店主が死んだら食えなくなる味
久住昌之(以下、久住) 銭湯の近くに飲み屋があるところって、いいですよねえ。
玉袋筋太郎(以下、玉袋) そのセット、いい! 目の前にラーメン屋があったりすると、たまらんですよ。
久住 お風呂から店に流れる人の群れがいて、おもしろいんだよね。
玉袋 御徒町に燕湯っていう銭湯あるじゃないですか。『ふらっと朝湯酒』にも出てきますけど。
久住 そうそう、その近くにあった「御徒町食堂」について書いたんだけど、なくなっちゃったんだよね。残念。
玉袋 食堂のごはんって、そこのおやじとかおかみさんが死んじゃったら、もう食えないじゃないですか。だから、その一食をものすごく大切に食べるようにしてる。
久住 食堂はいいよね。土曜日とか、みんな昼間から飲んでるんだよね。競馬新聞見ながらさ。こないだ行ったところもそんな感じで、よかったなあ。しかも、自分でおかず持っていく形式だったんだよ。
玉袋 それいい! しらすおろしとか、ついついとっちゃうんだよなあ。水がちょっと抜けてる冷奴とか。
久住 そうそう。その取ってきた小鉢でちょいとやってから、焼き物を頼む。
玉袋 銭湯の近くの飲み屋って言うと、俺、沼袋によく行く銭湯があるんだけど、銭湯の横がすぐもつ焼き屋なんですよ。その名も「ホルモン」。店の名前がそのまんまなの(笑)。そのホルモンに、必ず同じ席に座ってるオヤジがいるんです。のそっと入ってきて、どんと座って。頼むものは大体決まってるから、何も言わなくても出てくる。空のコップとケミカルな焼酎の大瓶。で、横に梅シロップがあるんだけど。
久住 ああ、梅シロップ! それを入れて飲むんだよね。
玉袋 ぐーっとついで、ぐーっと飲む。その所作がね、もうほんと決まってる。店に入ってからの一連の動作が、毎回変わらないんですよ。で、1000円だけ飲んで帰っていく。いやーあのおやじはいい。
久住 僕も小田原のそういう飲み屋に行った時に、座ろうとしたら「あ、そこは◯◯さんの席だから」ってお店の人が言うわけ。で、その一番端の席をよく見たら、その人の調味料がカウンターに並んでた(笑)。
玉袋 わははは、マイ調味料だ。
久住 そしたら10分くらいして、すーっとおじいさんが入ってきてそこに座ったんだよね。もう何十年も来てるんだって。吉祥寺の焼き鳥屋の「いせや」も、最近改装したけど、それまで絶対毎日来ている人たちがいた。「いせやの会」っていって、台風の日も来てた。そのメンバーの誰かが来なくなったら、それは亡くなったってことなんだ。ほんとに死ぬまで通うんだよね。
荻窪ラドンセンターでの至福の時間
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