキーは一見父権的に見えますが、僕もあれは母性的だと感じます。ところで、臨床の場にヤンキーが来ることはあるんですか?
斎藤 ヤンキーが来るのはリストカットのケースなどですね。
海猫沢 リストカットをするのはおたくで、ヤンキーは根性焼きだと思うんですけど。
斎藤 ヤンキーもしますよ。自傷行為にはしりがちなタイプもいるし、解離性障害、つまり多重人格などの問題を抱えてくるヤンキーも多いんです。
海猫沢 臨床や教育の場においては、ヤンキーをどう更生させようとしてるんですか?
斎藤 非行はともかくヤンキー性は更生させる必要はないんです。ヤンキーの成熟形態というのは保守なんですね。保守というのはつまり「絆」です。ヤンキーは絆という言葉が大好きで、それを重視する。だから、そこで成熟した人たちは、あんがい被災地で活躍しているような面があるわけです。海猫沢さんの話につながりますが、それこそソーランをやって、そのまとめ役として機能するなどして。
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