逡巡」第3回 — もっとユニークで、最高の食事があるはずだ

Twitterのフォロワー6万以上、日々トガったツイートで人々を魅了する鬼才、ダ・ヴィンチ・恐山。ウェブの世界を飛び出して大喜利やマンガでも活躍する彼が、品田 遊(しなだ・ゆう)として、初の小説連載をcakesで開始しました。(連載をまとめた単行本はリトル・モア社から刊行予定)
食欲を満たすのは、こんなにも難しいのか…… 腹を空かせて電車に揺られ続けた男が、ついにたどり着いた結論とは?前回はこちらから→「逡巡」(2/3)

 「健康」という言葉が脳裏をよぎった。もっと若いころは念頭にも上がらなかった熟語だが、最近は下腹の膨らみとともに切実に迫ってくる。天丼が健康に良いというイメージはあまりない。いや、これはイメージに過ぎず、一概に天丼が健康に悪いとは言えないはずではある。たとえば、一週間天丼だけ食べ続けた人と、一週間なにも食べなかった人を比較したならば、天丼を食べていた人のほうが健康だろう。しかし問題は「健康に悪そう」という発想そのものなのだ。ほんの僅かなためらいが、欲望のトリガーを引くのをためらわせてしまう。求めているのは最適解なのだから、ためらいを生じさせた時点で失格である。

 牛丼・親子丼・海鮮丼・ハンバーガー・ステーキ・ピッツァ・中華料理全般が、前述の理由により失格となった。これでかなり選択範囲が狭まってきた。人間が何かを選択するときは、欠点のほうが目につくようにできているらしい。残るは「ヘルシー」とされる食べ物群ということになる。

 しかし、これが難物である。あっさりとした食べ物は、衝動的な食欲を呼び起こすのに不向きなのだ。わたしはいままで「あ~、なんか精進料理食べたい」と突然言い出す人間を見たことがない。

 まず、精進料理は論外とする。何も精進するつもりはないし、どこで食べられるかもわからない。それでは、定食はどうか。ご飯に、焼き魚に、味噌汁に、納豆、それと漬け物。丁度よい塩梅に俗っぽく、いわゆるヘルシーとも合致している。これをファイナルアンサーとすべきか。

 いや。しかし。

 まだ何かがわたしをためらわせる。それは「ふつうすぎないか」という思いだ。たしかに焼き魚定食は堅実で、よい選択だ。だけれど、本当にそれが最高の答えなのだろうか? あらゆる場合に言えることだが、安全な選択はしばしば、その無難さによって魅力を曇らせる。そして人々をリスキーな冒険へと導くのだ。わたしにも、そんな危険な思想が潜んでいたらしい。定食なんて、ダメだ。ふつうすぎる。もっとユニークで、最高の食事があるはずだ。

 そんなものは、ない。

 わたしは頭を抱えた。消去法によって全ての可能性を消去してしまった。規則的な列車の揺れによって、胃の空白がまた主張をはじめる。もはや、わたしにはゆっくりと餓死していく以外の道は残されていないように感じた。

 そのとき、ツンとした刺激が鼻孔を突いた。

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dinosaurimpact そうだ、精進料理を食べよう 第2回 約4年前 replyretweetfavorite

RegulusAlpha 有実泊さんの小説更新きてます https://t.co/3bF310o6LH 約4年前 replyretweetfavorite