第12回】雇用はなくとも株価で貢献 アップルと米国人の暮らし

ごく普通の米国市民にとってアップル株がドル箱になる時代。それを反映するかのように、この8月、アップルは時価総額6235億ドルを記録した。1990年代後半のマイクロソフトの記録を抜き、「史上最も価値のある企業」となった。昨年夏にティム・クックがCEOになって以降、ジョブズの死を挟んでも、アップルの株価は2倍近くになっている。

「史上最高の価値を持つ会社」に
頼り切る米国経済

長野美穂(ながの・みほ)/ジャーナリスト 早稲田大学卒業。出版社勤務を経て渡米、ノースウェスタン大学大学院でジャーナリズムを専攻。ロサンゼルスの新聞社で記者を務め、フリーのジャーナリストとしても活動。

 iPhone5がアップルストアの店頭で発売になった9月21日の早朝。全米各地の店の前に徹夜で並んだファンたちの姿を米メディアが「iPhone5 Craze」の見出しで報道した。同じころ、ミシガン州の田舎町に住むダグ・メルビンさん(68歳)は、都会の喧噪をよそに朝靄の中で、馬たちに干し草を与えていた。

 メルビンさんの2頭の馬が眠るのは、新築したばかりの馬小屋。自宅の倍以上の大きさの馬小屋を建てた資金のうち、約2万ドルはアップル株によるもうけだ。

アップル株で建てた馬小屋の前で。かつて労働組合員だったメルビンさんは「フォックスコンの労働者に申し訳ないと思うべきなんだろうけど」と

 「2010年の1月末にスティーブ・ジョブズが最初のiPadを発表したよね。その少し前に、アップルが新製品を発売するとテレビで見た。それがiPadだとは当時知らなかったわけだけど、新製品が出るたびにアップルの株価が上がるのは気付いてたから、1株205ドルだった日に100株買ってみた」

 メルビンさんは財テク雑誌を読むような投資家ではない。iPhoneは持たず、最新ガジェットにも興味なし。地元の短大で長年美術教師として働き、現在は年金を受け取るごく普通のリタイアの身だ。ミューチュアルファンド(投資信託)などの資産運用は運用会社に任せっきり。しかし、アップル株は別だ。

 メルビンさんが母の遺産から2万0500ドルをアップル株に投資した直後から、株価は上昇を続け、今年の1月には400ドルを突破した。株価が410ドルになったところで50株売り、元手の2万0500ドルを取り返して、それを元に馬小屋を建てた。

 そしてこのiPhone5の予約開始後に、アップル株は700ドルの大台を突破した。今残りの50株を売れば3万5000ドルの現金になるが、どこまで株価が上がるか楽しみに見届けたいという。

 「これこそキャピタリズムだね。自分の額に汗して働かないでもうけるのは、ちょっと罪悪感があるけど。近所のカジノで賭けるといつも必ず負けて損したのに比べれば、アップル株は最高だよ」

iPhone5発売が
米国GDPを押し上げる

 ごく普通の米国市民にとってアップル株がドル箱になる時代。それを反映するかのように、この8月、アップルは時価総額6235億ドルを記録した。1990年代後半のマイクロソフトの記録を抜き、「史上最も価値のある企業」となった。アップル株がナスダック100指数に占める割合は現在12%。さらにS&P500の約5%を占めるまでになった。

 昨年夏にティム・クックがCEOになって以降、ジョブズの死を挟んでも、アップルの株価は2倍近くになっている。

 アップルの米国国内での従業員数は4万7000人。この規模の一企業が、ここまで市況の動きを強く牽引するのは例外的だ。JPモルガンのチーフエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は「iPhone5の売り上げが、第4四半期の米国のGDPの伸び率を最大0.5ポイント押し上げる可能性がある」と発表し、話題を呼んだ。

 一方、米国の失業率が8%を超える中、米連邦準備理事会のバーナンキ議長は、住宅ローン担保証券の無期限購入策をQE3として実施すると発表。失業率が下がるまでの策だが、iPhone5とQE3、どちらがより景気回復に役立つかという議論もあるほどだ。

 その一つが、アップルは米国国内に職をつくり出すのに貢献しているのか、という点だ。

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この連載について

日本を呑み込むアップルの正体【4】~栄華はいつまで続く? アップルの向かう先

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日本と同様、米国経済もまた、アップル頼みの様相を呈している。史上最高の時価総額をたたき出した米国を代表するハイテク企業の行く末に、政界も産業界も、一般投資家も興味津々だ。※この連載は、2012年10月6日号に掲載された特集を再編集した...もっと読む

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